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わたしのCore-Values. #4市川恭平 〜「楽しむ」がモットー。それが周囲に伝わるはずだから。〜

世の中にはたくさんの仕事があって、それに携わるそれぞれの人のキャリア観や人生観がある-。
マガジン「わたしのCore-Values.」は、そんなひとりひとりの「想い」にスポットライトを当てていきます。

今回は、横浜市で美容院を経営する市川恭平さん。10年来、筆者の髪を切っていただいている美容師です。美容師として、経営者として何を考え、実行しているのか。市川さんの「Core-Values.」に迫ります。

●市川さんのご経歴
美容師をはじめて丸12年が経とうとしている市川さん。静岡県浜松市で育ち、20歳の時に横浜の美容室へ就職。7年間勤務したのちに長年の夢だった東京進出を果たす。東京での経験を持って新卒で入った美容室に再度就職直し、2019年4月より横浜市戸塚区に美容室「Clips Hair Salon」を立ち上げる。

1月4日、新年に髪を切ってもらいながらたわいもなく話したことから始まった企画。いつもは「お客さん」として開くドアも、この日は「経営者への取材」への入り口で。幾分緊張して戸塚駅にある美容室「Clips Hair Salon」の門を叩いた。

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「やんちゃ少年」の人生を変えた1本のドラマ

——今日はよろしくお願いします。市川さんとこうしてお話しさせていただく機会をいただけて嬉しいです!今のお仕事の前に、どのような幼少期〜学生時代を過ごされていたのかを教えていただけますか。

「そうですね、今までお話ししてきたところとかぶる部分もあると思いますが、よろしくお願いします!」

「昔は割とやんちゃな少年だったと思います。目立つことが好きで、幼稚園児の頃は、お遊戯会で一人だけ違う踊りをして目立っていたり、他の人と違うことをやっていたりと。小学生の頃も変わらずやんちゃしていましたね、あ、やんちゃってヤンキーみたいなものではないですよ!ずっと通して勉強は嫌いでした。(笑)」


——市川さんからヤンキーは想像できないです!(笑)サッカーのお話をよくしてくださりますが、いつ頃から始められたのですか?

「小学2年生からやっていました!中学、高校のサッカー部ではいじられキャラでしたね。サッカーって、うまい人が正義じゃないですか。特別うまいわけでもなかったので、やんちゃが影を潜めた感がありました。」


——ありがとうございます。そんな市川さんがどのように美容師を目指しされたのかが気になります。

「もともと「絶対これになりたい」っていう想いはなかったんです。ただ高校3年生の時、進学はしないと決めていたので、就職先を考えていた時に『Beautiful Life 〜ふたりでいた日々〜』(※)というドラマの再放送をしていました。小学生の頃におぼろげに覚えていた美容師のドラマなのですが、純粋にかっこいいと思ったんですよね。」

※『Beautiful Life 〜ふたりでいた日々〜』
2000年1月16日から3月26日までTBS系列で放送された日本のテレビドラマ。主演は木村拓哉と常盤貴子。(参照:Wikipedia)

美容師の柊二(木村拓哉)はバイクで図書館に向かう途中、交差点で赤いスポーツカーの女に出会う。お互いいい印象を持たなかったが、柊二はその女性が車椅子に乗っていることを知る。彼女は図書館でキビキビ働く杏子(常盤貴子)だった。杏子は、車椅子に乗る自分を特別視しない柊二にかすかな好感を持ち、柊二も純粋で柔らかな心をもつ杏子を見て、忘れかけていた何かを取り戻していくような気がしていた。
(参照:https://thetv.jp/program/0000001450/)

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——なるほど、その頃美容師以外の選択肢も考えられていたんですか?

「そうですね…あるとしたら、車も好きだったから、整備士になることも考えていました。もともと「何かを作る」ということが好きで、仕事にするのもいいのかなぁとは思っていました。」

「ただ、整備士としてのキャリアは「車が好き」という思いからだったので、仕事に感じていたわけではなかったかもしれないです。美容師という職業に抱いたは純粋な憧れとは違っていた気がして。今思えば美容師にはそれくらい魅了される何にかがあったんだと思います。」


——導かれるままに…という感じですね!ちなみに高校3年生のいつ頃だったのですか?

