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石鹸とアートとポート・サンライト

1997年の8月の終わり(まさに今頃)、
英国・リヴァプールを旅していました。 
 
リヴァプールといえばビートルズ、
のイメージが強いと思うのですが、
実はリヴァプールには美術館・博物館が多いのです。 
 
しかも、ラファエロ前派の作品が
かなり充実しています。 
(もちろん、それだけではありませんが) 
 
主だったところは歩いて回れる距離ですが
「Lady Lever Art Gallery」
(レディ・リーヴァー・アート・ギャラリー)
だけは、地下鉄に乗って
近くの「ポート・サンライト」(Port Sunlight)
という町に行きました。 
 
建物自体も美しいその美術館は
リーヴァー卿が愛する妻を亡くし、
彼女に捧げて作ったものだそうです。 
 

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ただし、美術品の収集自体は
その前から始めていました。 
 
実はリーヴァー卿は「サンライト石鹸」という
石鹸を作っていた会社、
Lever Brothersの創設者だったのです。 
 
1880年代半ばに生産を開始した
このサンライト石鹸、いろいろな意味で
画期的な商品でした。 
 
パーム油などを取り入れることで
それまでの石鹸よりも泡立ちやすくなり
石鹸で洗い物をしていた主婦の
時短グッズとなったのです。 
 
また、この石鹸は人々の暮らしを衛生的にすることにも
貢献していったのです。 
 
さらに、それまでは石鹸は
長いバーとして売られていて、
雑貨店に行って買うときに切ってもらっていたのですが、
サンライト石鹸はすでに切られて
デザインも美しいパッケージで 
個別に包装されていたのです。 
 
サンライト石鹸は売り方・ブランディングにも
成功していたのでした。  

石鹸とLeverさん


さらにリーヴァー卿は
家庭の主婦の目を引きそうな絵画を探し、
それをコピーして
商品名とスローガンを加えて
石鹸の宣伝に使う、という手法で
成功を収めます。 
 
著作物を無断で広告宣伝に使うこと自体、
今なら考えられないことですが
当時はほとんど問題にならなかったのだとか。

(それでも、「絵の意図と違う」と抗議する方も
当然ながらいたそうです)。
 
こうして、彼は近代的な広告のパイオニアとしても、
成功を収めたのです。  

そして、当初はビジネス目的のために集めていた美術品も、
その後は自分自身の楽しみのために
収集するようになったのでした。

ですから、この美術館は
リーヴァー卿が個人的に収集した美術品を
もとにしているのです。

収蔵作品には石鹸会社の宣伝に使用された絵画だけでなく、
ラファエロ前派の作品その他の様々な絵画、
家具、日本の鎧兜まであり、
ウェッジウッドの陶器ジャスパーウェアのコレクションは
世界随一とまでいわれています。 

さらにいうと、この「ポート・サンライト」という町は、
自社の石鹸工場で働く人たちのために
リーヴァー卿が作ったものでした。

(町の名前も石鹸からきています)

さて、あなたは「石鹸」「リーヴァー」と聞いて、
何か気がつきませんでしたか?  
 
実はわたしは、この美術館を見たとき、
この大事なことに気がついていなかったのです。
 
実はリーヴァー氏の会社は、
当初は「リーヴァー・ブラザース」という会社でしたが、
その後合併によって「Unilever(ユニリーバ)」となるのです。 
 
もうお分かりですね。 
LUX(ラックス)、DOVE(ダヴ)、LIPTON(リプトン)など、
わたしたちが日頃お世話になっている商品を扱っている
「ユニリーバ」の創始者が、ポート・サンライトを作り、
Lady Lever Art Galleryを亡き妻に捧げ、
妻の名前を美術館の名前にしたのでした。  
 
ユニリーバ社の会社案内によると、
サンライト石鹸の箱には
リーヴァー卿のこんな願いが記されていたそうです。 

 石鹸の箱

「この石鹸を使う人の誰もが
清潔な暮らしを送れますように。
 
毎日の家事がもっと楽になりますように。
 
健やかで美しく、充実した暮らしを
楽しめますように。」 
 
そして、会社案内には、あのポート・サンライトのことも
このように書かれています。 
 
「1880年代、(中略)・・・リーバ卿は
彼の石鹸工場で働く人のために、
学校や病院のあるひとつの町を作りました。 

それは、石鹸を使う人と同じように
作る人たちにもまた
暮らしを充実して欲しいという思いからでした。」 
 
またいつかリヴァプールを訪れる日が来たら
以前行った時とは違う視点で
ポートサンライトを歩き、
Lady Lever Art Galleryを
楽しみたいと思います。 
 
今回も最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。 
 
(石鹸の箱とリーヴァー卿の写真はユニリーバ社のHPから、
美術館の写真はNational Museums Liverpoolのサイトより
お借りしています)
 
*「人生よかったカルタ・こども編」   
 
今回は、「へ」、
「ヘマばかりしてよかった」。 
 
どんな理由でも良いので、
(フィクションでもいいので、) 
「よかった」理由を考えて見てくださいね。  

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わたしの解答例は
「『疲れが溜まっている証拠だ。
無理しないで休もう』と思えたからよかった。」
あなたはどんな「よかった」理由を考えますか?
ぜひ、聞かせてくださいね。

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