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『男女平等ランキング2021で日本は120位。G7ダントツ最下位』って本当?調べてみました。(前半)

こんな記事を見かけた。

世界経済フォーラム(WEF)は3月30日、各国のジェンダー不平等状況を分析した「世界ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender Gap Report)2021」を発表し、毎年発表している2021年版「ジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)」を公表した。対象は世界153カ国。

ジェンダー格差が少ない1位から5位までは、アイスランド、フィンランド、ノルウェー、ニュージーランド、スウェーデン。日本は120位で、昨年の121位から1つ順位を上げたが、過去ワースト2の順位となった。その他、ドイツ11位、フランス16位、英国23位、カナダ24位、米国30位、イタリア63位で、日本はG7の中で圧倒的に最下位。韓国は102位、中国は107位で日本より上だった。

(中略)

日本は、2015年が101位、2016年が111位、2017年が114位と順位を落とし、2018年は110位に多少挽回、2021年には史上最下位の121位にまで転落し、今回120位だった。

https://sustainablejapan.jp/2021/03/31/global-gender-gap-report-2021/60498

なんと記事によると日本はジェンダーギャップ(≒男女不平等)の大きさが、世界156か国中120位と大変低い順位というらしい。この記事の通りであれば、日本はジェンダーギャップ後進国だ。

ただ、いくら日本が諸外国に比べてジェンダーギャップに関する取り組みが遅れているとは言っても、ランキングが156か国中120位というのは低すぎるように感じる。正直「本当かな?」と感じてしまった。

私は日本という国に対して、『依然としてジェンダーギャップは残っている国だが、ましになりつつある』という印象を抱いている。そして欧米に比べジェンダーギャップが大きいこと当然としても、世界中を見渡せば、特に発展途上国~中産国にはもっとジェンダーギャップが大きな国はあるはずで、個人体にはランキングとしては50~100位くらいになりそうな感覚だ。

自分の感覚と世界ランキングが結構離れていたので、いったいどういったデータからランキングを算出しているのか気になって調べてみた。国際ジェンダーギャップ指数なるものが妥当なのか、怪しい団体が作った怪しいデータから作られたダサイクル記事ではないか確認してみたくなったのだ(編注:私は男性であり、そうであってほしいというポジションの人間がこの記事を書いています)。

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石黒正数『ネムルバカ』より、ダサイクルの説明。
(社会学をダサイクルと馬鹿にする私の偏見がだいぶ入っている。しかし、社会学を馬鹿にする人々もまたダサイクルの環にいることに多くの人は気付いていない)

というわけで、タイトルの通り、まずはこの報道のソースである世界経済フォーラム(WEF)が発行した「世界ジェンダー・ギャップ報告書2021年版(Global Gender Gap Report 2021)」を読んで、ジェンダーギャップ指数とはどのようなものなのかを調べてみた。

なお、世界ジェンダー・ギャップ報告書の全文はかなりの分量で、私はそれをDeepLでの翻訳ベースでざっくりとみているので、勘違いも多いかもしれない。以下の内容や翻訳はあっているとは限らないことに注意。

■国際ジェンダーギャップ指数の妥当性について

前述の疑問「本指標の算出は妥当性か?」に対して私は「ジェンダーギャップ指数は限定的であるが妥当である」と判断した。

以下、何か「妥当」で、なぜ「限定的」と私が判断したかをつらつらと書いていく。

〇妥当であると判断した理由

①統計から算出された数値で、統計値が存在する国すべてのデータを取り、かつ同一指標を用いて継続して統計を取っている

ジェンダーギャップ指数を構成するインデックスは、国家の統計データから作成しているので、特定の国に対する有利不利や指標の作成者の恣意性が入りにくい。すべての国で同じ条件で比較できるようになっている。

また2006年から毎年同じ分析方法、分析手法で指標を作成して公開しているので、国どおしの比較だけでなく、同一国の過去からの改善度合いを見ることもできる。

世界中の国で手に入る統計情報で平等に比較できるものになって、毎年調査しているということは、当たり前のことのように思えるが、信頼性を保つために大事なことであるし、調査機関が責任をもって調査していることが分かる。

別の記事で述べるが、日本は過去15年にわたって国際ジェンダーギャップ指数の数値の改善幅が小さい、ということも、長年の調査実績によって数値化して見ることができる。


②複数の観点の評価指標を用いた複合的な指標である

ジェンダーギャップ指数は「経済への参加と機会」、「教育達成度」、「健康と生存」、「政治参加」という4つの観点(インデックス)から評価を行っている。各観点はさらにサブインデックスという下位項目に分かれていて、それぞれのインデックスも複数の角度から女性の格差を評価している。
複数のインデックス軸で見ることで、女性の格差という社会全体の問題を一次元の指標にそれなりに落とし込むことができていると評価した。

