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毎年新刊を出すために実践している、知的生産の4つのルーティーン

近頃は2冊の新刊を仕上げていて、終わりが見えてきました。

1冊目はチームづくりに関するもので、MIMIGURIのリサーチャーの池田めぐみさんとの共著。2022年頃から進めてきた共同研究の成果として2024年初夏に出版予定で、連休明けくらいに情報を解禁できそうです。

2冊目は、組織づくりに関する単著で、2024年秋頃の出版を予定しています。冒険的世界観の組織づくりを体系化した実践書になる予定で、僕にとって30代のキャリアの集大成的な書籍になりそうです。

どちらも楽しみにしていてください!

振り返ると、2020年にベストセラーとなった『問いのデザイン』を出版して以来、ほぼ毎年新刊を出してきました。

  • 『問いのデザイン』2020年6月

  • 『ワークショップデザイン論 第2版』2021年1月

  • 『リサーチ・ドリブン・イノベーション』2021年4月

  • 『問いかけの作法』2021年12月

  • 『パラドックス思考』2023年3月

アウトプットのペースを保つために、知的生産性を高めるためのルーティンと環境構築にはかねてから心血を注いできましたが、特に効果的だと思うポイントを4つ紹介したいと思います。

①小さなアウトプットを"出世魚モデル"で育てる

第一に意識していることは、いきなり書籍や論文などの「大きなアウトプット」をゴールにせずに、日常的に「小さなアウトプット」出し続けることを定常化して、その中から「有望なものを育てる」サイクルをルーティンにすることです。

この感覚を見事に言い表していたのが、編集者の竹村俊助さんの著書『書くのがしんどい』で紹介されていた出世魚のモデルです。

竹村俊助(2020)『書くのがしんどい』CHAPTER5より引用

いきなり長文を書こうとするから続かないのであって、まずはスマホにメモを取るところから始めて、それをXなどにツイートして、反応がよかったものをブログにまとめて..と育てていくという考え方です。

これはまさに僕も大学院生の頃から実践している考え方で、ツイッターで反応がよかったものをnoteにまとめて、それを書籍の切り口やパーツ設計の試論構築・テストマーケティングにしていました。出世魚モデルは社内でも推奨して、知識創造の共通言語になっています。

発信したコンテンツの中には、あまりリアクションが得られなかった、スベった"稚魚"たちもたくさんいます。そこに一喜一憂せずに、10本のうち1本でも出世すればいい、という感覚で出し続けることが重要に感じます。後述しますが、最近は音声プラットフォームVoicyに「安斎勇樹の冒険のヒント」というチャンネルを立ち上げて、毎日約10分の音声配信していて、これが僕にとっての出世魚メディアになっています。

②生煮えの知を、面白がってくれる仲間・コミュニティをつくる

第二に、出世魚がまだ育たない稚魚のうちから、自分のコンテンツを面白がってくれる仲間を、研究のプロセスに巻き込むことを意識し続けています。

大学院生の時代は「ゼミ」がそれにあたりましたが、博士号をとってからは、次第に消失。学会コミュニティはありますが、どうしても"稚魚"というよりかは、"成魚"手前の成果報告になりがち。まだまだ知が生煮えで荒っぽいうちにカジュアルに共有できる場は、希少になっていきました。

そんなときに、2017年に会社を作って、関心を共有できる近しい仲間が増えたこと。そしてCULTIBASE Labの前進となるオンラインコミュニティを立ち上げ、探究心溢れる会員さんたちが参加してくれたことで、生煮えの知を一緒に育てあえる仲間に恵まれたことが、自分の研究の知的生産を大きく支えてくれました。

実はベストセラーとなった『問いのデザイン』も、CULTIBASE(当時の名称はWDA)の内部に「『問いのデザイン』執筆応援団」という自主コミュニティが立ち上がり、そこで多くの会員さんが僕の書きかけの原稿や、試しに作ったコンテンツを面白がってくれ、ときにフィードバックをくださったからこそ、書き終えることができました。

③探究テーマを、定期的にアップデートする

第三に、自分のアウトプットの軸となる「探究テーマ」を設定して、それを定期的にアップデートすることです。探究テーマとは、自分の実務の関心と、概念的な関心をつなぐキーワードや問いのこと。

大学院生の頃までは博士論文の題目である「創発的コラボレーションを促すワークショップデザイン」が、=探究テーマになっていましたが、博士号を取得してからは、かなり意識的に自分の探究テーマをデザイン、アップデートしていく必要がありました。

ゼロから研究テーマを策定して深める技術については大学院で学ぶことができますが、キャリア形成においてテーマを切り替えていくトレーニングは大学院では受けていないためです。

私自身は、あるタイミングで、SNS「ワークショップの研究を辞めます」と宣言して、新しい探究テーマである「問いのデザイン」に軸足を意図的にズラしました。こうでもしないと、周囲は「安斎=ワークショップの専門家」と認識し続けるため、過去のテーマに自分自身がいつまでも引きずられてしまうからです。この辺りのことは、Voicyで好評だった「小さく仕事を辞める"ソフト退職"のすすめ」や、以下のnote記事「戦略的トラベリング」でも解説しています。

