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オーディオ製品の価格は10年で体感3倍に

趣味製品の値上げ幅は情け容赦がありません

大量生産・大量消費が前提の生活必需品は、原材料の調達コスト増を発注量の規模の大きさで一定程度均すことが出来ます。しかし中小企業の趣味的な製品は、このような力技が不可能なのでダイレクトに価格へ転嫁されます。このところのオーディオ製品の値上げラッシュは、ちょっと青ざめてくるレベルです。
それどころか、部材調達が困難になり製造を中止してしまう製品が散見される非常事態になりました。すると、現状で調達可能なパーツに変更したついでに全体の設計を見直した「後継機」の登場をアナウンスするのですが・・・
しれっと旧型の2倍の値段になるような情報が出回っています。それも50万のヘッドホンが100万になるとか、そんなレベルです。(まだ確定ではない)

ハイエンドヘッドホンの進化の歴史

私がヘッドホンで本格的に音質に興味を持ち趣味として取り組むようになる10年前というのは、各社フラッグシップのヘッドホンでも20万円以下に設定されている製品が大半でした。私は20代の頃、Sennheiser HD800を長年に渡り愛用してきましたが、これも当時16万円。

HD800の登場が2009年で、長らく不動の名器として鎮座します。そして2014年くらいから新興メーカーが20万円超えのハイエンドヘッドホンをちらほら発売し始めるようになり、少しずつ「ヘッドホンバブル」の兆候が見えてきます。市場の動向は常にチェックしていますが、試聴してみてHD800からメイン機を完全に乗り換えようと決断するほどのヘッドホンは結局見つかりませんでした。

3年が過ぎた2017年秋に登場したFinal D8000。ようやく私もヘッドホン更新の決断をするときがやってきました。

HD800は7年近く使い続けました。一日1時間程度の使用ですが、ほぼ毎日聴いていて我ながら「よくぞここまで」と思いましたね。何度もイヤパッドの交換をしましたが、それ以外の部分はそこかしこに経年の傷が蓄積されていて。
私の感性の土台を築いてくれた存在です。

話の本筋を戻します。2017年~コロナ直前あたりまでが「ヘッドホンバブル」の最盛期であったように思います。ざっくり国内メーカーのフラッグシップで40万円、海外メーカーで代理店通すと50万円という感じ。またFocalのように、代理店がLuxmanに移管されたことで大幅な値下げに踏み切った例もありました。

これ以降も各社から新製品は開発されていくわけですが、この数年は明らかに勢いが落ちています。そして国際情勢の悪化がダイレクトに価格に転嫁され、「価格上昇分ほどの進化を実感できない」製品がちらほら見受けられます。
そもそも、物理特性の面からもFinal D8000 , Focal UTOPIAの登場時点で既に行きつくところまで到達してしまった印象があり、ここからさらに抜本的な性能向上は難しいのではないかと思うのです。

20万円台の選択肢が多く残されているのが「趣味として健全な市場」だと思う

「ハイエンドヘッドホン」という市場の開拓が始まり、10年間で確かに性能は向上し、価格レンジの上限はどんどん引き上げられていきました。そこで出会ったFinal D8000によって、私は明らかに一段隔てられたステージを飛び越えることが出来たのも事実です。
しかし過去を振り返ってみると、10年前に「現実的に手が届くハイエンド」として君臨していた20万円台の製品が、現在のラインナップでは非常に手薄になってしまっています。そしてそれらがあたかも「ミドルクラス」であるかのような位置付けとなり、今度はいきなりすっ飛んで50万円を超えるような事態になってしまいました。これではもう本当に「選ばれた」人しかそれらを手に取れなくなってしまいます。

HD800は後継機のHD800Sと合計して、それなりの販売数として実績があったはずです。オーディオは店で試聴するだけではその全てを理解することは出来ません。ハイエンドでありながらそれなりの台数の販売実績があるということは、自宅で長期間じっくり向き合い、環境を試行錯誤しそのヘッドホンの真価を垣間見たであろうユーザーが相当数いることを示すものです。
HD800は、現在においては最高の性能ではないかもしれません。しかしながら私の7年における経験から言えることは、非常に環境追従性が高く、また音楽的な表現にも優れたヘッドホンであることは確かです。システムの「ここを変えたら、音はこうなる」という積み重ね、その体験が大事なのです。それが耳と感性を成長させます。


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