「高校3年生の1月頃です、卒業も間近で。(笑)バタバタしながら駆け込んだことを覚えています。」

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※わんぱくな少年時代の一枚

美容師への純粋な憧れを原動力に、進路を定められた市川さん。駆け込んだ美容師の専門学校時代は、度重なる苦労があったのだとか…。

美容師としての第一歩、鍛えられた専門学校時代

——美容師への門を叩いた市川さんですが、美容師の専門学校に入って大変だったことや苦労はありますか?

「入学した瞬間に親から「学費は自分で捻出しろ」と言われたんです。内心、払ってもらえるものだと思っていたからびっくりしましたね。(笑)だから新聞配達を毎朝やって、学費を捻出しました。専門学校って、一つ授業を休むと補習を受けないといけないんですよ。その補習代もかかるので、欠席もしなかったし、やめずに続けることに全力でしたね。」

「今思えば、親は僕の性格を見越してそう伝えたんだと思います。ずっと親が学費を払い続けてくれていたら、きっとどこかで甘えが出て、なぁなぁに過ごしてしまっていたんじゃないかとも思うんですよ。」

「おかげさまで、専門学校時代には「自分のことは自分でやる」という精神力は鍛えられたし、今の自分を支えている経験になったんじゃないかと思います。実際に専門学校を卒業してからは、横浜に出てきて一人暮らしをして。そういった今までにない経験を自分なりにやりくりできるようになったのは、専門学校の時の経験が活きていますね。」


——なるほど、そういった精神は起業される上でも大切だったかものしれませんね。ちなみに、専門学校生活はどのような感じだったのですか?

「何よりもおしゃれに関するカルチャーショックがありました。もともとおしゃれにはそこまで興味がなかったんですよ。地元はとても田舎だし、そういった情報に疎かったんですね。専門学校はおしゃれな人が集まっていて、周りに比べて地味だった僕は、「芋くさい」なんて言われて。結構悔しかったですね。(笑)そこからファッションに興味を持ち出して、雑誌を読んだり、服にもお金をかけたりするようになりました。」


——最初はカルチャーショックもあったのですね。苦労などを乗り越えられる中で、徐々に美容師への憧れは強くなっていったのでしょうか?

「いえ、ないですね。(笑)専門学校では2年で国家資格を取ることが最大の目標になるので、国家試験のための座学をがっつりと勉強するんです。だから、お客様とのコミュニケーションなどの現場経験を得る機会はなくて。そういった状況だったので、美容院で働くイメージも持てなかったし、「美容師になりたい」っていう想い自体も、正直高まることはなかったです。」


——そうなんですね。その中でどのような軸を持って美容院を選ばれたのでしょうか。

「何よりも、都内に行きたかったんですよね。先ほど話していた通り、ファッション誌を読むようになって、「都内に行きたい」という漠然とした想いを持ち始めたんです。

「ただ、都内での就職活動がなかなかうまくいかなかったんですよね。専門学校を卒業する3月。時間がなかったので「まずは関東に行こう」という目標に切り替えました。いつもギリギリの行動なんですよ。(笑)」

「そこからの選び方は運命的なもので。「関東のページを開いて右上の店舗を受けよう!」と決めて目に止まったのが横浜市内にある1社目の美容室でした。実際に受けてみて、社長もいい人でしたし、店舗の皆さんもとても勉強熱心で居心地が良かったです。」

専門学校を経て、いよいよ美容師としてのデビューへ。生まれ育った土地を離れ、憧れのお仕事への挑戦。店長の経験や都内への進出など、これまでのキャリアで感じたことを赤裸々に語っていただいた。

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※最初に入社されたお店での1枚

「美容師としての夢」を追いかけ続けてきたこれまで

——そういった運命的な選択のおかげで、僕も切っていただけるようになったんですね!入社したての頃、「こんな美容師になりたい」という想いはありましたか?

