いつか見た夢の話

 あの夢を見たのはいつのことだったろうか。十年とまではいわないが、六年か、七年か……だいたい、そのくらい前の話になるかと思う。
 ある日、夢の中で自分の姿を見た。その夢の中での私は書斎と思しき部屋でデスクに向かい、眼鏡をかけて白いノートパソコンを使っていたのだ。この夢が、とても強く印象に残った。他の雑多な夢はすぐ忘れてしまうのに、なぜこの夢ばかり印象に残ったのか。それは、夢の中で見た自分の状況と、その頃の現実の自分の状況とが、まるで違っていたからだ。
 まずその頃の私は27インチの一体型、黒色のパソコンを使っていたし、生活の中で眼鏡を必要ともしていなかった。特別目がいい、とまで言わないが、今も昔も裸眼での自動車の運転が認められる程度には視力が保たれている。それに、書斎を構えられるほど大きな家に住んだことも、ない。だが。

 結局のところはただの夢か、と思いながらしばらく経ってその夢の記憶も薄れ始めたころ。ずっと日常的にPC作業を続けていた私は、目の健康のためにふと、こんなことを考えた。
『PC用の、ブルーライトカット眼鏡買おう』
 そして実際に購入し、PCの前に座り、ふと気づく。
 そんなのありえない話だろう、と思っていた『PC前で眼鏡をかけている自分』が、本当にこの世に顕現したことに。
 それからだ。その夢をひとつの啓示ととらえ、あれは未来の自分の姿なのだと、強く信じるようになったのは。

 さらにそれから数年経ち、それまで使っていた一体型PCのスペックに限界を感じ始めた時、新たなマシンの購入を決意した。選んだのは言うまでもなく白色のノートパソコン、今まさにキーを叩いている、こいつだ。こうして数年ずつの時を経て、いつか見た夢に現実が近づきつつ、私自身が近づけつつある。このままいけば、次は部屋――というか、家になるだろう。それはまあ、前の二つと比べれば時間はかかるかもしれないけど。

 本当に夢と現実が重なり合ったとき、自分はいったいどうなっているのだろう。願わくば、今よりすごい小説家になっていたいけれど。
 いつか見た夢の光景を心に刻んで、今を生きている。

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