困ったときには落ち着いてタイムマシンを探せ(『僕はこんなバカげた球団のファンになった』番外編)
当でございます。
このような Note におけるマガジンがあります。いまのところ唯一、僕が書いたものをまとめて公開しているマガジンです。これを書いている時点では 7 本の記事が含まれています。
題名は『僕はこんなバカげた球団のファンになった』になっています。バカなライトノベルみたいな感じで長いので、4 文字に略したら『はこンな』です。
これだけ見るとただのパッカーズ (Green Bay Packers) のファンの自分語りなんだなと思わせておいて(思うよね?)、実質的には、永らくパッカーズの先発 QB であったロジャース (Aaron RODGERS) との別れを惜しむ英雄譚です。彼に捧げる回想と呼んでもいいけれども、いずれにしても話の主人公はロジャースです。ですから、この一連の記事の最後の部分は最初の記事の 1 行目を書き始めるよりも前から決まっており、次のような文章でしめくくられるはずでした。
……きょう、いまここで「史上最高の QB は?」と世に問えば、回答の少なからぬ部分はアーロン・ロジャースだ。それは間違いない。5 年はまあ余裕、10 年かそこらまではさすがにみんなまだ覚えているだろう。
問題は、それより後の時代の話だ。30 年か 50 年かわからないが、今が完全にホコリをかぶった過去になり、近年の激闘もただの数字として見返されるだけの時代になるときが来る。もちろん、それは避けられないことだ。それはいい。僕が嫌なのは、その時代の子ども連中がなんの気なしに古い記録を見てかわすであろう会話だ。
............
「ふーん。この時期はトム・ブレイディってやつが勝ちまくってるんだね」
「あー、昔の話にちょくちょく出てくるよな」
「よほど凄かったんだろうな。あるいはほかにろくな QB がいなかったのかな?」
「どうだろう……おっ、これを見ろよ。アーロン・ロジャースってやつがいるぞ。MVP に何度も選ばれてる。パスの記録だってたいしたもんだ、もしかしてこっちのが良いんじゃないのか」
「そいつは弱い地区で勝ちを稼いでただけの雑魚だろ。いまより球団が少なかった時代なのに、1 回しか優勝してないんだぜ。そんなのよりこっちのエリ・マニングってやつのが 2 回勝っているぶんマシさ……」
「うーん。それはそうかも」
............
クソッ! ふざけんなクソガキ!(机を蹴り倒す音)
キャリアの終盤には自分が立っているだけで精いっぱいの OL しか与えられなかったという事情はあるにせよ、イーライ (Elisha Nelson MANNING; #10) はレギュラーシーズンの勝率なんて .500 しかない。なにが「2 回勝ってる」だ。そんなもん所属してるチームに左右されるに決まってんだろうが! ぶっ殺すぞ!(机を起こす音)
……いや確かに、今はこんなことをいうやつはいない。10 年後も大丈夫だと思う。だが、そこから先は正直わからない。一次資料は残っているにせよ、みんながそこまでしっかりと見るわけじゃない。歴史とは勝者の歴史、という言葉もある。われわれの「現在」が歴史の一部になったとき、敗者の過程を綿密に記すための余白があるかどうかなんてきわめて怪しいものだ。
ここまで書いてきた話はロジャースのための英雄譚だった。であれば、彼には勝ってもらわなければ困る。さもなければ「ただその時代にプレイしていた選手」について少し語っただけになってしまいかねないではないか……歴史に残らない終わり方をして英雄と呼ばれるはずもない。だから、このうえは――いまから 4 つも 5 つも集めろとはさすがにいえないが、少なくとも――両手にリングをひとつずつはめられるくらいにはしてほしい。これがいまの僕が見たいものだ。もちろんそれはグリーン・ベイで叶えてほしかったことだけれど、過ぎたことをいってもしかたがない。
さいわいにも契約は 2 年ある。ジェッツは環境をかなり整えたようにみえる。「まだ高いレベルでプレイできる」のを証明するのにちょうどいい舞台だ。引退に傾いていた暗闇の中で考えが変わった理由は、「史上最高の選手」の最後のパスがインターセプションでは格好が悪いのもひとつあっただろう。知る限り、ニューヨークのファンもグリーン・ベイに勝るとも劣らないくらい熱狂的な一面がある。願わくば、最後のパスが投じられる試合は "MVP" と "J-E-T-S" の大声援が交錯するなかで……
……こんな感じで終わるはずでした。いまひとたびの優勝が実現する可能性はともかく、僕としてはここまで書けばいちおう自分の中で区切りがつく。長年のプレイに感謝と愛を交えて、さようなら、がいえたことになります(伝わるわけじゃないけど)。
でもさぁ、その完結に先んじて本人がソッコーでシーズン終わっちゃったらいまさらこんな甘ったるい何かは公開できなくないか? できないよな。
いやおかしいだろお前……空気読めよ。なんだ? 4 スナップで終わりって。「新しいチームでどれだけの成績を残せるだろう」って期待と不安を半分ずつでソワソワしてた僕がバカみたいじゃねーか。
いちおう本人は「まだやるぞ」といっているけど、はたしてどうだか。あした目が覚めたらすっかり気が変わっていたって何の不思議もない。この年齢で一年を棒に振って、しかも仮に来季に復帰したところで今よりもさらにスピードが落ちているのは確実だし。次に芝生に張り倒されるときにはアキレス腱くらいではすまないかもしれない。
じゃあ、もう僕の話も「ジェッツの闘いはこれからだ!」でいいか? ウッディ先生(*)の次回作にご期待くださってもらっていいか?
*Robert Wood JOHNSON IV; ジェッツの CEO。ドナルド・トランプの支持者
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