「うーん…漠然としていますけど、有名になりたかったんです。どうせ目指すなら名を上げて行きたいという想いがありましたね。横浜にいる間も当時の店長に「自分は都内に行きたい!」ということは伝え続けていましたし、何度か都内の美容室の採用試験を受けにいったりもしていました。」


——そうだったんですか。それでも店長を担われていたりと、お店での市川さんは活き活きとしているように見えていました。

「そうですね、環境としては居心地が良かったので、とても楽しく働けていました。」

「店長にも全然なりたくなくて、受身な状態で引き受けたのが正直なところです。5年目だったのでまだまだ技術的にも伸ばして行きたい時期でしたし。最初は「やらされた」という感覚でしたが、振り返るとあの時推薦してもらってなければ、自分から「店長をやりたい」なんて絶対言わなかっただろうし、店長の経験が自信を深めてくれた面もありますね。」


——5年目って早いですよね、一般的なキャリアだと7年目くらいが多いと聞きました。

「そうですね、当時のお店も挑戦させてくれる環境が整っていたので、店長になったことでのプレッシャーみたいなものは、あまり感じずに働くことができたと思います。」


——そういったご経験の先で、都内の美容院に転職されたのですね。美容師としての夢が叶ったと思うのですが、いかがでしたか?

「確かに、「都内に行きたい!」という想いは叶ったし、満足して部分もありました。ただ、美容師としてどうありたいかを考えるきっかけになりましたね。経歴的にも店長を担っていたし、「自分はできる」という自信は持っていたのに、価値観の違いを見せつけられたような気持ちになりました。」


——「価値観の違い」ですか?

「そうですね、誤解のないようにお伝えすると、美容師として、美容室として様々なスタンスがあると思いますし、良い悪いではないと思っています。ただ、僕にとっては都内での挑戦はこのギャップに苦しみましたね。」

「都内で働いていた時の環境は、周りも「技術で魅せる」というスタンスで、スキルを高めたい方が多くて。僕自身は「お客様の悩みをじっくり聞いていきたい」というスタンスでいたんですよね。実際に長く付き合っていける関係を築きましょうという教育をしてもらっていたので、このギャップは働く上で大きいものだなぁと感じました。」

「店長とスタッフとの関わり方も同様で、店長からの指示は「技術を磨け、うまくなれ」だったんですよね。僕の考えは少し異なっていて、美容師というキャリアを通して、もっとスタッフひとりひとりの人生が豊かになっていったらいいなという想いがあるので、美容師としての入り口が違うというか…改めて自分自身の考えを整理できたなと思いましたね。」

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——なるほど、働く上で大切にしたい価値観って、他を見て気づく点もあると思います。2年店長をご経験されていたことも大きかったのでしょうね。

「結果としてはすぐ辞めてしまいましたし、周りからは「すぐ辞めた」って後ろ指刺されたかもしれないけど、「人生一度きりだし挑戦できた!」という達成感もありましたし、様々な価値観があるとしれたことは、とても勉強になりました。」


——それから元の店舗に戻られて、2年後に独立されました。独立の時の困難等を教えてください。

「独立前、つまり店舗オープン前のプレッシャーはすごかったですね。身体や表情には出ないので、周りは気づいていなかったと思うのですが。特に1ヵ月前からはかなり苦しんでいましたね。夜寝られないくらいでした。(笑)」

「お客様がきてくれるかもわからないし、独立にあたっての資金繰り等も今までにない経験だったので、不安がいっぱいでした。ましてや200名弱の指名をいただいていたのに、です。冒険してみた状態だったので自分の責任なんですけどね。でも、都内に行ったことも独立したことも、「人生一度きりだし冒険してみたい!」という想いでした。」

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「冒険」を重ねて来たことで、徐々に自らの考えが型取られて来たという市川さん。まもなく12年を過ごすことになる美容師としてのキャリア、そして経営者としての想いなど、これからも大切にしていきたい市川さんの「Core-Values」を伺った。

美容師として、経営者としてのこれから

——実際オープンされて、お客様は順調に増えているように感じます。

「そうですね、幸いにもたくさんの方が来てくださっています。もともと勤めていた店舗から継続して、一駅離れてでもお越しくださるお客様もたくさんいらしてくださり、本当にありがたいと感じています。」


——市川さんのこれまでの経験が詰まったお店だと思うのですが、大切にしていきたい想いや、どんなお店にしたいかなどがありましたら教えてください。

お客様に「来て良かった」と思ってもらえる店」にしていきたいです。スタッフとも毎朝ミーティングをするのですが、伝えているのは本当にこの一点だけです。似たような表現で「また行きたいと思ってもらえる店」という言い方もできるかもしれませんが、お客様にもいろんな事情があると思うので、そこまでは追求していません。一方で、お越しいただいたからには、「来てよかった」と思っていただける時間を提供していきたいです。そのために何をするのか、細分化しなければなりませんが。」

「ただ最近、一つ考えているのは、組織力を強化したいということです。最低限の規律がある中で、スタッフ同士が仲良く、ひとりひとりが自由な方法でお客様と接点を持っていけたら良いと思うんです。人によっては「ゆるい」と言われるかもしれないけど、絶対に仲良い方がお客様にいいものを提供できるじゃないですか。もちろんゆるいつもりではないですが、仲を大切にして、いい雰囲気を作り上げていきたいですね。」


——今日は実際にクローズした後のお店にお伺いさせていただきましたが、本当に皆さん仲が良さそうですよね!

