韓国映画『ベイビー・ブローカー』
古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョン(ソン・ガンホ)と、〈赤ちゃんポスト〉がある施設で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。ある土砂降りの雨の晩、彼らは若い女ソヨン(イ・ジウン)が〈赤ちゃんポスト〉に預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。彼らの裏稼業は、ベイビー・ブローカーだ。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ないことに気づき警察に通報しようとしたため、2人は仕方なく白状する。「赤ちゃんを大切に育ててくれる家族を見つけようとした」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。一方、彼らを検挙するためずっと尾行していた刑事スジン(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)は、是が非でも現行犯で逮捕しようと、静かに後を追っていくが…。
写真・あらすじ(公式HPより引用)
noteに台湾ドラマの感想を中心に書いている私ですが、もともと映画が大好きで、韓国映画もめちゃくちゃ好きなんです。カン・ドンウォンは「オオカミの誘惑」でハートを射抜かれ、もうそれから大大大好き。カン・ドンウォン×ソン・ガンホの再タッグ、しかも是枝監督の韓国映画ということで観に行かないわけにはいかない!しかも公開初日がたまたま私用で会社を休んでいたため早速鑑賞してきました。
役者の演技力が圧巻
もうこの一言に尽きると思います。一人一人の役者の表情、表情の変化、それをうまくとらえるカメラワーク、すべてが揃っていたと思います。カンヌで主演男優賞を獲ったソン・ガンホもそうなのですが、IUもめちゃくちゃ良かったです。みんなが徐々に変化していく。無表情でどこか不安げで迷いも見えたIUが親(買い手)探しの旅をともにすることで、特に施設の男の子ヘジンが合流することで、表情が和らいでいく。カン・ドンウォンも自分の過去から彼女に対して冷たく、どこか見下した視線だったのが変わっていく、ソン・ガンホは最後に大きな決断をし、切羽詰まった表情を見せる、彼らの表情の映し出し方や間が絶妙でした。
一番泣いたのは、ヘジンが自分の名前について語り、それを受けてソヨンがウソン(赤ちゃん)の名前の意味を語ります。もう、そこで涙があふれてしまいました。これは自分が親になったからというのも大きいかもしれません。名前を付けるときって、その子に幸せに生きてほしいと思って付けるものです。二人(ヘジンとウソン)とも素敵な名前をつけてもらっていて、施設長やソヨンの愛を感じました。親になる前に観るか、親になってから観るかでも見方が変わりそうな作品だなと思います。
多くが語られない
結構、低評価もついているのですが、それは多くが語られないがゆえに、「よう、分からん」「動機が浅い」等々の評価につながってしまったのかなと思います。確かに、ブローカーの2人、母親については一応背景は描かれる・語られるものの、深くは語られていません。だからこそ、一緒に観に行った人や既に観た人と解釈を語り合える映画だなと思いました。
ちょうど、今朝、夫に「最後のソン・ガンホはこれこれこういう意図でああゆう行動したんだあろうね」と言ったら夫は気づいていませんでした。母親(IU)についても、動機が浅くて共感にかけるという評価もありましたが、それくらいIUは子供を(無意識にでも)大切に思っていたということではないかなとも思います。
また、刑事のスジン(ペ・ドゥナ)の背景については全然語られず、彼女の行動、表情からしかバックグラウンドを察するしかないのです。彼女がブローカーたちを執拗に追っていたのは、一般的な常識(=観客の視点と同じ)からなのか、もしくは子供にまつわる過去があったからなのか?私は後者かなぁと思ったのですが、ここはぜひ観た方と解釈を話し合いたいなぁと思いました。
いろいろ比較されますが…
同じく疑似家族を扱った同監督の「万引き家族」やソン・ガンホ主演の「パラサイト」と比較される方が多いみたいですね。
「万引き家族」ほどの衝撃や重さがなかったとも言われていますが、「万引き家族」が結末も含めて全体的に陰だったのに対し、本作は全体的に陽でした。是枝監督としては同じ「疑似家族」をテーマに、今度は希望の持てる映画にされたかったのかなと私は思いました。なので「万引き家族」の衝撃や重さをわざわざ本作に求めなくてもよいと思うし、この作品はこの作品で純粋に楽しめました。
最初が雨の階段のシーンから幕を開けるのでそれが「パラサイト」へのオマージュかともいわれています。私も一瞬、「あれ?この作品、ポン・ジュノ監督だったっけ?」と混乱しました。まぁ、オマージュの意味もあるのかもしれませんが、赤ちゃんポストの場所が高台にある教会に救いを求めに行くという演出上、やはりあのシーンは必要だったと思います。これが町中の平地にある教会だともっと陳腐な出だしになっていたかな~。
まだまだ公開したてなのでぜひ観に行ってください!
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