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映画:『居眠り磐音』

連休を静かに過ごす、と決めると人間落ち着かなくなるもので。ならいつもならやらないことでもやろうかね、などと血迷えるらしい――。

アマゾンプライムに「居眠り磐音」が来ていたので、ついに手を出した。

原作は50巻以上出ている佐伯泰英の人気作。
かくいう自分もこれに手を出してファンの列に加わったひとりだったので、映画化の特報を知ったときは興奮しつつも不安になり。結局は無視することにした、という流れでの視聴となる。

最初に引っかかったのが、主演は安心の松坂桃李だったんだけど。
ヒロイン枠がなんとも不安にさせるキャストが入っていて「これはヤバいかな」と思った。

まぁ、これが想像通りだったわけですよ、お客さん!(?)
原作を知らず、役者さんのファンならば「これは傑作だ!」と叫べる内容にはなってるが。原作の魅力を知っている人間から見るとよくもこんな退屈に仕上げたなと冷笑を浮かべたくなるものとなっていた。

《ここから先は映画、原作の一部の内容に触れるのでネタバレが嫌な人、好きなものを否定されるのが許せない人はすぐに立ち去りましょう》

たとえるなら原作の良さを「カラッとした秋晴れの縁側で昼寝をする猫」とするなら。
この映画はそこに夏場の台風呼んできて、風で雨戸を吹き飛ばし、なのに縁側で無理やりにドンと腰を下ろして熱い茶をすする。そんな映画だった。

まず序盤が長すぎる!

磐音は未来に義兄弟となる友人らと江戸から故郷へ戻る、という流れだが。いきなり「居眠り剣法」のワードをだしたかったのだろう。江戸の道場で一戦いきなりはじまる。だけどこれがなんかすでに違うのだ。
まるで主人公は道場ではいつも舐めプしてる、みたいにしか見えない。剣法のほうも「逃げ回るのが得意なのかな?」程度の印象。

で、ようやく故郷に戻ったかと思ったら。なぜかダラダラと丁寧に余計な説明シーンが始まりだす。
これがまた退屈で苦痛だ。

それでもこのへんは主人公のすべてをぶち壊す悲劇ではあるので理解させたいと考えての事なのだろう。
でもね、テンポも重要だと思うのですよ。
ここで何よりも重要なのは始まってしまった悲惨な状況の連続に「え、あの仲良し3人がなぜ!?」と思えないとダメなのに。時間を見たら開始からすでに30分くらいやってて、まだ終わりそうにないのだ。

――2時間映画の4分の1かけてまだここかよ

脚本のつまらなさはこれでもう、ほとんど証明されたようなものだ。
そっから先は階段をおりるのにサーフボードで滑り落ちていくように。5分前後の間隔でがっかりが待ち構えている。

自分の妻となるはずだった女性の兄を手にかけたことで磐音の結婚は当然だが破談。中老の子でも許されぬと家からも放り出されてしまう。この辺から本格的に「なんだこれは?」な展開が津波のように押し寄せては困惑させてくれる。

半年後、再び江戸にでてきた磐音はなぜかいきなりうなぎ屋でうなぎさばいてる。
原作を読んでいればこの辺りの事情は知っているので納得できるものの、侍(浪人だけど)がうなぎ屋でうなぎをさばいているという特殊さをこの映画は軽い調子でしか説明しないので何もわからずに映像だけ見て「あー、そーなんだー」で終わってしまいそう。いや、終わるよなぁ。

一方、破談となった磐音の婚約者も全てを失い。
なのになぜかお偉いさんから「妾にならないか?」と誘いがあるとえらい強気をみせ、これをことわる。コレがワカラナイ。
だって断るにしたってその理由に「あたいの心に決めた相手は、先日ぶっ壊れた縁談相手なんですっ」とかおかしいと考える人はいないのだろうか?

これがいないのである。これ以降、この映画は磐音に「ぼくはお前の兄貴ぶっ殺したけど。縁談でも愛してるから結婚しようぜっ」と言わせたがるのだから狂ってる。制作人こそラリッているのではないだろうか?

このように序盤だけですでにうんざりさせられるが。
これが中盤、終盤と続くのだから拷問だ。

そもそもこの映画を見終わってまず思うのは磐音の居眠り剣法、どこでやってた?である。
相手の攻撃をはずしつつ、逃げ回るだけではないってのが見たいのだが。それがどこにもない。

それどころか序盤ではざっくり足を刀で刺され。中盤では腕を斬られ、終盤でもボロボロにされ。
だがこの磐音はアメコミキャラなのか。超回復能力をもっているらしく時間が少し進むだけで後遺症もなく平然と動き回れるという超人、ミュータントなのだ。

そして邦画特有の泣かせようとする演出が用意されている。
かつての婚約者は結局、身を売って女郎となり。その美貌で各地を転売。最後に江戸の吉原へとやってくる。

原作では主人公はこの道を追うようにたどるつらい旅路が描かれているのに。これをすっ飛ばしていきなり吉原に放り込むという雑さのせいで、主人公は何もできない。なので吉原で磐音は声もかけられずに見送るしかなく、ぶっちゃけ金がないと訴えて泣けと要求する。

吉原で男女で泣き演技って、前世紀の遺物にはまだ認定されないらしい。

そして最大の悲劇はこの作品。
元婚約者の奈緒と江戸のおこんのダブルヒロインのはずなのだが。エンディングまで見ると奈緒はおそらくはヒロインだったかもしれないが。おこんは別にいらなかったよな?治療するのと人質にならなきゃ、本当にただの近所のおばさんでおわってしまいそうな扱いだったことだろう。それでいいのか、未来の磐音の嫁よ。

まぁ、散々な時代劇になってはいたけれど。
磐音を演じた松坂桃李はイイ男だね。泣いてもボロボロにしても絵になるという。そこだけは満点を与えられると思いました。

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