学び続ける組織文化をつくるために、MIMIGURIで実践している5つのこと
「VUCAの時代」や「ハイパーコンペティション時代」とも言われるように、先行き不透明で、気を抜けばすぐに競合に追い抜かれてしまうこの時代。
組織にとっても、個人にとっても、「ひとつのことを長く続ける」戦略はもはや有効ではなく、「学び続ける」姿勢が重要になっています。
こうした背景を踏まえて、以前noteで、学習論研究の蓄積を踏まえて「組織の学習観をすり合わせること」が重要であると書きました。
しかしながら、学習観の統一はあくまでもファーストステップ。そこで終わってしまっては、真に学び続ける組織にはなりません。
そこで今回は、統一した学習観を機能させ、学び続ける組織であるために、MIMIGURIで実践していることをご紹介したいと思います。
「アイデンティティを刷新し続ける専門家」が、組織に創造性をもたらす
具体的な実践を紹介する前に、その前提として、MIMIGURIが重視している価値観について説明します。
学び続ける組織をつくる上で、最も重要な起点は何か。
MIMIGURIでは、「探究」を通じて発揮される「個人」の創造性であると考えています。
MIMIGURIには、組織が創造性を発揮している状態を見取り図にした「Creative Cultivation Model(CCM)」というモデルがあります。
このモデルでは、「組織」「チーム」「個人」という3つの層が、それぞれのレベルにおいて創造性を発揮し、循環している様子を表していますが、根っこにあたる「個人」による探究が豊かでなければ、枝や葉にあたるチームや組織、事業は育ちません。
常に新しいものの見方が生まれ、学び続ける組織の状態をつくるためには、専門家の眼差しを持った個人が、お互いの眼差しを交錯させることが必要不可欠なのです。
重要なのは、ただ専門性の高いメンバーが集まることではなく、お互いの専門性が固定化せずに絶えず交錯し続けること。一人ひとりが自分の専門性を研ぎ続け、自らの専門家アイデンティティを刷新し続けることです。
そのためにMIMIGURIでは、「絶えざる専門性の拡張」「アイデンティティの変容」といった学習観を打ち出しています。
2つの専門家モデル:「技術的熟達者」と「省察的実践家」
「絶えず専門性を拡張し、自らの専門家アイデンティティを刷新し続ける」という専門家像は、哲学者のドナルド・ショーンが提示していた「省察的実践家」という専門家モデルにも重なるので、ショーンの提示した2つの専門家モデルをここで紹介しておきましょう。
左側の「技術的熟達者」とは、従来的な専門家像を指しており、ある特定の専門分野に習熟していて、既存の知識や手法を用いて「教科書通り」に問題に対処するような人々を指しています。
一方、右側の「省察的実践家」が、ショーンが提示した新たな専門家モデルです。省察的実践家は、自分の専門性の枠を超えるような問題にも果敢に挑戦し、実践と省察を繰り返す中で、専門性を拡張していきます。
たとえば、技術的熟達者としてのデザイナーは、UIデザイン領域に習熟していて、既存の手法や規則に従って高度なアウトプットを出すことができる人物像を指します。専門領域における過去の成功事例やトレンドを参照しながら、顧客要件に合わせたUIをデザインできるのが強みで、逆に言えばUIデザインの範囲を超える案件は引き受けないのが、このタイプの専門家です。
一方、省察的実践家としてのデザイナーは、自分が習熟してきたUIデザインの専門性にとらわれずに、状況や顧客のニーズに応じて独自の手法やアイデアを考案することができます。それは時にUIデザインの範囲を逸脱したり(マーケティングやカスタマーサクセスなど)、自分の身につけてきた定石に合致しなかったりします。しかしこのタイプの専門家は、複雑な問題を柔軟に解決することを優先し、顧客と対話し、自分の行動を振り返りながら、創造的な解決策を提案できるのです。
なぜ省察的実践家的な専門家像を目指す必要があるのかと言えば、「自分の専門性の中だけで解決できる問題しか扱いません」という姿勢では、現代社会の複雑化した課題に対応することができないからです。
また、自身の専門性を拡張し続けることは、個人のキャリア戦略にとっても有効です。
『LIFE SHIFT』の著者である経営学者のリンダ・グラットンが「連続的スペシャリスト」という言葉で指摘したように、人生100年時代を1つの専門性だけで切り抜けることは不可能だからです。
世の中の問題が、既存の分化された専門領域の中では解決不可能になっていることを、ショーンは半世紀近く前から見抜いていたわけです。
現代の課題を解決するには、1人の専門性だけでは立ち行かず、さまざまな専門性を持った人材によるコラボレーションをする必要があります。MIMIGURIの学習観において、個人によるインプットではなく、「コミュニティへの参加」や「集団の変化」を重視しているのも、そうした理由によるものです。
学び続ける組織をつくるため、MIMIGURIで実践していること
「権威ある専門家を目指す」という旧来の専門家モデルから、「絶えず専門性を拡張する」という新たな専門家モデルへと学習観をシフトさせることによって、専門家としての取り組みは大きく変わります。行動が変わり、得られる知識や情報が変わり、ものの見方やアイデンティティまでもが変わるでしょう。
ただし、こうした「シフト」を起こすのは、そう簡単ではありません。
というのも、「ものの見方」「価値観・信念」「アイデンティティ」といった人の学びの深層にあるものは、学習者自身が変えたいと思ったところで、そう簡単には変わらないからです。
本人の意志でコントロールできないものは外部から支援するのも難しく、企業が社員を育成しようと思っても、結局「研修でスキルを身につけさせる」といった表層部分の学習支援で終わってしまいがちです。
しかしながら、学び続ける組織をつくる上でも、また個人の成長にとっても、深層にある「ものの見方」や「価値観・信念」、「アイデンティティ」が変わることはきわめて重要です。