多くの国で統計が取られているデータを用いなければならないという制約の中で、女性の格差をこのように複数の観点から評価する設計は何気に難しいことをやってのけていると感じる。

③豊富な解説や参考資料

ランキングを算出するための各インデックスの分析方法や、各国の詳細な分析データ、取得方法が詳細に記載されている。おかげで私もDeepLの翻訳ながらおおよその分析方法を理解することができた。

分析方法を公開して多くの人が吟味できるようになっていることは当たり前ではあるが、数百ページの報告書で詳細な分析方法が公開されていることはそれなりの説得力を持っている。

また、今回は触れないが、ジェンダーギャップ指数の過去からの推移、世界的なジェンダーの課題、コロナ禍で女性の格差がどのように変化したかなどのランキング以外のトピックがかなり詳細に述べられている。ランキングよりも、そちらの付帯内容のほうが示唆されることが多く、面白い。


以上3点から、私はこのジェンダーギャップ指数は指標として持つべき属性である算出根拠と客観性を備えていて、妥当性を備えていると判断した。

〇限定的と判断した理由

ただし、このジェンダーギャップ指数が低いことがイコール日本が男女差別のひどい国である、とまで主張するのは飛躍だと考える。以下、なぜ飛躍なのかを、このジェンダーギャップ指数の見るうえで注意するべき点を述べながら議論する。

①発展途上国~中産国を対象としたような指標を用いている
たとえば評価項目として
・男女の産み分けがなされているか
・男女で識字率に差があるか
・平均寿命の男女差が大きくないか
といった指標があるが、これは少なくとも教育や福祉が充実した先進国ではほぼ満点で横並びだ。中産国ですらこれらの数値は先進国と差はないし、あってもわずかだ(注:日本は先進国です)。

途上国から先進国まで全世界を比較するためにこのような数値が入っているのだろうが、これらの数値がある中で先進国のジェンダーギャップ指数をランキングづけするのは適切ではないだろう。あくまで指数の値のみで議論すべきだ。

②相関性の高いサブインデックスの使用
妥当であると述べた点でインデックスのひとつに「政治参加」があると述べた。この政治参加分野のインデックスは以下の3つのサブインデックスから算出される。
・下院に相当する国会の女性比率(日本は衆議院)
・大臣の女性比率
・過去50年間の国家元首の女性比率

ところで、特に日本のような政治形態をとる国の場合、国会議員の中から大臣や国家元首を選ぶので、当然だがこの3つのサブインデックスの相関は高くなる。すなわち複数のサブインデックスから算出してインデックスを計算しているといいつつ、政治分野のジェンダーギャップ指数は、実質的に下院に相当する国会の女性比率で決まってしまうのだ。

全世界で統計が取られているデータを使用するという制約の中でインデックスを設計しなければならないためとは言え、もう少し適切なサブインデックスの選び方があったのではないかと言える(例えば有権者の男女比率や行政官や裁判官の男女比率など)。

③政治分野と経済分野の2つのジェンダーギャップのばらつきが大きすぎる
ジェンダーギャップ指数は「経済参加」、「教育達成度」、「健康と生存」、「政治参加」という4つの観点で構成されているといったが、実はこの4つの指標の国ごとの平均値や分散は大きく異なる。

下のグラフは各指標ごとの国ごとのジェンダーギャップ指数と分野別のジェンダーギャップ指数(インデックス)を示している。

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上から順に、国際ジェンダーギャップ指数(総合点数)、「経済への参加と機会」、「教育達成度」、「健康と生存」、「政治参加」の分野別ジェンダーギャップ指数。赤線はおおよその日本の位置、ダイヤが人口で重みづけされた世界平均値。

まず目につくのは、「教育達成度」と「健康と生存」はほとんどの国でジェンダーギャップ指数が0.9を超えて、かなり女性の格差が解消されていることだ。つまり、ジェンダーギャップ指数で見る限りは、この分野の女性の格差は世界的にかなり解消されつつある。

一方で「経済への参加と機会」の平均値は0.65程度、「政治参加」の平均値は0.22程度と低く、また国によるばらつきも大きい。つまりまだ世界的に女性の格差が残っており、その格差は国ごとに大きい。

国際ジェンダーギャップ指数は、これら4つの分野別のジェンダーギャップ指数を単純平均して算出している。そうすると、ばらつきの大きい指標である「経済機会」と「政治参加」のジェンダーギャップ指数がランキングに大きく影響し、経済機会と政治参加でランキングが決まってしまう。
(注:一般に複数の因子を単純平均するとばらつきが大きい因子の影響を大きく受けることになる)

