Determinataion 第1話「善衣と悪魔」


あらすじ(253文字)
20年前に突如現れ、人々を襲いだした悪魔。彼らに現代兵器は効かず、有効なのは『善衣』と呼ばれる衣服をまとった攻撃のみ。
身に着ける人の意志の強さに応じて様々な力を発揮する夢の衣服。
それをまとって悪魔と戦う人々を『勇者』と呼ぶ。
中学3年生の鶴木 真衣(つるぎ まい)は金稼ぎを原動力に日々悪魔狩りに勤しむ中で、椿(つばき)と名乗る悪魔のボディーガードをする事に。
担任の先生や同級生を巻き込みながら、椿を狙う刺客との戦いを通じて、戦う理由や幸せについて、憧れやコンプレックスに向き合い強くなっていく少女達の物語。

第1話 「善衣と悪魔」(12,212文字)

()は漫画の演出方針。

冒頭

(頭を撫でられる子供からの視点。親の顔は白く塗られており、よく見えない)
いいか真衣、お金を稼ぎな。この世の中、金があれば何でもできる。美味いもんが食えるし、病気も直せるし、金が金を呼んで増えていくんだ。だからお前は金を稼げ。そんでその金でお前は―

『善衣』の力


(2人の女子中学生。制服を着て、談笑しながら街を歩いている)
(その2人の横を2足歩行で足早に逃げる亀。息を切らしている)
「待てやこらぁ!」
(2人の横を今度は制服の少女が追いかける。鞘に収まった刀を持って走っている)
「動物型は5万~10万…今日はついてる!」
(少女、追いつく)
「しつこいぞ小娘!私をなめるなよこの…」
(手足を折り畳み、甲羅で体当たりしてくる)
「人間風情がぁ!」
(回転して向かってくる)
(亀と少女との間に女性。悲鳴を上げる)
「大丈夫!」
(少女、素早く移動。腰を抜かした女性を飛び越し、刀を腰に当て、勢いよく抜刀)
(黒い血しぶきをあげ、亀が真っ二つになる)―①
(周囲、どよめき。)
「すげぇ~!!あんなに若いのに『勇者』かよ!」
(先ほどの女子2人のうち、ショートボブの方、羨望のまなざし)―①A
(亀を倒した少女、満足げ)
「よし!多分7万円!」
(ガッツポーズの後、女性に手を差し伸べる)―②
「鶴木~!」
(遠くから怒った様子で白衣を着た女性が走ってくる)
「あ、先生。お疲れ様です。」
「お疲れ様ですじゃないわよ!補習サボったと思ったらまた勝手に戦って!」
(半分に切った亀をロープで1つに縛りながら喋る)
「まあまあ見てよこのサイズ!これいくらになると思います?私の見立てだと7万円は固いと見たね。亀だけに。」
「バカ鶴木!値段の話をしてんじゃないの!危ないでしょ!」
(げんこつ。女子高生うずくまる)
「痛っ!大丈夫ですって。私は将来『勇者』になるんすから!」
(頭を押さえながら立ち上がり、制服に手を当てる)
「この制服は『善衣』仕様!身に着ける人の心の強さが、悪魔と戦う力になる!『善衣』をまとって悪魔と戦う『勇者』は、小学生のなりたい職業ランキング1位ですよ?」
(先生、ため息を吐く)
「ほんと、何があんたをそこまでさせるの…」
(両目が¥になり輝く)
「お金ですね!」
「洋服、化粧品、パンケーキ、おしゃれなカフェ!これ全部お金で買えるんですよ!稼いで自分の好きなように生きる!これが私の力です!親父もそう言ってたんで!」
(再びため息)
「その情熱を少しでも勉強に傾けてくれれば…そうだ補習!あんた補習サボったわね!」
(スマホを取り出してスケジュール確認)
「あ~…夕方と夜は悪魔が湧いて稼ぎ時なんで、明日朝6時に教室で!じゃあこの後も3件ほど控えてるんで!2桁万円チャンスなんで!」
(じゃ!と軽く敬礼し、足早に走り去る)
「鶴木~!明日絶対来なさいよ~!」

