「もったいない」や「思いやり」はどこへ。
月曜日、吉祥寺で映画
「東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート」
をみた後、青山真也監督の舞台挨拶がありました。
また、作家の森まゆみさんなどとともに
「神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会」
の共同代表を務める建築家の大橋智子さんも
少しお話されました。
(大橋さんはこの映画の中にも登場しています)
建築家の大橋さんは
新国立競技場の案として
のちに白紙となるザハ案が選ばれた時、
「あの地域にこんな大きなものが
建つはずがない」
と思ったそうです。
そして、それをきっかけに、
「神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会」
の活動を進めることになったのです。
この会は国立競技場を建て替えるのではなく、
元の国立競技場を改修・リデザインして、
「風致地区とその景観を守るとともに、
日本の誇る『もったいない』 という
物を大事にする美風、
江戸からのリサイクル・リユースの伝統を
世界にアピールする、
環境にローインパクトな国立競技場計画」
を要望していました。
ですが、ザハ案は撤回されたものの、
結局は国立競技場は建て替えられることになり、
都営霞ヶ関アパートも
解体されることになったのです。
映画の中で、忘れられないシーンがありました。
アパートの住人の中に、片手がなく、
もう片方の手にも障害がある男性がいました。
この方は手を借りられる部分は
借りたかもしれませんが、
基本的には一人で荷物を箱詰めし、
エレベーターのないアパートで
箱を一つずつ、一人で階段を引きずるように
運びます。
男性が箱ごと階段から転がり落ちるのではと
見ていてハラハラしました。
そして、1階まで下ろした箱を
一人で荷物用のリヤカーに苦労して積み、
一人でそれを引いて移転先まで運ぶのです。
唖然としました。
障害がある人に
移転期限までに引っ越せというなら、
それを可能にするサポートをして
しかるべきなのに、
都からは何のサポートもなかったのです。
男性が一人でリヤカーを引いて歩いていると
後ろから、野球部員らしき男子高校生たちが
20人以上はいそうな集団で
ランニングをして来ました。
「これだけの若い子たちが手伝ってくれたら、
このおじさんも助かるだろう」
と思って見ていたのですが、
高校生は誰一人としておじさんに声をかけず
手も貸しませんでした。
あれだけの人数がいたら、
おじさんの肩からぶら下がる服の袖を見て
おじさんには片腕がないことに気がつく子が
一人くらいはいそうなのに。
おじさんも、自分からは
高校生に声をかけませんでした。
もしかしたら、おじさんはこれまでも
簡単に人に助けを借りることをせずに
極力一人でなんとかしてきたのかもしれません。
でも、もし誰か一人でも
「おじさん、僕たち、手伝おうか?」
と聞いていたら、
おじさんも頼めたかもしれないのに。
自分自身も肝に命じなくてはいけませんが、
障害を持つ方や高齢の方、
誰かの助けを必要とする方に
当たり前に配慮できる人でいたいですね。
そして個人だけではなく、国・社会も
人に配慮をすることを忘れないでほしいです。
霞ヶ関アパートの移転期限は1月末で、
住人たちはいちばん寒い時期に
引越しすることになり、
高齢者にはそのことも体にこたえるようでした。
それだけではなく、
故郷のようなコミュニティを離れる寂しさ、
散らかっているように見えても
暮らしなれた家を離れて
慣れない住まいで暮らす不安、
引越そのものの大変さ、
数十年暮らすうちに溜まった懐かしい物も
捨てなくてはいけない悲しさ。
引越しを控えた女性が電話を受けて
「すごく大変なことやってる。
泣きたくなる。やだねえ。」
と話しているのを聞き、
わたしまで泣きたくなりました。
この映画には、2度の東京オリンピックで
2度の立ち退きを迫られた男性も出てきます。
この方は東京新聞の記事の中で
(2021.8.8付「五輪が奪った私の暮らし
国立競技場工事で2度立ち退き」)
このように話していました。
「地域の催しで交流を育み、
年を取れば同じ高齢者の相談相手になった。
『だんなの愚痴を聞いたり、
終活の相談を受けたりね、
いろいろお付き合いさせてもらった。
人生の宝です』」
アパートの住人の方達は
引越し後に亡くなった方も多く、
この男性の奥様も2年前に亡くなり、
映画の冒頭で
「私たちがどいて
オリンピックが開催できるんだから
招待チケットくらい欲しいわ」
と話していた女性は、
移転後まもなく脳梗塞を起こし、
亡くなったそうです。
映像の中の人々の様子は
たんたんとしているのですが、
だからこそ、胸に迫ってくるものがありました。
今回も最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。
*上演後の監督舞台挨拶の後、ロビーで
青山監督と大橋智子さんに
映画パンフにサインをいただきました。
お二人と少し映画のお話ができたことも
ありがたかったです。
カフェで書き物をすることが多いので、いただいたサポートはありがたく美味しいお茶代や資料の書籍代に使わせていただきます。応援していただけると大変嬉しいです。