「国際ジェンダーギャップ指数」と言っておきながら、この指標は実質的に「"政治と経済における"国際ジェンダーギャップ指数」だ。

また、②で述べた通り、政治分野のジェンダーギャップ指数は衆議院議員の女性比率がほかのサブインデックスにも影響を与えている。
つまり、かなり強引に言い切ってしまうと「国際ジェンダーギャップ指数」は日本においては「"衆議院と経済における"国際ジェンダーギャップ指数」を色濃く反映している。

このように一部の分野やサブインデックスが総合指標に対して影響を与えすぎている点はこの指標の抱える弱点だ。

④あくまで女性の格差を主眼に置いた比較である
国際ジェンダーギャップ指数の算出方法は、国の発展度合いを考慮に入れておらず、また、あくまで女性に対する格差が存在するかどうかだけを判断している。

国の発展度合いを考慮に入れていない、というのはどういうことか。
それは、一律にその国の水準において男女間の格差が存在しないかだけで国をランク付けしているということだ。たとえば、この指標を構成する数値の一つに男女別の識字率があるが、識字率が男性100%、女性80%のA国と、識字率が男性60%、女性60%のB国がある場合、男女による識字率の差がないB国のほうがジェンダーギャップが小さく、男女平等だと評価される。

また、「女性に対する格差が存在するかどうかだけで判断している」というのは、「この指標は男性に対する格差を見る指標ではない」ということである。たとえば識字率が男性100%、女性80%のC国と、男性80%、女性100%のD国がある場合、C国では女性の格差が存在するため指標が下がるが、D国では女性の格差は存在しないため指標は満点となる。

個人的な感想を言えば、はじめこの男性の格差をないものとする評価基準を知ったときは驚いた。
とはいえ、あくまで国際ジェンダーギャップ指数は「どれだけ男女が平等か」を見る指標ではなく「どれだけ女性の格差が存在するか」を見るためにつくられた指標と考えれば分からなくもない。

また実情として、一部の国を除き男性側に存在する格差の数はそこまで多くないので、「ジェンダーギャップ=女性の格差」と考えれば、2020年の段階ではこの評価基準でも大きな影響はなさそうだ。今後、必要とあれば女性の格差を無視した男性版国際ジェンダーギャップ指数を作ればいいわけで、まだその時ではないというだけだろう。

このような評価方法であるため、国全体の経済力や福祉、教育が低くとも、それらのリソースが女性側にも配分されていれば国際ジェンダーギャップ指数は高い順位になる。

まとめると、ある国で女性が生きるうえで十分な教育、福祉、経済、政治の環境があったとしても、男性がそれ以上に生きる上で手厚い環境であれば国際ジェンダーギャップ指数は下がり、逆に、女性にとって教育、福祉、経済、政治の環境が不十分であったとしても、男性がそれと同程度あるいはそれ以下の不十分な環境であれば国際ジェンダーギャップ指数は高くなる。

すなわちある国においてジェンダーギャップ指数が低いから女性が生きるうえで直面する困難さを多く抱えているとは言い切れず、ましてや社会がジェンダーフリーを意識しているかの度合いに直結しているとも言い切れない。
(※もちろんジェンダーフリー意識が共有化されている国家のほうがジェンダーギャップ指数は高くなる傾向がみられるかもしれないということは否定しない)

国際ジェンダーギャップ指数は、国家のリソースが女性にもきちんと分配されているかを測るために設計された指標いうことを意識しなければならない。

ここまでのまとめ

以上、国際ジェンダーギャップ指数の妥当性とその思想や課題について考察を述べた。

このジェンダーギャップ指数の算出方法は、統計データを用いて長年において分析されたもので、これらの数値によって各国や過去の女性の格差を比較することができるようになり、その算出方法も一定の妥当性がある。

そしてその算出方法のもと日本が120/156位であることには異論はない。

しかし、見た通り、国際ジェンダーギャップ指数は、日本が保守的な家長制度を採用し続けているとか、LGBT含む多様な社会を許容しきれないといった文脈のもとで語るべきものではない。

この指標を金科玉条のように担ぎ上げて、日本が男女差別がひどい国だと指摘するメディアを見るのは、本当にこの指標の中身を見ているのか?と疑いたくなる。

本指標において、日本の順位が低かった大きな要因は、
・女性の経済参加の格差が大きいこと
・衆議院議員の女性比率が低い(≒女性の政治参加率の低さ)
の2点に集約されると私は理解していて、この課題を数値として突き付けた点において国際ジェンダーギャップ指数の価値があると考えている。

特に、衆議院議員の女性比率の低さは、日本の政治分野全体のジェンダーギャップ指数に大きく影響して政治分野のジェンダーギャップ指数を押し下げ、ひいては日本のジェンダーギャップの順位が120位と低迷する要因となっている、と私は考察する。

そこで、次からは具体的な日本のジェンダーギャップ指数をみながら、ジェンダーギャップ指数からみる日本の女性格差の課題をみていきたい。

(②へ続く)


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