悪魔との邂逅


(早朝の教室)
「おはようございま~す!っと、先生まだ来てないか。」
(欠伸をしながら、机に突っ伏す。寝ぼけながらもホクホク顔)
「昨日は良い稼ぎになったなあ。暑い季節は懐も厚くなるってね~♬…先生まだ来ないみたいだし、放課後に備えて仮眠しとくかぁ」
鞄を枕にして伸びをすると、突然教室の真ん中に黒いしみが現れ、中から同年代くらいの女子が出てきた。
「よいしょ。…あ。」
2人は目が合い、しばし固まる。
(伸びをした鶴木が固まり、頭の中に様々な単語が浮かぶ)
早朝 教室 女子 人間? 角が生えてる 翼が生えてる 結論
制服の裾から、刀を取り出す。
枕にしていた鞄を投げつけ、机の上に飛び乗って一気に距離を詰める。
「人型は3桁万円!!!※人型悪魔の討伐報酬は100万円から」
「うわっ、いきなり何!?」
悪魔が右腕を振るうと、先ほどの黒いシミが発生した。
シミは鞄を吸い込み、バキバキと音を立てた。
これはやばい―咄嗟にシミを切る。バツンッ!と激しい炸裂音がした。
「え…?これ切れんの?」
驚く悪魔。
切れた!この距離なら
(一歩踏み込む)
殺れる!
(机の上から切りかかる。が、素手で止められる)
白羽どり!?驚いたのも束の間、
「良い器、みーつけた♪」
ニヤリと悪魔が笑い、刀が黒く染まっていき、真っ黒な光が教室全体を覆った。
(先生、教室に入ってくる)
「鶴木!なんか凄い音したけど、大丈夫!?」
(教室の真ん中で天を仰ぐ鶴木。先生が声をかける)
「鶴…木?」
鶴木、ニヤリと笑う。
「そう…この子、鶴木っていうんだ」
違う。こいつは鶴木じゃ…そう思い、銃を取り出そうとすると、直後に左足に鋭い痛みが走った。距離を取ろうとするも、身体が動かない。
足を攻撃してきた何かは女子高生のソックスに戻っていく。
それは、黒い羽であり、よく見ると背負ってる鞄からも羽が生えていた。
髪には普段入っていない赤ピンクのメッシュが入っている。
こちらを振り向き、気持ちよさそうに伸びをしてみせた。
「お姉さん、もしかしてこの子の先生?」
「この子、人の顔みるなり金額言いながら切りかかってきたんだけど。どういう教育してるの。」
最悪だ。生徒の身体を―乗っ取られた。
「まあいいや。そんなとこで固まってないでさ、先生ならここにいるもんでしょ。」
鶴木の姿をした何かが手招きすると、身体が勝手に動き出す。
教卓に立たせられる。
「う~ん、良い眺め」
青ざめる先生。対照的にニコッと笑う悪魔。
「ねえ先生、私と契約しよ♬」

悪魔との契約


「おっと、その前に」
指パッチンすると、廊下が一面信号機のような赤色に染まった。
銃を指さして続ける。
「それ、『善衣』って言うんだっけ?それ着けてると岩を切ったり、火を吹いたり、普段出来ない事が出来るようになるんでしょ?」
「当然、人間に出来る事は私たち悪魔にもできる。私だったらこんな風に、空間を作ったり別の場所に動かしたりできる。」
(廊下の方に目をやる)
「教室の外はもう先生の知らない世界だ。」
こいつ、ペラペラと自分から力を喋り出した。何のつもりだ?
「あんた、どういうつもり?殺すならさっさとしたら?」
悪魔は大袈裟に肩をすくめて見せる
「分かってないなあ。ただ殺すだけの為に能力見せたり話しかけたりしないって。契約には、信頼関係が必要でしょ?だから私は自己開示をしたわけ。」
鶴木の顔で、にっこりと微笑みかける。
「ね、次は先生の番。色々教えて?名前とか、趣味とか、力とか♬あ、彼氏とかいるの?」
身体は…まだ動かない。が、口は動くようになった。適当なこと言って時間を稼ぐ。
「花守エマ。趣味は愛犬の散歩。力は銃。目的に応じて形態をさせる事が出来る。彼氏はいない。」
自分で口を動かし驚く。なぜ本当の事を口に出してる?
「正直者だね。空間創出と転移ができるのは本当だけど、私の力がそれだけとは言ってないよ。」
小さく笑い、続ける。
「じゃあ、私も自己紹介しちゃおっかな。私は椿(つばき)。悪魔の中でもかなり高位の存在。君たち人間と同じような姿形をしてるってだけでも珍しいと思うけど、その中でも私は特別な存在なのです。」
左手を胸に当て、自慢気にふんぞり返る。かと思えば、大袈裟に肩を落として見せる。
「ただね、高貴ゆえに悪魔同士の勢力争いに巻き込まれて命を狙われてるわけですよ。ぶっちゃけ、誰も信じられないんだよねー。悪魔不信になりそう。」
びしっと指をさしてくる。
「そこで私は思いつきました!誰が味方で誰が敵か分からないなら、味方になってくれる人間と契約を結んじゃえ良いってね!」
言って指パッチンすると契約書♬と書かれた紙が出てきた。
「ということで、これにサインしちゃってよ」
(見開き全ページ契約書)
契約書
椿ちゃん(以下、私)と花守センセ♬(以下、あなた)は以下契約を締結する。

