見出し画像

『キーエンス解剖 最強企業のメカニズム(西岡杏/日経BP)』

超高給な無名企業

私が新卒時の就職活動をしていた十数年前から、「ものすごく給料が良い」と有名な企業があった。
しかし、その企業は、それまでの20年強の人生では、社名すら聞いたことがなかった。
「そんな会社が、電通や三菱商事やフジテレビよりも高給なのか」、そんな印象を持った記憶がある。
それが本書のテーマである、キーエンスだった。

日経ビジネスの記者である著者による本書は、そのキーエンスの「強さ」がタイトルの通り徹底的に「解剖」されている。

一言で言うと、「基本が超徹底されている」、という印象を受けた。
それは、業種は違えど、メーカーでB to Bの法人営業を行っている現在の自分の仕事にも、非常に勉強になる部分が多かった。

読書メモ

・「待ち」の姿勢ではなく先へ先へと様々な想定をして顧客に伴走し、顧客の仕事のサイクルを回す。顧客の潜在ニーズを具現化して顧客の仕事のスピードを上げ、質を高める。いずれもキーエンスの社員への取材で出てきた話だ。

・この営業担当者は室田氏を訪ねる直前、エーワン精密の別部署でレーザーマーカーの販売を終えていた。その去り際、いつもの習慣でこう尋ねた。「他にお困りの方はいませんか?」。

・それからの動きは速かった。数日後に再び来訪。1分ほどで自らレーザーマーカーの準備を整え、室田氏の目の前でデモを披露した。訓練を積んだ口調で機能を紹介し、質問への返事もよどみない。納得した室田氏は、その場で購入を決断した。

・パナソニックには、故障直後に連絡を入れ、購入意向を伝えていた。だが、パナソニックの営業担当者が電話をかけてきたのはキーエンス製のレーザーマーカーを購入した後だった。

・訓練された営業担当者が常に需要を探り続け、チャンスとみたら電光石火で勝負をかける。

・「ウェブサイトから商品カタログをダウンロードした1時間後に、突然電話がかかってきた」。キーエンスに「待ち」の姿勢はない。顧客の興味の兆しが見えた瞬間にアプローチし、自らのペースに巻き込んでいく。

・異動のことまで把握。顧客の要望を先回り。

・AGCレベルの大企業だと、キーエンスの各事業部の営業担当者が常に目を配り、電話やメールでまめに接触する。

・AGCの担当者は、「キーエンスは営業担当者の商品知識も頭抜けている。現場で競合商品の使い方すら懇切丁寧に教えてくれるので、ついつい相談してしまう」と話す。

・先回りして本質を探り当てて解決すれば、大きな価値を提供できる。顧客も気づかない潜在需要こそ、キーエンスにとっては宝の山なのだ。それは、スティーブ・ジョブズ氏が「人は形にして見せてもらうまで自分は何が欲しいかわからない」と喝破したのと通じる。

・電子部品の雄、村田製作所の中島社長は取引先であるキーエンスの力に脱帽する。「あの会社の付加価値は、もう人。彼らのすごい提案力です」。

・キーエンスは顧客の前でどれだけデモを見せたかの回数もKPIとして記録している。

・「言葉の選び方、話す順序を変えるだけで伝わり方が全然違う」「第三者に見てもらうことで新鮮な気づきがある」と兼田氏は話す。

・アポは1日5件から。1分単位で書き込む「外報」。

・キーエンスの営業担当者は「過密」とも言える1日を過ごす。週2日ほどの「社内日」は、午前8時半に出社後、午前中は電話やメール、オンライン面談などの顧客フォローをこなす。午後はアポ取り、見積作成などに充てる。電話は1日あたり30〜80件ほどに及ぶ。

・週3日ほどの「外出日」には、1日5〜10件のアポを詰め込むのが当たり前。あるキーエンスOBは「5件以上ないと、そもそも外出が許されなかった」と話す。徹底した合理化のためだ。「新人時代、1日2件しかアポが入らず、せっかく入ったアポを泣く泣くキャンセルした」とも証言する。

・営業担当者は商談の前後に、必ず外報(外出報告書)を記入する。どんな準備をしたか。どこを訪問して誰と会ったのか。そして、反応はどうだったか。分刻みで書き込む。「商談から5分以内に書く」という暗黙のルールもあった。

・1日の最後には、外報を使いながら商談状況と今後の方針について上司と擦り合わせる。

・営業が現在の保有機種や過去に購入を検討した機種などを顧客から聞き出し、商談後に外報に入力している。それがSFAに取り込まれ、後から新しい商談のきっかけとして活用される。

・SFAでは、自社の新しい商品を購入した顧客が以前はどの機種を持っていたのかを調べることもできる。乗り換え元となっている機種が見つかれば、様子を伺う電話をかける先の候補が見つかる。

・「最近は、この機種からの置き換えが増えています。この機能がポイントです」。そう自信を持って説明できれば、慎重な顧客の心を動かせるかもしれない。

・中田有社長は自社の営業の意義について「顧客と直接やり取りをしていることが一番大きい」と話す。営業担当者が顧客から丁寧にヒアリングをするから鮮度が高く深い情報が集まり、それが顧客にとって「かゆいところに手が届く」ような絶妙な提案につながる。 

・キーエンス社員を貫くのは「行動していたとしても、書かなければやっていないのと同じ」という発想だ。次の営業活動のヒントになるような情報をあの手この手で顧客から引き出した社員たちは、その結果や自らの行動を細かく記入していく。手間のかかる作業だが、これを徹底しておくことが、効率的で質の高い営業につながる。

