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マネジメントの「もぐら叩き」からいかに抜け出すか。ミドルマネージャーが心得ておくべき「問いのデザイン」の新原則とは?

経営層の方針をチームに伝え、実行に移すミドルマネジメントの現場において、「問い」のデザインがますます重要になってきていると感じます。

本記事では、2023年10月に開催し、大変好評だったウェビナー「チームを覚醒させる「問い」のデザイン:新時代のミドルマネジメントの真髄」の内容より、「問い」を活用したミドルマネジメントの新原則について、ケーススタディとともにご紹介します。

『問いのデザイン』の大幅アップデートを目指して

2020年に刊行した『問いのデザイン』の出版から4年近くが経ち、内容の改訂を検討しはじめています。特に組織の課題解決を担うミドルマネジャーに向けてコンテンツを肉付けし、アップデートに取り組んでいるところです。

きっかけは、2023年10月に開催したウェビナーでした。2023年6月にはじめて開催した一般向け大型ウェビナー「新時代の組織づくり」が非常に好評だったことを受け、その第二弾として今回のウェビナーを開催したのですが、なるべく強い告知文をつくろうと思った私は、無意識のうちに「問いのデザインを大幅アップデートします」という煽り文句を入れてしまい……。

告知が始まり、「問いのデザイン大幅アップデートって書いてありますけど、大丈夫ですか?」と社内メンバーに聞かれたことで、はじめて自分がその文言を書いていたことを思い出し、ウェビナーに向けて半ば強制的に問いのデザインをアップデートせざるを得なくなりました。

ただ、2020年の刊行から3年以上が経っていたことで、アップデートすべき部分が増えていると感じていたのも事実でした。『問いかけの作法』『リサーチ・ドリブン・イノベーション』『パラドックス思考』のような続刊も出ましたし、新CCMや冒険的世界観のような新しいテーマも出てきているので、新しい概念の枠組みを使って「問いのデザイン」を再解釈しながら、ミドルマネージャー向けに内容を整理する必要があるのではないかと。

アップデート作業を進める中で気づきとして得られたのは、『問いのデザイン』を書いていたときから、その根底に無意識に「軍事的世界観から冒険的世界観へ」という価値観が存在していたということ。当時はまったく言語化できていませんでしたが、冒険的世界観を大事にしたいからこそ「問い」や「対話」にこだわっていたのだと、納得がいきました。

『問いのデザイン』の序章も、「認識の固定化」と「関係性の固定化」という組織の現代病の話から始まるのですが、これらも軍事的世界観に適応した結果として起きていたこと。冒険的世界観という枠組みが得られたことで、「問いのデザイン」がなぜ重要なのか、コンテクストが強化された感覚がありました

無機質なKPI・数値目標から抜け落ちてしまうもの

具体的にどのようにアップデートを進めているのかというと、ミドルマネジメントを下記の10個のカテゴリーに整理し、「問い」を起点に各テーマに見直しを加えていっています。10月のウェビナーではそのうちの5つ、「目標設定」「ミーティング」「問題解決」「メンバー育成」「リーダーシップ」というテーマについて言語化し、「ミドルマネジメントの新原則」として紹介させていただきました。

今後アップデートをかけていきたい10テーマ
2023年10月のウェビナーでは5つのテーマに絞って解説

今回、これらの「ミドルマネジメントの新原則」を言語化することで得られた成果の1つは、『問いのデザイン』のときには一緒に議論していた「目標設定」と「問題解決」を、ミドルマネジメント論として考えるにあたって、明確に分けてアップデートできた点にあります。

まず、「目標設定」とは、マネジメントの起点になるものです。一般的な企業では、マネジメントのサイクルは半年間、あるいは四半期ごとで、期末や期初に目標を設定し、その達成を管理していきますよね。

そして、その半年間が冒険的な仕事のプロセスになるかどうかは、最初に立てる目標をどうデザインするかにかかっています。

目標設定面談は「上から降ってきたものを渡して終わり」となってしまっている企業も少なくないと思いますが、あらゆるものの出発点として目標設定はめちゃくちゃ重要であり、ミドルマネジメントを変えるには、まず目標設定の考え方から変える必要があります。

しかし、「目標設定の考え方を変える」とは、KPIなどの定量目標を定性目標に変えようということではありません。ポイントは、目標に「問いを埋め込む」ことです。

たとえば、SaaS企業などでよく設定される「チャーンレート(解約率)をX%下げる」という目標を例に考えてみましょう。

SaaSプロダクトにとって解約率を抑えることは重要なので、これは達成すべき重要な目標です。しかし解約率をどれだけ下げるといった後ろ向きかつ定量的な目標だけでは、この目標に取り組む前向きな意味が感じにくく、取り組む過程に熱量が持ちきれません。あまりに無機質すぎて「この目標のために、あれこれ試行錯誤しよう!」という好奇心が湧いてきません。要するにテンションがあがりません。とにかく数値を短期的に抑えることが自己目的化して、闇雲に表面的な施策を打ってしまうリスクもあります。

そこで、目標に定性的かつ感情を動かす「問い」を埋め込むことによって、「この目標達成を、何について深く考える機会にするのか」について言語化するのです。今回の例であれば、たとえば「チャーンレートがX%下がる、顧客の“真の成功体験”とは?」といった問いを埋め込のはどうでしょうか。