第一条 私への協力
あなたは、本契約の他条項に抵触しない範囲で、私の目標達成を全力で支援する。
第二条 私への献身
あなたは、私が命を狙われた場合、全力を尽くしてこれを守る。
第三条 ヒ・ミ・ツ♪
あなたは、如何なる理由があっても自身の意志によって本契約の存在を第三者に漏らしてはならない。
第四条 あなたへの誓い
私は、あなたとその友人の命を脅かす意図をもって行動してはならない。
第五条 あなたへの協力
私は、あなたやその友人が悪魔および人間に命を狙われた場合、それを守るために全力を尽くす。
第六条 契約期間
本契約の第一条から六条までの内容は、2064年3月31日をもって完全に消滅する。
第七条 期間満了時の対応
第六条記載の消滅事由を満たした場合、あなたは私を殺す権利を得る。私は本条項の権利行使に対し事前に、また直接的・間接的問わず一切の抵抗をしてはならない。

あなたは、本契約の合意内容を十分理解したことを相互に確認し、契約を締結する。

日付 2060年7月7日
氏名________ 血

紙をペラペラと動かして見せた。
「まあ簡単に言うと、期日までお互い攻撃しない、危ない時は助け合う。そして」
右手を銃の形にして撃つ真似をしてみせる。
「終わったら先生は私を殺せるってわけ。」
「分からないな。」
徐々に腕の感覚が戻ってきた。が、ゆっくりしか動かせない。もう少し時間が欲しい。
「護衛をつけるための条件に死をつけたら元も子もないだろ。」
ああ、それね。という顔でこともなげに答える。
「いいの。私どうせ死ぬから。」
(背を向けて教室をウロウロしだす。)
「勢力争いっていうのはね、私達悪魔の王様を決める戦い。敗者はたった1人の勝者と契約を結ぶ。命ある限り永遠に服従せよってね。」
後ろ手を組み、俯きながら話す。
「私達悪魔にとって、契約は絶対。自分の意思に関係なく、契約に反する行動は絶対に出来ない。いくら意志が強くてもね。」
小声で呟く。
「そして、私はお兄様には絶対に勝てない」
くるっと先生の方を向く
「だからね、私は目一杯楽しんで死にたいの!人間の世界で泣いて笑って美味しいもの食べて思いっきり楽しんで死にたい!それが、私の目標!」
そう言うと、目一杯の笑顔を浮かべる。嘘をついているようには見えない。
(人差し指を顎に当て、小首をかしげる)
「どう?私を信じて、契約してくれる?」
(先生、あえて小ばかにしたような表情を浮かべる。)
「今さっき能力について騙し入れた奴がよくもまあ信頼なんて言葉を口に出せたわね。」
「悪いけど、答えはノーよ。あんたは私がここで殺すし」
そして何より。弾を装填し、銃を構える。
「あんたの目標の為に、私の生徒巻き込んでんじゃないわよ」
銃声
背負っていた鞄から羽が防御に入り、深くめり込んだ。
「フリーズ!」
先生がそう叫ぶと、めり込んだ銃弾から氷が出てきて羽を氷漬けにする。
悪魔は慌てて鞄を放り投げた。
「ちょっと、話聞いてた?傷つけるつもりはないんだってば。この子の身体だってずっと借りてるわけじゃないし」
弁解されるも撃ち続ける。翼で捌ききれず、被弾した箇所が凍り付いて身体の自由を奪っていく。
「確かに私の命は保証されるかもしれないし、鶴木にとっても悪くないかもしれない。あんたを狙ってくる悪魔を倒せばお金が稼げるからね。」