・キーエンスの社員の評価は意外にも「プロセス」重視だ。報酬に反映するKPIに設定しているのは、「やれば確実にできるもの」。行動を変容させれば結果がついてくるという考え方が、根本にある。

・ディスプレー上の数字の正体は、担当者がその日にかけた電話の件数だ。しかも、自分のものだけではない。担当者ごとの電話件数が自動収集され、最新の数字がチェックできる。他の社員との違いも一目瞭然だった。

・顧客からの問い合わせがなくても1ヶ月に3〜4回は電話をかけ、「PLC(制御装置)は今なら納入まで3〜4ヶ月かかりますが大丈夫ですか?」など市場の状況をきめ細かく伝えていく。

・あるOBは「商談件数やキーマンのフォロー率など、数十個のKPIがあった」と明かす。いずれもプロセスを示す指標であり、それぞれ、数字を伸ばせば成功に近づくことが統計的に示されたものだ。

・別のOBは「自分の事業部では、それぞれのKPIの1位から最下位までの順位が週次で配信されていた」と話す。

・「固定電話のモニター機能を使って、横で話している部下の電話を上司が聞いていることもあった」と複数のOBが口を揃える。最初こそ抵抗感があるものの、徐々に慣れていくそうだ。「自分が困ったらカンペを出して助けてくれるので、むしろありがたい」という声もある。

・「キーエンスの社員は技術にも精通している」。こう評するのはAGCの生産技術担当者だ。そしてこう続ける。「営業担当者でもちょっとしたソフトを組める(=プログラミングできる)ことに驚いた」。

・「キーエンスは営業担当者がなるべく個人で、現場で解決することを強く意識づけられていると感じる」と話す。

・キーエンスの現場主義は有名だ。全国の営業拠点から顧客先の現場に張り付き、困りごとがないか、いい提案ができないかと日々探っている。

・「先輩が顧客に『現場を見せてもらえますか』と積極的に聞いていた。毎日が工場見学のようだった」という。

・現場に足しげく通い、顧客の困りごとを一緒に解決していくキーエンスの営業担当者。

・「裏にあるニーズが何か、しっかり確認してきてください」。キーエンスの営業担当者が上司からよく言われる一言だ。上司と翌日以降の訪問先について相談する時に、訪問の目的とゴール、顧客か、聞き取ったニーズや背景などを説明した上で、こう問われるのだという。

・入社後の研修でも、顧客に言われたままの「ニーズ」と、最初は顧客の口から出てこない本当の需要である「ニーズの裏のニーズ」は分けて考えるよう教え込まれる。

・「なぜこれが必要なのか」「これを導入してどんな成果を望んでいるのか」を顧客に問うことで、「ニーズの裏のニーズ」を探る。

・こうした真のニーズは、顧客自身も気づいていないことが多い。会話の中で「なぜ」と自問することで、ようやく気づいていく。

・この時、キーエンスの営業担当者が徹底的に意識するのは購買の意思決定者だ。キーパーソンをスピーディーに見分け、彼らの関心事にズバリと答えられる提案をしている。

・四半期から半年に1回くらいのペースで、定期的にキーパーソンに関する情報を更新していた。

・客先では「この件の意思決定はどのように進んでいくのですか」と常々確認し、そこで見えてきた意思決定者や、その人に対して強い影響力を持つ人の要望を丁寧に聞き取っていく。

・例えば電池を製造している企業から切断工程について相談された場合、通常の営業担当者は切断する対象物や切断方法についての知識を仕入れ、その切断工程に適した製品を提案するだろう。ところが、キーエンスの営業担当者の場合は電池の製造工程全体の知識を仕入れていくという。一部の工程での部分最低にとどめず、工程の大きな変更を伴うような全体最適を見越して顧客と話すことで、裏にある本当のニーズが見えてくることがある。

・「我々の営業は、顧客を訪問しているよりも社内にいる時間の方が長い。それだけよく勉強しているのです。これが、商品の良さを理解して頂くことに繋がっているのでしょう」
(瀧崎武光氏)

・「もっと分析の速度を上げたい」といった顧客ニーズをどう捉えるかがカギとなる。「測定作業にかかる時間全体」という多面的な捉え方をすれば、そもそも暗室での作業が分析全体の効率を落としているという切り口が見つかるかもしれない。これが、キーエンスがこだわる「潜在ニーズ」だ。

・先輩と何かしゃべるたびに「その目的は」と聞かれるんですね。今日どこへ何のために行くのか、そのために何をするのが一番いいのか、日常的に投げかけられていました。

・常に「こういうことを聞かれるかもしれない」と意識しながら会話する。

・どんな人がキーエンスに入社しているのかを社員やOBに聞くと、「責任感が強く、プレッシャーを楽しめる人」「考えるのが好きな人」といった人物像を挙げる人が多かった。

・取材で接した数十人についての話になるが、物腰が柔らかく、いい意味で自信があり、面倒見がいい人が多いという印象を受けた。

・商品の利用事例を顧客に紹介する時、他地区の事例も知っていると説得力が増し、受注できる確率が高かった。

まとめ

一つ一つの内容を見れば、「それはウチの会社でもやっている」ということも多いと思う。しかし、その徹底ぶりが群を抜いている。
そして、「なぜそれをするのか?」という明確な根拠が、全ての行動の背景に存在している。

人によっては、ものすごく窮屈な環境だと映るかもしれない。
しかし、このカルチャーによって人は育ち、付随して業績も向上する。
これが、今では「高給」だけではなく、「人材輩出企業」とまで言われるようになった同社の所以だ。

ものすごく勉強になった1冊です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?