見出し画像

月へのラブレター

夜空に浮かべた色褪せた音色
貴方がいたあの頃を綴じた頁が
カラカラと映写機に廻る

傍らには何度も書かれては消されて
しわしわになった羊皮紙
頭の中ではこんなにつらつらと出てくる言葉が
筆を取った瞬間から形にならず
指先から溢れて霧散していく

……何を思っていたの
何を考えていたの
最期の時は何を願っていたの

頭中を一端に埋めつくしたあの刹那
傍に来てくれていたんだろうか

問いかけても
心のうちは取り留めもなくて
1人1人ちがう宇宙だから
小さな星屑の欠片に触れるように
今日も自分勝手な答えが
浮かんでは流れていく

最後の夏花火の下
「月にいく
星は流てしまうものもあるけど月ならずっといる」

そう遺したから
いつも探してしまうんだ
自問自答でも
口に出さなくても
語りかけてしまうんだ

生きたい
逝きたくない
だったんだろうか

それとも……
幸せ、なんだろうか
心配、だったんだろうか
ごめん、なんだろうか

もし、ごめん、なら
そんなことない
そんなことないんだよ……
どうか謝らないでほしい

短くとも少なくとも
貴方と過ごせた時間の中で
貴方の娘としていられたことが
どれだけ嬉しかったか
どれだけ、幸せだったのか

膝の上のドライブも
共に歩いた海辺の道も
はしゃいだ防波堤も
怒られた夏の日に見た逆さ階段も
走るのが苦手なまま駆けた後の水の喉越しも
初めて応援に来てくれた試合も
教えてもらっても、ちんぷんかんぷんだったポーカー
ついでに聞いたポーカーフェイスの心得の方が興味深くて

煙草の香りも珈琲の味も
薔薇のエピソードも
初めて教わった花言葉があるということも
貴方なりの女性へ接する心構えやエスコート理論も
大冒険のような航海の話も
怖さや苦痛を隠さず話してくれた死生観も

蓋を開くように 溢れ出す
忘れえないことも
引っ張り出されるように 想い出したりもする
貴方がいた確かな欠片は
私の中に根づいて
こんなに沢山遺してくれている

でも
本当は話したいよ
もう一度だけでも
貴方の声で
貴方の言葉で
貴方の想いを
聞いて…
話したい

一緒に呑みたかったね
一緒に観たかったね…… 

喉に詰まって言えなかった言葉
いかないで、と
いやだ、と
それを言ってしまえば……
未来を見る心を遠のけて
明確に近づく影を引き寄せるんじゃないかと

今なら分かる
ただ、怖かったんだ
切なくて指先まで痛くて
口に出してしまったら
泣き出しそうになる自分を抑えられないのも
嫌だった

花火を見る横顔が
その瞳が
遠くの何処かを見ているようで
まだ歩ける貴方との散歩を続けていたかったんだ

本音はもっと、甘えたかった
駄々を捏ねてみたかった
素直ではない無口な拗ね方
それでも赦してくれたのは
口から出したくない言葉の言い換えを
待っていてくれたからなんだろう 

「頼んだぞ」
そう云って いつも航海に出ていたのは
私の中の僕も信じてくれていたからなのか

声にすると違和感で
またこうして詠えないから波に乗せるんだ

貴方を想う時
雲間から月が覗くから
どうか今は安らいで満たされていてほしい
そしてどうか……幸せに

貴方へ続く歌を
詩ってくれる人がいるから
遠く 遠く 戻れない日々も
大切な宝として想いながら
生きられるよ

「愛してるに決まってるだろ」
臆せず伝えていた貴方のように
私も思いを込めて祈るよ

ありがとう……
ごめんなさい……
いつの日も貴方の幸せを
感謝と尊敬を

愛しています




……………………………………………………………………………
お借りした写真:黄色く映ったバージョン。
出典:coronet様
……………………………………………………………………………

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?