右肩、両足、両手と被弾箇所は拡大していく
「でも、私はあの子にもっと他の選択肢も見て欲しい。今は悪魔狩りに夢中でも、もしかしたら高校で何か別のやりたい事を見つけるかもしれない。好きな人が出来て恋愛に発展するかもしれない。教師はね、生徒が持ってる可能性を広げる為にいんの。」
完全に動けなくなった悪魔に、ダメ押しを撃ち込む。
「生徒の青春引き換えに、自分の安全買うバカがどこにいんのよ。」
全身が氷漬けになり、動かなくなった。
足の痛みを思い出して地べたに座り込む。
ひとまず動きを止めた。憑依をはがす方法とここから抜け出す方法を考えなくては。
「なるほど。良い先生だね」
(氷が割れて、無傷の悪魔が出てくる)
「でも残念。凍ったのは私の前に作った空間だけ。私には最初の弾しか当たってないよ。」
「先生の気持ちは分かったけど、私もこの契約は譲れないんだよね。」
軽くため息をつきながら落ちていた鞄を拾い、背中・足・鞄から大きく鋭い翼を広げる。
「しょうがない。先生の心が折れるのが先か、私が死ぬのが先か…競争しよっか♬」
ニコッと笑い、翼を伸ばす。鋭い翼は白衣をかすり、突き刺した床に穴をあけた。
リーチは互角だが、羽は大きい。距離を詰めるために前傾する。
ポトッっと何かが落ちた。
気にせず突っ込むが、悪魔がなぜか止まっている。
「えっ…身体…動かな…」
見ると悪魔の視線の先には先ほど落とした…財布があった。
まさかこれか…?財布を拾い、1万円札を近づけると、ガシッと両手でつかまれた。
「先生!それ旧1万円札!?オークション出そうよ!」
目の前の生徒は羽も髪のメッシュも消え、見慣れた姿に戻っていた。
(背景真つ黒)
やられた…!
憑依とは、意識の乗っ取り。宿主の意思を憑依する側が上回れば肉体の主導権を奪える。私に対する殺意を上書いて憑依したのに、金を見たら私の意思が押し負けた。
こいつの金への執着が凄すぎて、憑依が外されたんだ!
こいつ、どんだけ金好きなんだ!
「つ、鶴木…?ほ、本物?」
呆気に取られて固まる。
「うん、本物。何か憑りつかれてたわ。ケガさせてごめん先生。」
ペコっと頭を下げ、すぐに顔を上げたと思ったら目を輝かせる
「それでさ、それ旧1万円札っしょ!?コレクターに売れば1万円以上で売れるからオークションに出してさ、差額の10%くれたりしない?」
先生、ため息をつく
「確かに本物ね…とりあえず元気そうでよかったわ。それより、悪魔は?」
「ん?ああ、多分これ」
言うと、鶴木の左手にピンク色の火の玉が握られている。
「人型じゃなくなったから金額落ちるかも…せっかく3桁万円のチャンスだったのに…」
残念そうに肩を落としている。さっきまで憑りつかれていたとは思えない。
ふーっと息を吐く。
「人型クラスにあって、五体満足でいられるだけ奇跡だわ。こいつ倒して元の学校に戻りましょ。こういう複雑怪奇な能力は、元凶を殺せば元に戻るものよ。」
銃口を向けられる。
くそっ…こんなところで死ねるか!こうなったら仕方ない。こいつらここで殺―
「あ~先生、それなんだけどさ。」
言って、握っていた手を広げる。解放された火の玉は、人の形になった。
悪魔と先生が驚いた顔をして鶴木を見ている
「私、こいつと契約しようと思って。」