現在は「問いのデザイン」に磨きをかけながらも、次の探究テーマである「軍事的世界観の経営論からの脱却」「冒険的世界観の組織づくりの体系化」に挑戦しているところです。

探究テーマは、研究者に限らず、あらゆるビジネスパーソンが設定すべきだと考えています。これはキャリアの「目標」とは似て非なるもの。ビジネスパーソンにとっての探究テーマの重要性や設定のコツは以下のVoicyで解説しています。

④知的生産ルーティンを見直すルーティン

最後に、こうした知的生産のルーティンそのものを定期的に見直すことをルーティン化することです。

私は年末年始に必ず、1年間を振り返って「結局のところ、"自分の才能"とは一体なんなのか?」という問いでリフレクションをして、仮説を更新するようにしています。そしてその仮説をもとに、知的生産のルーティンや環境構築を再設計するようにしています。

たとえば、2021年に『問いかけの作法』を執筆していたときのこと。ディスカヴァー・トゥエンティワンの担当編集者の方から「安斎さんって、文章書くの、得意ですか?」と、突然聞かれたのです。これだけ聞くと失礼極まりないのですがw、意図を聞くと「安斎さんは、"絵"を描いているのではないか。そして描いた絵について、文章で補足している気がします」というのです。発言はうろ覚えですが。

正直、これにはギクっとしました。確かに私は、文章を書いている時間よりも、モデルを描いている時間のほうが圧倒的に楽しい。『問いかけの作法』でも、根幹となるモデルを何枚も何枚もスケッチし直して、磨き込むプロセスに情熱を注いで、それをちゃんと届けるために文章を書いている。そんな感覚でした。

書籍『問いかけの作法』のメインスケッチのひとつ

この気づきを経て、2023年の年始のリフレクションで「結局のところ、"自分の才能"とは一体なんなのか?」と自問自答したところ「文章を書くのは自分の才能ではない」「暗黙知を言語化する、モデルの描画能力である」と仮説を立てて、自分の知的生産のリソースを「モデルを作ること」に集中させ、文章のライティングは、編集者・ライターの方になるべく外注することにしました。この記事は珍しく自分が書いていますが笑、2023年以降のこのnoteの文章は、8割以上は自分で書いていません。

そうして新たな組織づくりのモデルの描画に集中したことで生まれたのが、以下の組織づくりの新たなモデル"CCM"です。

ちなみに2024年の年始のリフレクションでは、ここに「日常の何気ない気づきを、小噺(こばなし)で伝える」という才能仮説が追加されました。自分の知的生産のリソースは「描くこと」と「話すこと」に集中し、なるべく「書くこと」に時間は使わないようにする。これが、今の私の知的生産の方略です。

なぜVoicyチャンネル「安斎勇樹の冒険のヒント」を開設したのか

以上の4つのポイントを意識した時に、いまの自分に必要なルーティンは、日々の生煮えの思考から生まれた"稚魚"を、文章で書き下すのではなく、音声で発信する時間なのではないか、と思い始めていました。

私のなかで、知的生産のルーティンが上手なロールモデルの方が何名かいますが、そのおひとりが、学びデザイン代表の荒木博行さん。ご著書に『独学の地図』『自分の頭で考える読書』などがあり、学びに関するエキスパート。

そして荒木さんといえば、Voicyチャンネル「荒木博行のBook Cafe」。2018年から1日も休むことなく毎日音声配信をされていて、どうしてそんなことができるのか…自分には到底不可能だ…と思いながらも、その知的ルーティンにどこか惹かれる感覚もあり。以前から何度かオンラインで対談させていただいたことはあるのですが、昨年の秋に初めて対面でお会いしたのです。

2023年の秋にランチをしながら、音声配信について相談

この時に荒木さんから「Voicyやったほうがいいですよ!」と背中を押していただいて、開設することになったのが「安斎勇樹の冒険のヒント」です。

これまでもnoteで提唱してきた「冒険的世界観」の組織づくり・マネジメントから、個人のキャリアデザイン、仕事術まで。日々のちょっとした気づき、新刊の執筆の進捗など、生煮えの知を毎朝7時頃に約10分間で配信しています。今のところ、荒木さんの背中を追いかけて毎日配信を継続しています。中でも人気のオススメ回は、以下。

ちなみにこの記事の副音声解説も、この記事の公開と同時にVoicyにアップしています。記事では触れていない、知的生産を支える健康投資の話も。

ぜひVoicyアプリでフォローして、お好きなコンテンツを聴いてみていただけると嬉しいです。バックグラウンド再生、連続再生、BGM変更、配信通知など、アプリがとても便利です。それでは、明日のVoicyでお会いしましょう!

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