台湾映画『親愛なる君へ』《親愛的房客》(英語:Dear Tenant)
引き続き台湾映画のご紹介です。
出演:莫子儀(モー・ズーイー)、陳淑芳(チェン・シューファン)、白潤音(バイ・ルンイン)、姚淳耀(ヤオ・チュエンヤオ)、ほか
監督・脚本:鄭有傑(チェン・ヨウチェ)
台湾上映:2020年10月
尺:106分
折り返し地点から涙が止まらない
まず、最初の取り調べで「パートナーが亡くなったのに、なぜ家を出ず、パートナーの家族の面倒を見るのか?」と聞かれたときにジエンイーが悔しさをにじませながら、「自分が女性でも同じことを聞くのですか?女性の立場だったら、夫が死んでも夫の家族の面倒を見るんじゃないんですか?」というようなことを訴えます。
ジエンイーの動揺や彼の訴えが心の底から出ているものだと通じたのか一度は解放されるものの、偏見に満ちたパートナーの弟と彼から依頼された捜査官によってジエンイーは追い込まれていきます。
そして、中間地点あたりで、あらすじにもある「なすがままに罪を受け入れようとするジエンイー」というシーンが出てきます。それまでのストーリーでも絶対彼は悪くなく、ヨウユーをとても大事に思っているのが視聴者には見当はつくのですが、物語は当時何があったのかそれまでの経緯を追っていきます。
後半の物語で、ジエンイーの罪悪感とヨウユーやシウユーへの愛、シウユーの息子を失った悲しみとジエンイーの真心のはざまで揺れる心や闘病の苦しみ、ヨウユーの戸惑いやジエンイーを信じたい気持ちが描かれているのですが。その一つ一つがとてもいとおしくて、でも苦しくて涙が止まりませんでした。
血よりも濃い絆の話
パートナーの弟は全然音沙汰がなく、苦労を兄に押し付けていました。それが旧正月にフラっと戻ってくるのですが、久々に顔を見せたと思ったら、母親に話すのが部屋を売ったらどうかという話。母親はそんな彼に塩対応で、部屋を売る気はないとぴしゃりと言い放つわけですが、かといってジエンイーを家族扱いしているわけでもない。そんな冒頭のやり取りを後半部分を見た後で思い返すと、彼女にはいろいろな葛藤、悩みがあったうえで、決めていたことがあったんだろうなと思わせる視線や空気感がありました。
弟がヨウユーに「俺が唯一の血のつながった肉親だ、ジエンイーは信用できない」だとか言うわけです。ヨウユーからすると、半年前に会ったばかりの叔父さんよりも育ててくれたジエンイーのほうがよっぽど信用できるのにです。
血のつながりが重視され子供と引き裂かれるというストーリーは、同じくゲイカップルと子供の絆を描いたアメリカ映画「チョコレート・ドーナツ」もありましたね。なぜゲイが子供を育てると「正常ではない環境」「別の目的がある」などと言われなければならないのでしょうか。
どこぞの国会議員が同性愛は生産性がないとか言って過去に話題になりましたが、同性愛者だって子供を産んだって、育てたって良いと思います。血縁を優先してろくでもない親に育てられるよりよっぽどましです。しかし、悲しい現実としては本作にも描かれているように何かあったときに疑いの目で見られてしまうのでしょうね。
シウユーの苦しみ
一家のおばあちゃんシウユーは糖尿病を患っています。右足が壊死寸前で「痛い痛い」と言っては、献身的に介護するジエンイーに嫌味を言い放ちます。彼女は痛いのも嫌だけれどもみじめに生きるのも嫌だという非常に強い葛藤を抱えています。結局その彼女の葛藤が悲劇を産んでしまうわけですが…。
また、それだけではなく、シウユーは息子が死んだことでジエンイーを責めています。でもその一方で自分に尽くし、ヨウユーを愛情たっぷりに育てているジエンイーを認めている一面も見せています。息子を奪われた気持ちと、孫の親になれるのは彼しかいないという思い。そんな葛藤も彼女の心を大きく占めていたでしょう。
下記は主題歌のMVです。本編では描かれていないシーンが満載ですが、このときのシウユーの視線や表情からも二人の関係を知っていて複雑な気持ちで受け入れているんだろうなというのがわかるような素晴らしい演技です。
苦難や葛藤に直面しながらも「家族」を愛する気持ちにまっすぐな「家族」の物語だったなと思います。ヨウユーがジエンイーの愛をいつまでも大切に心に抱きながら成長していってほしいなと思いました。
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