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翻訳者のつぶやき なんで私が『臓器収奪ー消える人々』を... その20

前回のブログで触れた ジェニファー・ゼンのアテンドをする機会に恵まれた時の話です。(...実に物騒な書籍の翻訳者になってしまいました。その経緯と本書の内容に関わる逸話や情報をお伝えできればと、ブログを書いています。)

北京大学

【中国・民衆法廷】

『 臓器収奪ー消える人々』 で何回か登場するジェニファー・ゼンは、2018年から2019年にかけてロンドンを拠点に行われた「中国(臓器収奪)民衆法廷」の証言者の一人でもあった。こちらに同民衆法廷での彼女の証言録画(日本語字幕付き)陳情書(邦訳)がある。

民衆法廷とは、何らかの理由で国際機関や国家政府が触れない問題を取り上げ、国際法に基づき独立して判定する。法的拘束力はないが、今回の民衆法廷では著名な人権弁護士であるジェフリー卿がリードし、英国議会もメディアも中国での臓器収奪を無視することのできない展開となった。2度の公聴会にわたる50名以上の証言者から聴取し、数千ページに及ぶ文書、ドキュメンタリー映画などの資料7名の判事団が検討。2019年6月17日の裁定では、臓器収奪は「中国全域で、何年にもわたり、かなりの規模、行われてきており、法輪功学習者がおそらく主な臓器源」であり、ウイグルに関しては「臓器提供バンク」となりうる大規模な医療検査の証拠を得たと結論を下している。

裁定発表は実にフォーマルで、誰も判事団との接触は許されない。メディア対応として調査者や証言者がロンドンに招かれた。その中にジェニファーがいた。私のボランティアとしての仕事の一部にジェニファーのアテンドがあり、同じ宿に泊まって交流する機会に恵まれた。

「自由とは、人々が聞きたくないことを告げる権利」
2019年6月18日、BBCの建物の壁に彫り込まれた文字の前で。
(左から)ガットマン氏(『消える人々』の著者)、ジェニファー、
マタス弁護士、故キルガー元閣僚 (拙者撮影)

【記憶】

裁定発表の翌日も、彼女には様々なメディアからインタビューが入っていた。ある電話インタビューのために個室に入っていたジェニファーが部屋から出てきた時、普段の明るさが消えていた。「身体検査のためにバスで病院に連れて行かれた時、窓から自分達が見えないように、しゃがまされたことを思い出したの」と、突然、恐怖感に襲われた様子だった。拘束されていた当時は臓器収奪の認識はなかったのだろう。インタビューを通して犠牲者となりうる「可能性」が蘇ったようだった。

【学生生活】

彼女の北京大学での学生時代の話が興味深かった。精華大学は『消える人々』第二章にもあるように法輪功がどんどん栄えたようだが、北京大学は実にリベラルで気功ブームに乗って様々な研究がなされていたそうだ。同じ章に出てくる李有甫(リヨウフ)が、この時期に科学的に気功を証明していた話とつながる。彼女もこの手の授業を旺盛に履修していたとのこと。同時に、政府やメディアの押し付けを鵜呑みにするのではなく、自分で情報を集め、自分で判断するという基盤が北京大学のキャンパスでは着実に育まれていたようだ。この自由な教育が彼女の根強い抵抗の根底にあるんだと納得した。1989年の天安門事件以降、全てが変わり、新入生は全員、まず党の路線で考えるように教育されているという話だった。

キャンパスでの自由で闊達な交流や研究が梃入れされているのは、中国本土だけに限らない…中国共産党の教育を海外に発信している孔子学院の日本国内での数を見ると、深いため息がでてしまう。

関心のある方は、ドキュメンタリー『偽りの儒教』(52分)を是非見ていただきたい。

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ジェニファーは迫害体験を自ら綴り、出版している。中国語版と英語翻訳版の紹介はこちらへ。

ジェニファーがメインで証言している「フリーチャイナ」の英語版はこちらへ。



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