言えなかった「好き」の行方
私たちはさ、もう、大人になってしまったんだよね。
コントロールできなくなるほど「好き」が大きくなる前に、自分自身の心をうまく疑ったり、制御したり、相手が振り向く確率を確かめながら「まだ好きになってない」のか「もう好き」なのかを決めようとしたりする。そして事実、自分の意思で決められることだって本当はわかってる。
誰かに向けての恋心を、自分自身で取り扱うのが上手になった。トキメキだけで無邪気に飛びついて、過度に期待して舞い上がったり、些細な一言で浮き足だったり、体の外まで溢れ出そうなドキドキに支配されたりするのが、あんなにも楽しかったけれど。
生身の心をそのまんま両手で差し出すことで、簡単に大きな傷をつけられたり、その後も長く痛みを引きずってしまうリスクを、もう十分に知ってしまった。
生きていればさ、好きだなんて伝えないことが、正しい愛だと言える状況はいくらでもあるんだと思う。
相手に好きな人がいたり、自分の告白が相手の夢を邪魔することになったり、周囲の人を巻き込むことが目に見えていたり、伝えることで気まずくなるだけってわかっていたり、友達として築いてきた信頼や絆が大きすぎて失うことが怖すぎたり
思いを隠して隣にいる限り、ずっと自分は静かに傷つき続けることになる。でも口にした瞬間に、その1秒前と同じ関係性には二度と戻れないから、それでいい。
言わずにいたから笑い合えた、語り合えた、ふざけ合えた、気軽に電話もできたし、二人きりで会うことも簡単にできた。
透明で小さい、たくさんの刃が飛んでくる痛みにだけ自分が耐えていれば、隠し通せてさえいれば、二人の間には何も起こっていないことに出来る。今まで通り、あるいは重ねた時間に比例して、相手の中に生きる自分のまま大切にしてもらえる。
恋愛漫画なら、好きなのに好きじゃないフリをする痛みに耐えられなくて、想いを泣きながらぶつけたりするのかもしれない。隠せているはずだった恋心を見抜かれて、「もしかして好きなの?」と相手から問われたりするのかもしれない。言わずに終わることなんて滅多にないよね。
でもさ、そんな激情的シーン現実にはそうそう起こらないじゃん。
たった2文字を口にすることで、もう二度と元通りになれないことが目に見えていながら、感情に任せてそれをぶつけたり、簡単にバレるように振る舞ったりなんて、出来る人のほうが少ないよね。
あとみんな、隠すの上手でしょう?
そこそこ好きな人じゃなくて、それが本当に、本当にどうしても好きで、だから絶対に言えないと思っている相手には。
静かに芽生えて、密やかにお祝いされて、でもずっと枯れるまで奥に閉じ込められて、痛みを伴いながら、相手にはバレることのないまま最後まで綺麗に隠し通された恋が、どれだけあるだろう。
「ばいばーい!」って笑いながら手を振って別れた帰り道、静かに流れた涙がどれだけあるだろう。
その恋を知っているのが、世界で自分ひとりだとしても
相手にとっては全く存在していなかった恋だとしても
ちゃんと、そこにあったんだよ。
生まれたけど一番見せたかった人にだけは絶対見せられなくて、誰にも綺麗だね可愛いねって、褒めてもらえなかったかもしれない。恋として自分の体内から一欠片も世に出ることがなかったとしても
「苦しいから早く消えて欲しい」と願われていたとしても
その恋に名前をあげたいし、花束を渡したいし、祝福したいという気持ちで、このnoteを書いている。
そこに存在していたから、ぎゅううと抱きしめられるような嬉しさや、寝る前に「幸せだな」と思えた瞬間が増えたこと、忘れたいかもしれないけど、忘れなくてもいいんだよ。
そういう恋ばかり集めて、抱きしめ合いたいね。
恋心と引き換えにしてまで守りたかったものは、守り通せたかな。
頑張ったよね、痛かったよね、でも最後まで美しかったよ。
あなたしか知り得ないそのすべてがきっと、ちゃんと愛だったと思うよ。
超かっこいいじゃん。その痛みを抱えきることを決めて、今日を生きているあなたがどれだけ美しいのか、世界はいつか気づいてしまうね。
この先もずーーーっと、誰にも明かされることがなかったとしても
何が大事なのかを考えた先に、ひとりで痛みを抱えることを選んだ強さが、あなたの魅力に根付いている。
ぜんぶ忘れる日が来たとしても、育ててきた美しさは、消えずに残ったまま。