契約するのは私だ


「鶴木!なにやってんの!」
すかさず発砲するも、またも見えない壁に阻まれて悪魔には当たらない。
とはいえ悪魔も呆然としている。
「えっと…?どういうこと?」
「契約を結ぶってこと。」
う~ん、と頭を掻いて答える。
「憑依されてる時ってさ、あんたの意識っていうか、何考えてるのかが分かるんだよね。契約結んだら意志関係ないだったり、目標の話について悪意は感じなかった。能力に関しては微妙だったけど。」
「仮にそうだったとしてもよ。」
先生は銃を構えたまま、厳しい顔をしている。
「身体を乗っ取られるのよ?これから先、高校3年間ずっと。さっきも言ったけど、外部からの危険に加えて青春売り飛ばすなんて、教師として到底認めれないわ。」
「うん。先生の言う通り。だから」
ポケットからメモ帳を取り出し、何かを書き始める。
「私が考えた契約なら結んでもいい。」
メモを見せられ、2人が驚く。
契約書
先生と悪魔との契約1条から7条に関して、契約主体を悪魔と私に変更したうえで、
以下3条を追加した契約を結ぶ。
1.肉体の主導権
普段の肉体の主導権は私にあり、私が許可した場合及び私の意識がない場合に限り、
悪魔は憑依をはじめとした悪魔自身の能力及び私の身体を使用することができる。
2.権利行使
悪魔の目標達成に関する能力の使用に関して、私及び私の友人を害する事を意図しない
場合、私は正当な理由なく悪魔の能力行使を阻害することが出来ない。
3.能力の供与
悪魔は、契約期間中何度でも、自身の能力範囲内で実行可能な私の要望に応える。
自身の目標達成に抵触しない限り、悪魔はこれを拒むことはできない。

2060年7月7日 両者氏名______血

呆気にとられ言葉を失っている先生を横目に、悪魔は考える。
(…悪くないかも。互いと周囲への攻撃無しはそのまま、普段は協力して、大事な場面になったら私が体を使えるってわけね。1の縛りがけっこうきついけど、重要な場面では2が使える。3は中々鬱陶しいけど、この状況だと贅沢は言ってられないか…)
「だめよ!危険すぎる!こいつはまだ力を隠してるかもしれない!こんなの許可できないわ!」
「ごめん先生。でも、だからこそだよ。」
小さく笑う。
「未知だからこそ。私たちが追い詰めてるうちに、有利な契約を押し付けられるといたほうが絶対いい。」―③
「…っ、それなら私が!」
食い下がる先生を押しのけ、悪魔が血印を押す。
契約書から赤い光が漏れ出し、さらさらと消えていった。
「契約成立だね。悪魔に契約持ちかけてくる人間なんて初めて。ねえ、君の下の名前なんていうの?」
「真衣だよ。鶴木 真衣。」
「そう。改めて、私は椿。よろしくね。真衣♪」
笑顔で答えて指をはじくと、廊下の赤が消え、鳥のさえずりが聞こえてきた。
先生と鶴木、周りを見渡す。
「戻ってきた…のか?」
先生が呟くと、椿が消えた。
「ここだよ、ここ。」
声の方を見ると、真衣の手の甲から小さい羽が生えている。
「普段は真衣の身体の中にいるから。よろしく~」
先生と真衣、顔を見あわせる。
「え~っと、いったん解決?」
先生が真衣にデコピンする。
「痛いっ!」
はあ~ぁぁぁと大きなため息をつき、うずくまる。
「まあ、契約しちゃったもんはしょうがないわ。これから先、何かあったら直ぐ私を呼びなさい。いいわね?」
おでこをさすりながら返事をする
「分かったよ…ところで先生、さっきの万札の件だけど…」
「どうでもいいでしょ!まだ続いてたのあの話!?」
言い合いをしている2人を、窓から何かが見ていた。
「椿様の魔力を感じてきてみれば…よもやよもや…見つけましたよぉ…椿様…」
ニヤリと笑い、液状に溶けて消えた。

