電気コンセント並に「簡単に使える」ネット回線が必要 #テレワークのハードル
日経COMEMO、今週のお題企画「テレワークのハードル」
ITベンチャーで情シス(社員向けのITシステム整備)部門に所属しており、コロナ禍でもまさに社員のテレワークサポートに追われた私が感じた「テレワークのハードル」を回答したいと思います。
それは
【電気コンセント並に「簡単に使える」ネット回線が必要】です。
あらゆるツールもネットに繋げなければ何もできない
私の所属するITベンチャーはコロナ前からリモート制度を用意していましたし、社員も総じて新しいテクノロジーへの受容度が高かったので、世間で言われるような様々な「テレワークのハードル」はあまり感じられませんでした。
けれど、そんな我が社の環境でも一つだけ大きなハードルとなったもの。
それが
「社員の自宅ネットワークトラブル」
です。
なぜこの課題が難しいかと言えば、主に次のような状況でした。
・原因はユーザーによって千差万別、サポートする側にも相当なネットワーク知識が必要
・PCがネットワークに繋がってさえいれば遠隔操作でサポートできるが、そもそもネットワークに繋がらないのでサポートが極めて難しい
(電話やチャット越しに「この設定はどうなっていますか?」「あの配線はどうなっていますか?」と確認しようにも難しい・・・)
・「賃貸住宅で提供されているネットワークの回線品質自体に問題がある上に個別で回線を引くこともできない」など、そもそもユーザーでは引越し以外に自宅回線の問題を解決できない場合も
電気に比べて未熟なネット回線の「使いやすさ」
これは決して社員のITリテラシーが低いのが問題ではなく、むしろ高度なIT知識がなければまともに使いこなせないネット回線側のテクノロジーが未熟であることの方に問題があります。
それは同じ社会的インフラの電気と比べれば一目瞭然です。
電気を使うためにはケーブルを電気コンセントに挿せば終わり。しいて覚えておくことと言えば、配電盤の電気ブレーカーのことくらいでしょうか。
電気を使うのに、ケーブルと電気コンセントの挿し方が悪くて動かないだとか、電気が正しい電圧で供給されるための配線には電気工事士の資格並の知識が必要だとか、そんなことってまずないじゃないですか。
しかし自宅の固定ネット回線となればそうはいきません。
壁の回線用コネクタから回線終端装置・ルータなどのネットワーク装置を正しく配線し、ネットワーク装置に接続用アカウントの設定を行い、パソコンからも正しくネットワーク設定を行い・・・
私はネットワークスペシャリストと呼ばれる資格を持ってますが、その立場から言わせてもらえば、ユーザーに求められている上記作業ははっきり言って激ムズです。
自動設定がうまく動いているうちは良いですが、ひとたびトラブルが起きれば専門家の私ですら自分ん家の自宅回線の問題を解決するのに苦労することもしばしば。
それはひとえに今の自宅ネット回線を設定するに当たって、背後にある専門的なネットワーク知識を理解している必要があるから。
ましてやリモート越しに他人の自宅ネット環境を解決するとなれば、それは極めて困難と言うほかありません。
ネット回線の電気コンセント化に一番近いモバイル回線
自宅のネットワーク環境に問題がある社員は、モバイルWI-FIルータを配ることで乗り切りました。
予めセットアップ済みのモバイルWI-FIルーターなら、ルーター接続用のSSID とパスワードを会社のパソコンに設定してもらえれば、電波圏内である限りほぼ確実に動きます。
どれほど自宅回線のトラブルに苦労したユーザーも、モバイルWI-FIルータさえ渡せばリモートができるようになりました。
つまり、モバイル回線は設定面の簡素さにおいて、ネットの世界に電気コンセント並の手軽さを実現するための切り札とも言えます。
ただ、モバイル回線をリモートの用途で日常的に使うのは今の料金形態から言って難しい。
データ通信容量の上限があり、テレビ会議を使っていればあっという間に消費してしまうからです。
今回は緊急事態だったので通信料金は会社負担で行いましたが、正直会社にとってもモバイル回線の費用面の負担感は少なくなかったです。
まして会社にそこまでフォローしてもらえない人−−−会社がリモート化に積極的でない人、学生などであれば、自宅のネット回線を改善する方法も分からないままリモートの恩恵を受けられずにいる人々も数多くいるのではないか。
最前線でユーザーを取り巻く自宅回線の難しさをサポートをしてきた身として、この危機感を強く感じています。
採算ありきの料金議論でなく、国民に提供すべきネット回線の姿から逆算した取り組みを
いつでも、どこでも、十分なだけインターネット通信ができるかどうか。
社会のひとりひとりがリモートワークやリモート授業の恩恵を受けるには、まずこの前提が満たされいるかどうかに大きく左右されます。
新しい生活様式の社会では、電気ガス水道と同じくらい、ネット通信をも十分に使えるかが、基本的人権を満たした社会生活を送れるかを左右します。
新政権が成立してから、モバイル料金の引き下げに関して
「採算性の面から妥当かどうか?」の議論が盛んです。
けれど、モバイル回線の持つ重要性を鑑みれば、逆に
「どういう料金、通信量、使い勝手であれば全ての人がネット回線のある生活を満足に送れるか?」を考えるべきではないでしょうか。
そしてその理想のモバイル回線サービス実現に向けて採算が取れないのであれば、国土のインフラ整備をするのと同じ感覚で税金を投入すべき。
そのくらいゴールからの逆算思考で物事を進めなければ、いくら表面的に料金を下げたところで、ますます
「ネット回線を十分に使いこなせる人」と「そうでない人」の格差が広まってしまうでしょう。