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英語論文1年生

このページはHCI Advent Calender 2023の7日目の記事です。

TL;DV

  • この記事は、英語論文を始めて書いて投稿した修士2年生の振り返り資料です。

  • ペルソナは、これから英語論文を出してみたい学生です。

  • 体験記から「何から始めるか」「初めての英語論文、日本語で書くか英語で書くか」「始めるときの自分へのアドバイス」などを僕なりに考えます。

自己紹介

阿部優樹です。北海道大学のHCI研究室に所属する修士2年生です。人が「物理的・身体的・能力的に参加できなかった社会的なつながりに参加できるようになる」ためのコンピュータの操作手法(UI)やデジタル体験(UX)に広く興味があります。

代表的な取り組みは、temaneki— slackのような効率性とLINEのような楽しさ* を両立する市民祭り用グループウェア の開発です。これは、知識差・意欲差から祭りの運営の参加を避けてきたお友達やご近所さんを、技術の力でサポートすることで、運営を通じた社会的なつながりに(それぞれに合った距離感で)参加できる祭り文化を目指しています。未踏事業の応援もあって現在はサービスとして運用してます。2023年からは、HCI研究にも力を入れ始めました。

*— この例が正しいのか微妙なのですが、intimacy, engaging なCMCと言いたいです。

なぜこの記事を書くか

これまで日本人のHCI研究者が行なってきた啓発活動に僕が救われたからです。例えば、temanekiを題材にした論文をCHI'24のCase Studyに投稿できたのは、HCI Advent Calender 2022のCHI'23のCase Study 体験記のおかげです(実はこの著者である荒川さんと矢倉さんにWISS2023でお会いしてお話しできたのが、僕的最近のビックニュース)。

そこで、僕もCHI2024への投稿体験記とその反省を書くことでコミュニティに貢献したいと言う気持ちがこの記事を書く動機です(あとWISSでHCI Advent Calenderに誘ってもらって嬉しかったから!)。
ちなみに投稿結果は、フルペーパー1本はリジェクト、Case Study1本は結果待ち。なので、詳しい内容が言えないしまとめるにはちょっと早いけど、HCI Advent Calender 2023の7日目として紹介します。特に、初めての英語論文の投稿だったので、これから投稿する人に参考になれば嬉しいです。

簡単なストーリー

フルペーパー

2023年4月にテーマを決めます。このときサーベイと探索的なユーザインタビューもしてました。5月はプロトタイプを作りながら論文の全体像を日本語で書きました。6月は実験計画を立ててました。7月は一旦全部微妙な感じになったので、1から10まで仮の結果を入れた英語論文を書きました。そのまま勢いで実験しました。8/9月は論文の図や英文を修正して投稿しました(記憶がない…)。11月に落ちました。12月現在は2024年1月の締切に向けて反省と書き直しをしています。

Case Study

2021年12月からtemanekiを開発していました。2023年未明から、CHI24のフルペーパを目指してtemanekiの結果をちょくちょく論文にしていましたが、ずっと論文の綺麗な全体像が見えず投稿を断念しました。しかし、9月後半、上記の荒川さんと矢倉さんCase Studyの記事を見つけてtemanekiがCase Studyとしてまとまる可能性を感じ、10月に投稿しました。現在は結果待ちです(投稿数が多く、結果発表が伸びている)結果は、5点中4, 3, 5, 4点でリジェクトでした(なんで!!😭)。その後、LBWsとして採択していただきました🎉🎉🎉

反省と議論

上記のストーリーの中で、初めの方に疑問だったこと、知っておいた方が良かったと思うことを反省してみます。

何から始めるか

今の僕は一旦論文を書こう!と考えます。理由は、考えている研究の主張や位置付けが整理されるからです(e.g., フルペーパーの7月)。さらに、下の本でも紹介されている通り、文字として整理すると、他の人がアドバイスしやすい良さもあります。