(放課後。チャイムが鳴り、生徒が教室を出ていく)
「つ、つまんない…」
椿が呟く。
「学校ってもっとこう、バイク乗った不良が侵入してきたり、授業中にメッセージ回して遊んだりするもんじゃなかったの…?」
「何だその人間知識…中学生なんてこんなもんだよ。試験期間だから部活もないし午前中で終わる。」
弁当を取り出し、携帯にイヤホンを差し込む。
「放課後でしょ?皆でカフェ行ったりカラオケ行ったりしないの?」
「弁当食べたら悪魔狩りだよ。今日は3件いきたい」
「は?なんで?そういえば休み時間もずっと机に突っ伏してたし、消しゴム拾ってあげた時も妙にビビられていたような…」
ハッとした表情を浮かべる
「…もしかして真衣って友達いないの?」
真衣の動きがピタッと止まる。
「…今は、な。」
「いやいやいや、ちょっと前まで彼氏いたけど別れちゃったの~みたいなノリで言われても。」
椿が意地悪く笑う。
「へえ^^そうなんだぁ^^ま、確かに。悪魔見つけて金額叫びながら切りかかってくる人とか、普通に考えて関わりたくないもんね♪」
ぐさっと心に刺さる。
「あ、悪魔め…」
「どうする?^^私の力で友達作ってみる?」
「え、そんなこと出来んの?」
「いやまあ無理だけど。」
「…殺してやろうかこいつ。」
弁当を食べながらそんな事を話していると、
「あの~…鶴木さん、ちょっといい?」
黒髪ショートボブ。校則に触れない程度のスカート丈をした小柄な少女が立っていた。
「あ、委員長。えっと、どうしたの?」
話しかけられて若干挙動不審になりながら慌ててイヤホンを外す。
「えっとね、来週月曜部に花守先生の化学あるでしょ?そこで実験やるみたいで、これを準備まで運んで欲しいんだって。」
委員長が指さした先には、実験器具やら教科書やらが突っ込まれた段ボールがあった。
え~めんどくさぁ…思いっきり顔に出したが委員長は笑って、
「私も手伝うから、一緒にやろ。食べ終わったら教室の入り口きてね。」
バイバイと小さく手を振って教室から出ていく。
「可愛い子だね。」
「そうだな。可愛いし性格もいい。クラスの決まり事とか先生からの連絡とか、いつも委員長が教えてくれる。さて、予定ができたから早く食べないと。」
それ真衣に話しかけたくない皆から生贄にされてるだけじゃ…
悲しくなるから言わないでおいた。

委員長


「委員長!お待たせ!行こ!」
荷物を持ち、先に待っていたらしい委員長に声をかけ、教室を出る。
「先生も人使い荒いよなあ。こういう雑用いっつも私じゃんか。もっと生徒を大事に扱って欲しいもんだけど。」
不満そうに言うと、委員長が笑う。
「そうだね。でも、花守先生って綺麗でちょっと近づきにくい雰囲気だけど、鶴木さんと一緒に居るときは話しやすいかも。なんか、遠慮がないというか心開いてる感じする。」
「え~、そう?私いっつも理科赤点だから、目つけられてるだけだと思うけどなあ。あ、あと課外活動。」
「課外活動ね。昨日も駅の方で鶴木さん見たよ。亀みたいな悪魔を真っ二つにしてて、かっこいいなあって思った。」
真っ二つのところで剣を振る真似をする。
「あ~あはは。見られてたか。あの後先生にがっつり怒られたからね。おかげで今朝は朝から補習だよ。」
「やっぱり2人仲良いよね。…でも、羨ましいなあ。」
「何で?私より委員長の方が確実に好感度高いでしょ」
「あ、そっちもそうだけど、『善衣』を使えるってところ。」
少し俯きながら話す。
「私、将来『勇者』になるのが夢なの。でも『善衣』が発動してくれなくて…強い意志がないと何も変わらないんだよね。鶴木さんみたいに、誰かをカッコよく助けられるヒーローになりたかったんだけど、私はダメみたい。」―④
たまらず声を出していた。
「そんなことないよ。『善衣』がいつ使えるようになるかなんて分からないし、私はいつも助けてもらってるもん。」
少し驚いたように見えたが、小さく笑って答える。
「ありがと。準備室ついたね」

