アクティブラーニングのレベル別ファシリテーションのポイント
安斎の指導教員である山内祐平先生が、教育工学会論文誌に「教育工学とアクティブラーニング」という総説論文を発表されていました。
この10年間に教育工学会に掲載されたアクティブラーニングに関する研究の動向をレビューしながら研究課題や今後の展望について述べたもので、特にアクティブラーニングの方法の3レベルの分類が、実践的にわかりやすかったので、紹介します。
以下、本文から引用です。
協調学習や問題解決学習は、アクティブラーニングのために新たに開発された技法ではないが,その中心的には方法として位置付けられている.そのため,次元が違う複数の教育方法が混在しており,方法を列挙しただけではその構造がわかりにくい.そのため,アクティブラーニングの方法を3つのレベルに分類し,理解の一助としたい.
レベル1は,「知識の共有と反芻」に関する方法である.アクティブラーニングにおいては,教員から学生へ情報が提示されるだけではなく,学生がそれを主体的に解釈し,話し言葉や書き言葉で表出することが求められる.特に「書く」活動は分析や統合に直結するため重要であり,ミニットペーパーのように授業中に書いた文章を学習者同士や教員と共有し,学習者が学んだことを反芻する方法はその代表的な例である.
レベル2は,「葛藤と知識創出」に関する方法である.多様な背景を持つ複数の学習者が相互作用すると意見のぶつかりあいが起きるが,それを乗り越える過程で新たな知識が生みだされる.ジグソー法などが典型であるが,協調学習の多くは社会的相互作用の過程を知識創出につなげることを目的として行われている.
レベル3は,「問題の設定と解決」に関する方法である.問題基盤型学習(Problem Based Learning)とプロジェクト学習(ProjectBased Learning)が例として考えられる.この2つの方法は課題や正答があらかじめ決まっているかどうかという違いはあるものの,学習者が問題を解決するという基本的な図式は共通しており,アクティブラーニングを実現する最も高度な方法としてとらえられる.
上位レベルの方法は,下位レベルの方法を道具的に使用することがある.例えば,プロジェクト学習において協調学習は一般的であるし,協調学習において学習者の意見を書き言葉で共有することは頻繁に行われている.
レベルが異なれば、プログラムデザインのロジックも異なるものになりますが、ファシリテーターとしての教員の役割もまた異なるものになります。以下、安斎の試論的な整理です。
レベル1「知識の共有と反芻」では、教えた知識をアウトプットさせながら理解を深めることが主眼ですから、明快な解説と課題の教示、適切なタイミングでのヒントの提示、ワークの時間の管理などがファシリテーションの主なポイントになります。
レベル2「葛藤と知識創出」では、徐々に「うまくいかないグループ」が出てくることが想定されるので、各グループの進捗の把握(グループ数が多いと、状況をモニタリングするのにもまたスキルが必要です)、意見が衝突してしまった際の交通整理、また理解の深化を促すための「問いかけ」など、足場かけを充実させることがファシリテーションのポイントになるでしょう。
レベル3「問題の設定と解決」のファシリテーションは、かなり複雑なものになります。レベル1、2でポイントとなった工夫はもちろん、時にプロジェクト学習においては、学習者自身が意味を感じられる問題を設定できるように、過去の経験の内省を促したり、内発的に動機付けるための働きかけが必要です。また、プロジェクト学習においては解決策のアイデアの質が経験学習の質に影響するため、レベル2のように問いかけて学生自身に気づかせるだけでなく、アート・ワークショップと同様に、ときに教員自身が具体的なアイデアを提案したり、発想の視座を示すことで、学生を「触発」するような働きかけも必要になる場合もあると考えられます。ファシリテーター自身にも、問題解決のプレイヤーとしての創造性が求められるということですね。これが、実践経験の少ない大学の先生が、企業のビジネス課題やまちづくりプロジェクトを授業に導入するひとつのハードルかもしれません。(参考:芸術表現を促すということ)
以上です。アクティブラーニングに関心のある方は、山内先生の総説論文の本文も是非ご覧ください。
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