ここで、どのくらい書くの?と言う疑問が湧きますが、今の僕は全部書きます。関連研究も実験条件も結果(仮)も考察も。。。これはちょっと力技ですが、意外と自分が見えていないかった懸念点が見えたり、なんか安心するので、今はこれがいいなと思っています。

一方で、この主張は、僕がプロトタイプを作っていく、なんなら変に作り込みすぎる性格を考慮する必要があります。プロトタイピングは、MITの"手と心"=mens et manusで紹介されているように、プロジェクトの解像度を大きく向上させます。しかし、僕の場合(研究においては)いらないところまで作って論点がぶれたりする傾向があります。よって、今は論文から書く意識を持っています。実際には、論文を書きながらプロトタイプを作って研究の全体像を掴んでいくのが理想なのだと考えています(まあ凝りたくなって作るのに時間が溶けていくけど…!)。

初めての英語論文、日本語で書くか英語で書くか

論文を書こうと考えると、次に英語で書き始めるか、それとも日本語で書き始めるかで悩むかもしれません。今の僕は英語で書き始めたほうがいい派です。理由は、参考にする論文が英語で、かつ英語での論文提出がゴールだからです。僕は最初日本語で論文を書いてから英語にしていましたが(e.g., フルペーパーの5月)、2ヶ月ぐらいして、「英語で議論されている内容を日本語に訳す」ことに多くの時間を使っていることに気づきました(例えば、engagingやstackholderの日本語訳が意外と難しい)。一方で、論文を読んでいくと、英語の単語にそれぞれの意味的な感覚がついてきて(と信じている…)、結果英語の方が楽(とまではまだ言えないけど…)みたいな気持ちになります。よって、今は英語で論文を書き始めています。

しかし、日本語で考えることには大きな意味があると強調したいです。これは稲見先生のインタビューをまとめたNote「学会とは何なのか,特に国内学会の存在意義はどこにあるのか.」にもあるとおり、我々が外国語(英語)を用いて母国語(日本語)と同じ深さで考えることは相当な訓練が必要です。故にトレードオフなのですが、コアな部分は日本語で(e.g., 研究のクレーム)、論文を書くときは英語で、とかがいいのかもしれません。

始めるときの自分へのアドバイス

アドバイス-1: 焦らず。焦らず。ゆっくり。ゆっくり。
とてもふわふわしてますが、1つはこれです。4月の僕は焦ってました(e.g., まだ英語論文出したことない… "みんな"—これは本当はみんなではない—出してるのに僕は何をしてるんだ…)。でも、振り返ると、焦りは思わぬ遠回りにつながる危険性があります。具体的な3つの例をあげます。

例えば、論文を読むとき、1つ1つ、特に実験参加者のコメントも読みましょう。それは後で自分が、どんな実験参加者の発言をどんなふうに解釈し、文脈で埋め込んで主張を進めるかに役立ちます。

いっぱい添削しなきゃ!と思って何度も何度もハードスケジュールで読み直すのは必ずしもよくないです。客観的な視点や議論するべき考察を見逃してしまいます。

とにかく英語を書いて埋めなきゃと思って、深く考えず動詞や形容詞を使うのはやめましょう。(英語だから特に)気づかない間に意図しないニュアンスで伝わってるかも知れません。

これらは結果の一部であり、今回の「焦らない」というテーマに多少過剰フィッティングした解釈です。ただ、僕の研究は定性的な話が絡んでることもあり、上記の観点が痛手となってリジェクトされました。具体的なレビューはOriginalityがHigh(2 reviewers)/ Medium(1)/Low(1)、 SignificanceがMedium(4)、Research QualitygがLow(3)/Medium(1)でした。