毒の悪魔


委員長が戸を開ける。
カーテンが締まっているため、中は真っ暗だ。
真衣が荷物を入り口に置き、戻ろうと振り返ると、がたっという音が聞こえた。
電気をつけると、部屋の中央に手と口を縛られているクラスメイトがいた。確か名前は古田さん。委員長の友達だったはず。
驚いたのも束の間、椿の声が響く。
「真衣!上!」―⑤
言われるがままに上を見ると、天井から大量に液体が降ってきた。―⑥
思わず手で顔をぬぐうと、紫色の液体が全身にかかっており、目の前には同じく紫色を色をした大きい塊があった。塊には顔がついており、こちらを見て邪悪に笑っている。
「誰だてめぇ!」
とっさ刀を取り出し、2度3度切りつける。
切り口が再び接合し、顔が浮きだしてきた。
「ゲルゲルゲル!私の毒を浴びましたね!!」
メッシュと翼が生え、椿に変わる。
「誰?よくわかんないけど」
指パッチンすると、廊下側が赤くなる。
「とりあえず死になよ」
背中と足の翼から細かい羽を飛ばすと、敵は細かく分裂した。
分裂したものが集まって人の身体になった。
「お初にお目にかかります。私はパープル。椿様、あなたを始末しに参りました。結論から申し上げますと、あなたは1時間で死に絶えます。」
内心驚くが表には出さず、ニヤリと笑う。
「それはずいぶん強力な毒だね…誰に言われてきた。兄さんか」
ンフッと不気味に笑う
「守秘義務契約ですので。クライアントの名前は申せません。」
「そう。じゃあ1つ聞きたいんだけど、君を殺せば、この毒は抜けるの?」
「ええ。抜けますとも。その毒は私の体液。私が死んで身体が消えれば毒も抜けるでしょう。」
今度はパープルと名乗る悪魔が驚く。
(体内の真衣の心情)
先生の時と同じだ。椿の羽をくらうと、質問に嘘がつけなくなる!
椿がニヤリと笑う。
「正直にありがと。さて、もう空間を切り出したよ。君は外に出られないから、このまま分裂できないくらい細切れにすればいいんだね。」
羽を飛ばすも、身体を溶かし、天井に躱す。
「残念。それは違いますねえ…あなた様自身の能力についてはもちろん把握しておりますとも。空間に干渉する力…素晴らしい力ですが、私の本体はこの私ではありません。―⑦」
椿が舌打ちをし、指パッチンして空間を戻す。
素晴らしい!と液体をまき散らしながら手を叩く。
「能力による体力消耗と本体探しの為に空間を戻しましたか、素晴らしい判断力!やはり私のものにしたい…」
ニヤリと笑い、咳払いをする
「おっと失敬。口が滑りました。お詫びに、死にゆくまで貴方様のお相手をして差し上げましょう!」
液体が襲い掛かったその時、ドアから弾丸が飛んできた。
「フリーズ!」
声が聞こえると液体が氷漬けになる。
悪魔、驚く
「なんだこれは!?」
「あんた達、無事!?状況は!?」
ドアの方を見ると、銃をかまえる先生と、傍らに小さいコウモリがいた。
「センセ!来るの速いナイス!その液体に触れないで!」
液体が先生に向けて飛びかかるが、撃たれたそばから氷漬けにされる。
悪魔、フフフと笑う
「大したものだ…でもこの身体を倒したところで何も解決しませんよ…それでは…」
言うと、液体の動きが完全に止まった。
「鶴木に…操上!古田は何で縛られてるの!?」
(先生駆け寄る。委員長と縛られている女子が倒れており、うつ伏せになって倒れている委員長には液体がかかっている―⑧)
「まずいな…委員長にまでかかってたか。」
(先生、古田の口と手の縄を取ると、古田が抱き着く)
「先生、私のせいで綾が…!」
「落ち着いて、落ち着いて話しなさい」
「センセ、その子もそうだけど、こっちの状況のがまずい。」
(椿、説明)
「1時間以内に本体を見つける…?」
「うん。幸いこのタイプはあまり本体と距離をとって存在できないから、学校内に隠れてるとは思う。ただ…」
先生、悩む
「広いわね…やみくもに探して見つかるかどうか」
縛られていた女子、先生に抱き着き訴える。
「先生、私…」
「分かった。話を聴くわ。何があったか、順を追って落ち着いて話して。」
(以下、台詞に沿った回想)
「私、綾と一緒に中庭のベンチでお昼食べてたんです。そしたら突然意識がなくなって、起きたら目の前にあいつがいて、2人で縛られてました…それで、言われたんです。『君たちに危害を加えるつもりはない。窓際に座っている女子生徒を連れてこい。そうしたら君たちの命は助けてやる』って。私は怖くて怖くて返事をすることも出来ませんでした。そしたら綾が、私がやるって言ったんです。言われたとおりにカーテンを閉めて、鶴木さんを準備室に呼び出しました。そしたら液が天井から降ってきて―⑨、私を庇って綾が…」
泣いて先生にすがる。
「先生、私、私どうしたら…」
先生、唇をかむ。
「悪魔、何か手掛かりはないの。」
「分からない。ただ、今の話で引っかかった事がある。」
言うと、古田に近づく。
「ねえ、今日暑いじゃない。なんでこんな日に中庭で食べてたの?」
「え、だってベンチは日陰になってるからちょうどよくて…」
椿、先生、気づく。
「センセ。」
「ええ。」
先生がカーテンを開けると、凍っていた悪魔がサラサラ崩れる。
「やっぱり太陽だ。あいつは太陽に当たっていられない。」―⑩
椿が窓の前に立つ。ジューッという音がして体の液体が消えていく。
「毒はあいつ自身だって言ってたから日光で消えるかと思ったんだけど…見た目は消えてるけど、痛みはある。多分、完全に解毒は出来てないや。」
(先生、古田の肩を掴んで窓際に移動させる)
「古田、あんたは絶対に日の当たるここを動かないで。それと、操上をこのまま日光に当てて、他の人が来ても絶対に触れさせない事。いいわね。」
泣きながら頷く。大丈夫。と優しく笑う。
「センセ、この部屋に私の分身置いてく。さっきセンセ呼んだやつと同じ。何かあったらここに話しかければつながるし、部屋の様子も見れるよ。」
「分かった。」
先生、時計を見る
「今13時10分…まだ時間はあるけど、急ぎましょう。」
先生と椿、部屋を駆け出す。
(廊下を走る2人)
「センセ、2手に分かれよう。私は学校のこと分かんないから、真衣に戻るね」
スーッとメッシュと羽が消える
「私は上階から本体を探す。鶴木は体育倉庫と別館を頼むわ。」
「分かった!確認だけど先生、直射日光が当たらず、人目につかない場所ね!」
先生が頷き、続ける
「それと悪魔、見つけたら私を呼びなさい。それと…鶴木を頼むわ。」
返事を待たずに2人は分かれていった。

