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「ママ、けー」「けっぱれ」 津軽弁がしみる映画「いとみち」

9月も後半になりましたが、
あなたは今年、映画館で映画を見ましたか?

コロナ禍では、
映画館に行くことをためらう方も
いらっしゃるでしょう。

わたしも、しばらくは控えていました。

今でも、家から歩いていける、
1箇所の映画館にしかいきません。

その映画館で、今日まで上映されていた
「いとみち」は、
絶対に見たいと思っていた映画でした。

越谷オサムさんの原作も
人気だそうですが、
わたしはこの映画で初めて
この「いとみち」に出会いました。

「いとみち=糸道」とは、
日本国語大辞典によると

1)常に三味線を弾く人に、弦の摩擦によってできる、左の人差し指のつま先のくぼみ。
2)三味線などを弾く技能。三味線の年期や巧拙の程度。
多く「糸道がつく」の形で、三味線の技術が身につく意で用いられる。」
とのこと。 

この映画の主人公・相馬いとは
筋金入りの濃厚な津軽弁を話す高校生。

津軽三味線の名手の祖母、母から受け継いだ
三味線の才能を持つ、
話すことがあまり得意ではない女の子です。

(いとが小さい頃に、
母は他界しています) 

もちろん、この映画の中で
津軽三味線の存在感も大きいのですが、
何と言っても、
人の関わり方があたたかい。

いとの祖母役の西川洋子さんは
高橋竹山さんの最初のお弟子さんなのだとか。

津軽三味線の名手であることは
もちろんなのですが、
これが初めてのお芝居とは思えないほど、
本当に自然なおばあちゃんでした。

いとの手を触るさま、
あまりベタベタせずに
愛情を示すところなど、
しみじみとおばあちゃんの暖かさが
伝わってきました。

このおばあちゃんも
バリバリのネイティブ津軽弁で話すのですが、
とにかく映画全篇がオール津軽弁なのです。

ところどころわからない言葉も
あるのですが、
何度も出てきて
「ああ、いいな」
と思ったのは、いとの祖母がいう
「ママ、けー」
という言葉。

「ご飯を食べなさい」
ということなのですが、
このおばあちゃん、
いとの父(大学教授)の学生が来ても
「ママ、けー」
とせっせとご飯を出し、
孫のいとにも
「ママ、けー」と声をかけます。

いとが出かけようとすると
玄関脇に置いてある干し餅を
「け」
といって持たせます。

うちの母もそうですが、
ある程度以上の年齢の女性たちは
どうも人に食べさせようとする人が
多い気がします。

家族だけでなく、
若い者が来ればお腹が空いているだろうと
ご飯を出し、
娘の友達が遊びに来ていればおやつを出したり、
自分が出かけるときにも
「冷蔵庫に●●が入っているから」
と言い、
娘が出かけようとすれば
食べるものを持たせようとする。

実際に、わたしも友達のお母さんや
年長の女性にしていただいたことが
たくさんあるのですが、
おばさまたちは
落ち込んでいる人がいれば
「これを食べなさい」
と甘いものを差し出したり、
「これ、持って帰りなさい」
と持たせたりする。

それは思いやりであり、
愛情なのですよね。 

この映画の中でも、
いとの祖母だけでなく、
やはりそんな女性たちが
出て来ます。

主人公・いとは
言葉にして気持ちを伝えることが
上手ではないのですが、
胸の中には様々な思いがあり、
メイドカフェのアルバイトや
友人の出会いを通じて成長し、
父とも向き合えるようになります。

豊川悦司さん演じる
いとの父が、
初めて娘が働くメイドカフェを訪れた時、
いとは店長に頼んで父のために
自分でコーヒーを淹れ、
お店の自慢のアップルパイと一緒に
父の前に並べます。

そんな娘に父がかけた言葉は
「けっぱれ。」

父が帰った後のテーブルには、
綺麗に完食したお皿の脇に
「め」と書いた紙ナプキンが。

「め=うまい」。
なんだか泣けてきてしまいました。

映画の中で
「おらんどみんな不確かだ。
生きるってそういうことだべ・
みんなで頑張るべや」
というセリフがあります。

本当に、今、みんなが
不確かな中でもがいている。

でも、
「ママ、けー」
とあたたかい気持ちをかけてくれる人、
いつもは言葉にしなくても
「けっぱれ」
とそっと応援してくれる人は、
必ずいる。

だからこそ、
自分のためにも、
周囲の人のためにも、
がんばって生きたいですよね。

この映画、しみじみと良い映画でした。

俳優さんたちも素晴らしかったし、
いとと祖母が弾く津軽三味線も
本当に素敵だったし、
ところどころ意味がわからなくても、
津軽弁のあたたかさは心地よかったし、
どーんと存在感のある岩木山も
いとの家の近くのリンゴ園も、
「ああ、青森に行ってみたい」
と思わせてくれたし・・・。

夢中になって見ました。 

吉祥寺での上映期間は短かったけれど、
この映画に今出会えて、本当に良かったです。

今回も最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。

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