何も考えずに定量目標を追いかけるのではなく、半期のあいだに「何を探究するのか」を問いとして目標設定に埋め込むことで、無機質だった数値目標に意味が感じられ、わくわくするようなチャレンジの機会へと変わります

「目標設定に問いを埋め込むことで、そこから始まる新しい期間を冒険的な仕事のプロセスにしましょう」という話は、少なくとも『問いのデザイン』では書けていなかったことなので、今回のウェビナーの1つ大きな収穫になったかなと感じているところです。ウェビナーでは、こうした具体事例やノウハウをいくつか解説しました。

問題“風”のキーワードに振り回されるマネージャーたち

「目標設定」が出発点であるのに対し、「問題解決」とは、目標達成を妨げる期中の問題をどうマネジメントしていくか、というテーマです。

期初に目標を設定しても、思うように進まなかったり、途中で不測の事態が起きることは、往々にしてあることです。そして、目標がちゃんと達成されるように、こうした問題をマネジメントしていくことも、マネージャーの重要な仕事の1つです。

「問題解決」において、なぜ「問いのデザイン」が重要なのかといえば、実に多くのマネージャーが問題“風”のキーワードに振り回され、適切な課題設定をできずにいるからです。

マネージャーの視界には、「顧客からクレームが……」「エンゲージメントが……」「部下への権限移譲が……」と、日々ストレスフルなキーワードが飛び込んできます。これに対し、「クレームをなんとかしなきゃ」「エンゲージメントを上げなきゃ」と、モグラたたき的に対応してしまうマネージャーは少なくないでしょう。

職場に蔓延する、問題のようにみえる「単語」たち

しかしこれらの漠然としたキーワードは、このままでは解決可能な「問題」ではありません。なぜなら、「問題」とは、本来は「答えを考えるための"問い"」であるべきだからです。

ようするに、何らかの答えを出すことができる「疑問文」の形式になっている必要があるわけですね。キーワードのままでは、答えは出せない。マネージャーには、ストレスフルなキーワードに翻弄されることなく、目の前の現実の本質をとらえて、適切な「問い」を立てる力が求められるのです。

ふたたびSaaS企業のケースで考えるならば、期初に「今期はこのくらいの会員を獲得をする」という目標を立てたところ、途中でノーマークだったベンチャー企業が突然類似サービスをリリースし、自社サービスの古参会員が流出し始めた、というようなケースで考えてみましょう。

同じファクトでも、解釈(浮かぶ疑問)はバラバラ

この場合、このファクトに対する認識は、人によってけっこうばらけます。

「多少古参会員が流出していても、今期の会員数が堅調であれば問題なし」と考える人もいれば、「なぜ古参会員が流出しているのか?」「どうすればいまのうちに新規会員を囲い込めるのか」という問いを立てる人もいる。あるいは、「今こそ自社のオリジナリティを考えるチャンス。何を今後のサービスのコアにしていくのか?」と考える人もいると思います。

しかし、チームのみんなで協力して答えを出すには、「問題」はチーム共通の「問い」になっている必要があります。だからこそ、マネージャーは目先のキーワードに惑わされずに、ファクトを解釈して、何がいま本当に解決すべき「問い」なのかを考え続ける必要があるのです。

人間の感情が持つパラドックスを、ミドルマネジメント論に落とし込む

『パラドックス思考』を書いたときに、人間の感情の矛盾について探究した経験も、今回のアップデートに役立っています。

たとえば、「優秀なマネージャーほど、問題から「自分」を切り離し、問題を歪ませてしまうことがある」というのも、今回新たに盛り込んだ指摘です。

こうして「問いのデザインが大事」と言えば言うほど、リーダーは「いい問いを立てよう」と思うわけですが、そのリーダーもまた優秀で権力を保持しているがゆえのバイアスを持っています。未熟な若者が課題にぶつかっているのを見て「こいつのスキル不足のせいだ」という課題設定をしてしまったり、さらに悪化すると「こいつは使えない」など、周囲のメンバーを道具のように扱う態度がにじみ出てしまったりすることも。

そして、そうしたリーダーの態度は、周囲にいる人々の"声なき声"を、無意識のうちに封殺してしまいます。

先ほどの例で言えば、リーダーが「古参会員なんて、どうでもいいだろう」と断定的に発言すれば、「本当はそうじゃないんじゃないか」「古参こそ大切にすべきなんじゃ」と思っている部下たちの声が封殺され、みんなが納得していない課題が設定されてしまう、ということが起こり得ます。

こうした無意識のうちにあるバイアスや感情的な抑圧について、どのように考慮した上で問題設定するか、という部分については、『パラドックス思考』を書いたり、その後『対立の炎にとどまる』の翻訳者・松村憲さんと対談したからこそ、盛り込めた内容かなと思います。

問いをデザインするリーダーは、自分のパワーに自覚的になる必要がある

今後は、ミドルマネジメント論の残りの5つのカテゴリー(「モチベーション」「アイデア発想」「プロジェクト管理」「チームビルディング」「ストレス対処」)についても、アップデートをかけていきたいなと考えているところです。その際にも「問い」がカギになることは間違いなく、アップデートの過程の中で、「問いのデザイン」のもう一つの顔がさらに明らかになってくることでしょう。


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