大喜利から学ぶ #問いのデザイン IPPONグランプリのお題の9パターン
人間の創造性のメカニズムは、身の回りのさまざまなソースから学ぶことができます。特に私は大学院生の頃から「お笑い」が持っている"文脈をリフレームする(ボケが文脈を逸脱し、ツッコミが文脈を回復させる)メカニズム"は、イノベーションプロセスにかなり類似性があると主張していて、これまでの著書の中でも、イノベーション論からみるサンドウィッチマンのコントプロセスの分析などもしてきました笑。
5.6万部のベストセラーとなった書籍『問いのデザイン』の観点からいえば、「大喜利」というお笑いのフォーマットは非常に学ぶことが多いです。芸人が卓越した創造性を保有していることは前提ですが、芸人のポテンシャルを引き出すも殺すもお題の設計次第という点では、問いのデザインの重要性に似ています。たとえば2009年から放送されている人気番組『IPPONグランプリ』を観ていると、特にそのことを実感します。芸人の采配もさることながら、「お題」自体に工夫が凝らされていて、視聴者自身も考えたくなるような魅力的な問いが、次々に提示されます。
おそらく放送作家の方を中心に、過去のお題と重複しないように議論をしながら制作していると思われますが、過去のお題リストを観ていると、一定の問いのデザインパターンが存在することが見えてきます。これらはもしかするとファシリテーションやイノベーションプロジェクトに応用できるかもしれませんので、いくつか発見できたパターンをまとめてみます。※なお、毎回必ず出題される「写真で一言」は、選定される写真の情報の質量によってお題の性質がだいぶかわるので、分類対象から外しました。
1.微妙ランキング
ある状況において、ランキングの上位ではなく「下位」に該当する条件を問うパターンです。ランキング圏外ではなく、少数が回答した「下位」を答えなければいけないので、「ありそうだけど、少ない回答」を想像しなければならず、創造性が喚起されます。過去の例をみると、「87位」と「8%」が頻出しているようです。
2.オクシモロン
オクシモロン (oxymoron)とは、意味が矛盾する言葉を並べて、表現を豊かにするレトリックの手法です。シェイクスピアが多用していたと言われています。書籍『問いのデザイン』の事例で示した「危険だけど居心地が良いカフェとは?」などは、これに該当します。固定観念に相反する形容詞が与えられることで、トレードオフ関係のなかで、二項対立の先にある発想が誘発されます。2020年6月13日に放送された『IPPONグランプリ』の決勝戦の最後のお題「検便をエレガントに言い換えよ」も、このパターンだといえますね。(バカリズムの優勝回答は「クソワッサン」でした笑)
3.既存物語の拡張
すでに広く普及した童話や映画など既存のストーリーを前提にして、その物語の続きや、発展的な設定について問うパターンです。文脈がすでに固定化されていますので、その文脈に「乗りながら想像」したり、逆に既存の文脈では起こらなさそうな設定へと「ズラす」ような思考が誘発されます。
4.プラスワン
前述の(3)既存物語の拡張に似ていますが、既存のラインナップに+1を加える問いのパターンです。すでにあるものの文脈を引き継いでプラスするか、壊してプラスするかで回答の趣向が変わります。
5.不要機能
常識的に考えればユーザーにとって「必要のない」機能について、想像させる問いのパターンです。制約はシンプルですが、常識から一歩外にでながらも、はちゃめちゃな回答ではなく「面白い」ことを言わなければいけないので、ひと工夫が求められます。
6.境界ギリギリ
物事のAとBのカテゴリの境、価値の曖昧な領域の具体例について問うパターンです。これより左に行けばAにカテゴライズされてしますが、少しでも右に行けばBにカテゴライズされてしまう。そのような曖昧なラインを探るのは、創造性が求められます。
7.極端化
ある価値や意味を持った形容詞を、極端に誇張する文脈を設定する問いのパターンです。「もったいないことは?」と聞くのではなく「もったいないオバケが怒り狂ったもったいない事とは?」と尋ねることで、相当にもったいない、極端な状況を想像しなければいけません。
8.有名人リアクション
具体的な有名人のリアクションを設定し、その原因について想像させるパターンです。設定されるリアクションは、その有名人がやりそうなリアクションであるパターンと、やらなそうなリアクションであるパターンがあり、それによって誘発させる想像のベクトルは変わります。
ちなみに「耳打ち」という状況は、他のお題でも使われてるキーワードですねw
9. 何が起きる?
普段はやらないようなあるアクションをとった際に、それがトリガーとなって「何が起こるか?」と想像させるパターンです。アクションそのものは日常でもありえる(けど普通はやらない)行動があえて設定されていて、制約が強いようにみえて、実はかなり自由度が高い問いです。用意された文脈のリソースを利用しながらも、ここから面白い回答に接続させるには、ひと工夫が必要です。
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以上です。こうしてみると、やはりイノベーションプロジェクトに応用可能な問いのフォーマットがたくさんありますね。
それにしても改めて過去のお題リストを眺めてみると、制作者サイドの問いのデザインスキルに感服しました。本当はここに分類されていないお題が膨大にあり、もっとパターンを抽出できそうだったのですが、「俺、何やってるんだろう..」というメタ認知が働いたのでここまでにします。もし「こんなパターンもあるよね」という発見があったら、教えてください!
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