僕は、この「焦らない」はまだ体得できていません。でも、色々試してみながら、焦らずに研究を進めることをこれから頑張ってみようと思います。

アドバイス2-好きな論文が「なぜ好きなのか」を考える
今の僕は、好きな論文が「なぜ好きか」考えるといいと思っています。理由は、なぜ好きかを知ることでその論文の著者の考え方が抽出され、自分の論文にも転用しやすいからです。例えば僕は、KAISTの研究が読みやすくて好きです。僕なりの理由が2つあります。1つ目は、読者が書いておいて欲しいことが書いてる感です。別の言葉でいうと、読者が気になることがその瞬間に言及される感じです。多くのKAISTの論文は、ドメインやデザインの選定理由を、欲しい時に欲しい分量で説明されると僕は感じます。2つ目は、実験結果での気付き(lessons learned)の書き方の上手さです。ここでの気付きとは、実験前は予期してなかったんだけど実験して見つけた面白い発見や教訓が含まれます。この「こんなことがあったのか!?」みたいな気付きを、ちゃんと「こんなことがあったのか!?」って英語で書くのが僕的には意外と難しいのです。でもこれを自覚してからは、この気付きを上手に説明している他の論文に出会う気づく確率が増え、試行錯誤できるようになりました。このように、「なぜ好きか」を考えて論文を見るといいかも知れません。いくつか好きなKAIST研究を載せておきます。「なぜ好きか」語り合いましょう。

  1. Snapstream: Snapshot-based Interaction in Live Streaming for Visual Art

  2. "Enjoy, but Moderately!": Designing a Social Companion Robot for Social Engagement and Behavior Moderation in Solitary Drinking Context

  3. “I Won’t Go Speechless”: Design Exploration on a Real-Time Text-To-Speech Speaking Tool for Videoconferencing

アドバイス3- HCI研究の、どの共通の目標のどこに貢献するの?
そんな感じで最近は、焦らず、じっくり言語化しながら次に目指す学会の論文を読んでいます。そこで見つけたことが、自分の研究報告に「HCI研究の大きな文脈にのっている感」がないことです。これは、WISS2023で荒川さんや矢倉さんとお話ししたときにも出た話題で、実際に荒川さんがさらに高い解像度で紹介してます。

この「HCI研究の大きな文脈にのっている感」(上の記事で言うトップダウン的なHCI研究)は今まで僕はあまり意識しておらず、むしろ「自分の文脈で!自分の好きなこれで!」みたいな気持ちを全面に活動していました(上の記事で言うボトムアップ的なHCI研究)。

このトップダウン・ボトムダウンの考え方は両方大事です。例えば、未踏でやったtemanekiはボトムアップ感満載でスタートしました(君が大事にしている"祭りの運営"ってなんすか…!?!?笑)。でも、PMらの助走によって、後半はそのモチベーションをどう社会に繋げるかというトップダウン的な考え方がマージされました。結果として、2023年2月にあった報告会では、採択時よりもプロジェクトの魅力を引き出せた発表になったのかなと考えてます(宣伝)。

同じように、自分の研究成果はどのHCIの目標に対してどんな貢献をするのか、みたいな研究的文脈やリサーチギャップがはっきりする意識が自分には重要なのかもと考えています。特に次出す学会の論文は、その多くが研究的文脈やリサーチギャップを大事にしているように見えるので、論文投稿を機に色々試せればと思います。

最後に

最後まで読んでくださりありがとうございました。長くなってしまいました。。
こういう記事を初めて書いたので、ちょっと緊張しました。自分はまだまだわからないことや知らないことだらけで研究しているので、この記事がどれくらい有益か分かりません。でも、自分がめっちゃ刺激されたように将来の研究者の力になれたらいいなと思います。その一歩目を祝して、今日はビールでも飲もうかな。

共同研究、一緒に研究したい方、ご連絡お待ちしています。特に、AccessibleなSocial-ComputingをvideoやVRインタフェースから考えることに最近興味があります。僕は、Rapid PrototypingやKAISTみたいな研究デザインを考えるのは比較的得意です。

何もなくても、札幌にいらした時はぜひ連絡してください!おいしいご飯を紹介します!

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