(背景真っ暗)
やれやれ…私の弱点には気づかれてしまいましたか…椿様は流石として、あの教師も中々厄介ですね。
まあ、ですが、ここが見つかることはないでしょう。
ああ…ターゲットの死を特等席で待つこの時間…何度味わっても格別ですねぇ…
もう少し…もう少しであの女と力が私のものに…

(真っ暗な体育倉庫でボールを蹴り飛ばす鶴木)―⑪
「あーくっそ!どこいんだあのスライム野郎!」
「見つからないね…他に思い当たるところは?」
「ない!体育館に倉庫、更衣室、別館トイレ全部見たけど一欠片もいやしねえ!残り15分しかないってのに!」
(先生の後ろ姿。ドアを開けている)
「先生の様子も見てるけど、見つかってないみたい。」―⑫
(今まで回った場所の映像)
「探したところにも異常はない。何かが動いてる痕跡もない。」―⑬
真衣、考える。
(こんだけしらみつぶしに探して見つからない事なんてあるのか?めちゃめちゃ小さくて上手く隠れてるのか?だとしたらどうしようも…)
突然倒れこむ。
「何、どうし…」
見ると、身体全体にあざが広がっている。
「真衣…!」
鶴木、倒れたまま息切れ―⑭
「いよいよ時間ないってか…まいったなこりゃ…委員長も苦しんでるだろうに全然…」
(以下6場面が1つのコマに
⑧倒れてる委員長の姿
⑦悪魔の台詞「私の本体は私ではありません」
⑨古田の説明「液がこっちまで飛んできて」
⑫先生のドア開け&椿の台詞「先生のところにもいないみたい」
⑬今までの映像&椿の台詞「今までみたところに異常はない」
⑤最初の襲撃「真衣!上!」
思いついたように立ち上がる
「あった!1つだけ!探してない場所!」―⑮
手の甲、羽に話しかける
「先生!あの野郎の場所が分かった!引きずり出してやる!委員長は必ず助ける!」―⑯

第2話リンク
Determinataion 第2話「勇者達」|寿(ことぶき) (note.com)

#創作大賞2023 #イラストストーリー部門

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