冒頭でも書いた通り、学習観の統一と明文化は、そのためのファーストステップとして重要ですが、そこからさらに先に進むためには、組織として何をすればよいのか。
そのための方法論は僕自身まだまだ模索中ですが、現在MIMIGURIで実践していることを書いてみます。
1.一人ひとりが探究テーマを設定する
MIMIGURIでは、自分の得意分野を磨き込みつつ、やったことのない領域に手を伸ばすこと、すなわち「知の探索」と「知の深化」という両利きの経営を、一人ひとりが実践することを推奨しています。
しかし、そう伝えるだけでは単なるスキルの探索と深化になってしまうため、目標設定の面談の場で、スキルを含めた探究テーマを設定してもらうようにしています。
探究テーマを設定してもらうことで、自然と「自分は何を探究している人間なんだろう」と考え始め、自分の専門家アイデンティティに向き合わざるを得なくなります。
その後は、マネージャーとの1on1などの場で壁打ちをしながら、探究テーマを刷新していくことで、自己の専門家アイデンティティを刷新していけるのです。
2.評価面談を「リフレクションの場」として活用する
一般的な評価面談は、自分の成し遂げた成果を報告して、それを基準と照らし合わせるという評価の場だと思いますが、MIMIGURIでは評価面談を「リフレクションの場」と意味づけし、自分のやったことを通じて「自分がどう変化したか」を語ってもらうようにしています。
評価面談の場では、上司だけではなくプロジェクトメンバーたちも一緒になって、リフレクションに対するコメントをします。上司は達成したことだけでなく、その変化のプロセスも含めて、最終的な評価をつけます。
目標としての探究テーマを設定し、半年後の評価面談では、自分のアイデンティティにどのような変化が起きたのかをリフレクションする。このサイクルが、よく効いているように思います。
3.経営陣が学び手であり続け、その様子を発信し続ける
学び続ける組織をつくるためには、経営陣自身が学び手であり続けることは言うまでもなく重要です。
しかし重要なのは、学び続けている様子を「発信する」こと。
MIMIGURIの経営陣は、必死に学び続け、自身のアイデンティティが変容している様子を、社内ラジオやポッドキャストで赤裸々に発信してます。
たとえばこちらのラジオでは、CULTIBASE Radio マネジメントの100回目を記念して、過去のラジオでの発言内容を参照しながら、僕とミナべにどんなアイデンティティの変容が起こったのかを語っています。
また先日は、MIMIGURIのCXOが登壇する社内ラジオの場で、僕とミナベが去年新しくCCOに就任した小澤美里の「野望」を引き出す、という公開コーチングを行いました。
一般的に、経営者や役員は、ミスや弱みを見せないようにするものですが、MIMIGURIではそう考えていません。
必死に学び、アイデンティティを模索する姿を経営者自身が晒け出すことで、メンバーの学ぶ意欲を触発することができるのです。
4.学習観のインストールを定期的に行う
これまで何度もお伝えしてきたように、学び続ける組織をつくるには、学習観を統一し、向いている方向を揃えることが重要です。
MIMIGURIでは、「学習とはアイデンティティの変容である」といったメタ的な学習観を、全社会などの会議の場で定期的に説明するようにしています。
地道な作業にはなりますが、こうして繰り返しメッセージを発信し続けることも、学習観のシフトのために必要なピースだと考えています。
5."社内越境学習"を可能にする「マトリクス組織」を採用する
MIMIGURIでは、職能組織と事業部から成るマトリクス組織を採用していますが、この組織形態も、メンバーの物の見方や価値観、アイデンティティに変容を起こすことに一役買っています。
たとえば、同じファシリテーター組織の中でも、コンサルティング事業にアサインされている人もいれば、CULTIBASE事業にアサインされている人もおり、これらの事業部を定期的にローテーションすることで、アイデンティティに「ゆらぎ」が起こるのです。
これは要するに、社内越境学習をしているような状態であり、MIMIGURIが60名という規模で複数事業をやっている理由も実はここにあります。
この規模であれば、一番儲かるビジネスに「選択と集中」でコミットするのが定石ですが、そうするとアイデンティティが固定化され、ゆらぎが起こりづらくなってしまう。組織の成長を最大限引き出そうとした結果、このような組織と事業になっているのです。
まずは「リフレクション」から始めてみる
ここまでMIMIGURIで実践している施策の一部をご紹介しましたが、とはいえ組織の構造や評価制度をいきなり変えることは容易ではありません。
では、まず何から手をつけるべきなのか。
比較的手をつけやすく、なおかつ最も重要な要素を挙げるとするならば、「リフレクション」だと思っています。
「自分のアイデンティティがどのように変容しているか」は、内省して言語化しないと絶対に認知できません。
自分はどんなコミュニティに所属していて、自分は何者なのか。専門家アイデンティティがあるとすれば、それは何なのか。
そうした問いについて振り返り、次の探究テーマを設定するリフレクションの時間を、少なくとも1年に1回以上は取るべきです。
リフレクションの時間は個人でも取れますが、組織開発の施策として新しく導入する上でのポイントは、「点でやろうとしないこと」です。相手のアイデンティティを問いかけるような対話が一度でうまくいくことは、なかなか起こり得ないでしょう。
先程紹介した小澤の公開コーチングも、日頃から経営チームでお互いのポテンシャルに目を向け、引き出し合う対話のセッションを何度も繰り返した上で行っていることです。短期で成果を出そうとせずに、継続的な取り組みを行うことが重要です。
リフレクションの詳しいやり方については、こちらの連載でも解説していますので、よろしければ併せてご覧ください。
MIMIGURIの仕事・採用などに関心がある方はこちらをご覧ください。
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