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ベーグル衝動

定期的にふとよみがえる、もっちりむちむち魅惑の食感。ああベーグルが食べたい! と思ったが最後、居ても立ってもいられなくなった。
コンビニやパン屋さんのもので済ますのもいいけれど、たっぷり時間があるのだし、この際自分で作ってみようか。手早く着替えてマスクを装着し、食料品の買い出しついでに材料をそろえることにした。
ドライイーストと強力粉。一軒目のスーパーでは粉類が軒並み売り切れ&品薄で、みな考えることは同じなのだなあと感心すらしてしまう。二軒目で無事必要なものを手に入れて、急ぎ足で帰路についた。

さて。パンをひとりで作るのは初めてのことで、妙に気持ちが高揚していた。クックパッドと首っ引きでおっかなびっくり作業を開始する。
大きめのタッパーに水・砂糖・サラダ油を入れてレンジで加熱。そこへドライイーストを投入すると、ほのかに酸いパンの匂いがふわーっと漂ったので驚いた。塩とともに泡だて器でよく混ぜて、強力粉を少しずつなじませる。さっくりとひとまとめにしたら、ラップをかけて寝かせること10分。打ち粉をしたまな板でまあるく成形したあと、沸騰したお湯の中で片面ずつ茹でるのはベーグルならではの工程だ。
予熱しておいたオーブンでじっくり焼き上げたら完成! のはずだったのだが、電子レンジのオーブン機能ではどうにもうまく色がつかず、仕方がないのでフライパンでさっと焼き目をつけてみた。理想とはちょっと違うけれど、完成!

すっかりうれしくなったわたしは、かろうじて綺麗にできあがったものを手前に置いて写真を撮り、母と恋人に送り付けた。
「すごい!」「もちもちしてそう!」すぐさま二人から返信がくる。へへん、そうだろうそうだろう。よし食べようと無意識に不格好なものを手に取ってから、そういえばここには自分しかいないことを思い出した。いちばん上出来のやつに持ち替えて、一口大にちぎって口へ運ぶ。
最後にフライパンで焼き上げたせいか表面はかりっと香ばしく、中は期待を裏切らないもっちり食感。小麦の素朴な香りとほんのりとした塩気が噛めば噛むほど際立って、それは本当においしかった。あっというまにたいらげて、すぐさま二つ目に手が伸びる。
きれいなやつから順番に食べたっていいのだ、自分のためだけにこしらえたベーグルなのだから。寂しさを練りこんで作ったものはいつも、わたしを励ますようにおいしくて、なんとなく優しい味がする。

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