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煩悩が多すぎて、世捨て人にはなれない

前回、『極夜行』を読んだという話を書いたら、知人から、ぜひこちらも読んでみてと紹介された『ある世捨て人の物語』。

週末に高熱が出て、家に引き籠っていたので、これ幸いと読みふけった。夫が娘を連れて実家に帰ったので、久しぶりの一人の時間をこの本と共に味わった。

途中、熱が41度を超えて、意識がなかったけれど……

3年前に子供が生まれてからは、自宅のある東京に囚われの身となっているが、昔はよくフラッと姿を消していた。

会社員時代、朝令暮改の役員の下で働いていたときに、冗談で、彼の部屋のドアに「探さないでください 秋山」と張り紙をして、バルト海クルージングに行ったことがある。

もともと休暇の予定を2か月前から入れていて、有給申請もちゃんとしていたので、ルール違反ではないのだが、上司はすっかり忘れていたので、どんなリアクションするかな~~と、帰国もある意味楽しみだった。

真夜中、誰一人いない船の上のプールで、夜空をぼーっと見ながら、電話がならないってすごく贅沢だなと思った。

おちゃめな上司は、秘書から私の渡航スケジュールを聞き出し、メールもファックスも電話も届きませんからねと念を押してあったからか、次に立ち寄った港に「電話ちょーだい」と電報を打っていた。

やるな・・・どこまでいっても一人にしないつもりか!?
今度はシベリアに行く!?

そんなくだらないことを思い出しながら、27年間も人里離れた森に住むクリスの話を読み進めた。

クリスのストーリーもある意味すごいのだけれど、著者のマイケル・フィンケルがすごい。「どう考えても大の読書好きだ」と推察し、それを手がかりに、地道にアプローチし続け、クリスに取材オッケーさせただけでなく、人と距離を置いている人からこれだけ話が聞き出せるインタビュー力がすごい。

生活をしていくために、1000件以上の盗みを近隣で行っていたことなど、近隣の人々には恐怖の存在であったようだ。小野田 寛郎さんのことを思い出した。

物語は、ライトをあてる角度を変えると、大きく変わって見える。生き延びるためにやったことは許されるのか? 正しい答えなぞないのかもしれないが、人の思い出の品に手をつけるのはNGだと思うし、人に恐怖を与え続ける存在は、やはりNGなのではないかなと思った。

盗みをせずに、1人で森にこもって27年間過ごしたという話だったら、もっと素直に感動したのかもしれない。

寒いところ育ちで、寒いところへの免疫はあるけれど、ナイロン製のテントで極寒の森で過ごすのはイヤだなぁ~~、私は、寂しがり屋だし、舞台もテレビも本屋も大好きだから、1人で森での隠遁生活はやっぱり無理だなぁ…と、やってみれば?と勧められてもいないのに、なぜか自分が隠遁生活をする前提で読んでいる自分に気づいて、笑えてきた。

あぁ、煩悩が多すぎて、世捨て人にはなれない。

Title photo by Tom Zittergruen on Unsplash

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