「そうですね、雰囲気は良いのではないかなと思っています。スタッフには気持ちよく働いて欲しいという想いが根底にあります。


——すごいなって思うのが、オープン以来まだ誰も辞められていないですよね?

「そうですね、ありがたいことに!どう成長して欲しいかを考えるときに、僕自身葛藤はありますけどね。僕の描く美容師像と異なる像を持っていたりすると、時に口を出したくなってしまう自分もいて。スタッフの成長を促すことは店長として、経営者としての課題だと考えています。」


——市川さんの葛藤が聞けるとは…!ただ、皆さん本当に楽しそうにされている印象です。今後店舗の拡大等は考えているのですか?

「そうですね…。「多店舗展開をしたい」という目標はないのですが、必然的に増やしていけたら嬉しいなとは思っています。理想としては、お客様が増えて、スタッフが増えて、この店舗だけでは対応できない…という状態から、必要に迫られて店舗を増やす、となったら良いなと思います。」


——なるほど、ありがとうございます。スタッフさんの成長をとても心がけられていると思うのですが、スタッフさんへの想いも伺えますか。

「成功もしていないし、偉そうに言えることはまだないのですが、スタッフが誇りを持って働けるお店にしたいとは思っています。正直、今までのキャリアは「この店で働いている!」という誇りが持てなかったんです。それはどこかに露出しているものではなかったし、「真にお客様のためになっている」という実感が持てなかったからだと思うんです。」

「今Clipsでは、アシスタントだったスタッフが徐々にデビューできる状態になって来ています。そういったスタッフがのびのびと活躍できる場を提供していきたいと思っています。」

Clipsというお店が有名かどうか、という話ではなくて、地域に貢献できているのかなどを考えながら経営していきたいです。スタッフのみんなが「美容師をやっています」ではなく、「Clipsで働いています!」と誇りを持って言えるような職場にしていきたいですね。」


——すごく市川さんらしいお話ですね。最後に、美容師として、経営者として大切にしたいことを教えてください!

「一番は楽しくやることだと思っています。「稼ぎたい」という想いはなくて、最低限の生活ができて「やりがいがある」とやりがいを持って働いていられる人であり続けたいです。自分自身が楽しむことでお客様にとっても「来てよかった」と感じてもらえる雰囲気も醸成できると思いますし、スタッフにもそのような姿勢を見せられたらと思っています。」

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※Clipsのスタッフの方々との1枚

OFFな市川さん

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サーフィンが好き!
ここ数年、趣味といえばサーフィンと答えることが多くなりました!
湘南の海で波に乗ることが多いです。
ただ、最近は冬場は寒くて足を運べていないですね・・・笑

編集後記

時代はいま、「モノ体験」から「コト体験」へと変わっているとよく耳にする。僕にとってその最初の体験は美容室でのコミュニケーションだったように思う。事実、「コト体験」をするために、1時間かけてでも市川さんに髪を切ってもらうことに躊躇いがない。

髪を切ってもらうだけなら、近くの美容室でいい。それでも足を運びたくなるのは、あたたかな時間に触れるためなのだと思う。
きっと市川さんには、Clipsには、そういったお客様が多いのではないかな。

今回改めて市川さんから、お客様に来てよかったと感じてもらえる時間を提供するために、「一番楽しむこと」を大切にされていると伺った。そういった想いに共鳴して、お客様が、お店全体が、あたたかな時間に触れられているのではないかと感じた。

記事を書き終えたいま、これからも市川さんには変わらぬスタンスで美容師を続けていただきたいと切に思うし、Clipsの想いがより多くの人に伝播して欲しいと思う。

今後とも応援しています!

市川さんのいらっしゃる店舗のURLはこちら

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日々感じたこと、ほんの少しでも誰かのためになることを なるべくやわらかい言葉で伝えていけたらと思います。 これからもどうぞよろしくお願いします。