時空を超えた旅51「4つの薬と儀式の準備」
旦那が子供たちとマルセラを連れて帰った後、
残った私たちは、
儀式の話題で持ちきりだった。
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私はてっきり使う薬草は、
「アヤワスカ」だけだと思っていたのだけど、
その夜、
儀式には全部で、
4種類の秘薬が存在するのだと知った。
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いつものように
焚き火を囲んでいると、
ミゲルが興奮ぎみに口を開いた。
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「誰かガンボー受ける人いる?僕はやるよ!」
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ガンボーとは、
毒がえるから採った毒で、
皮膚に火を押し付けて薄皮一枚めくった後、
そこにガンボーを塗りこむのだと言った。
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それを聞いて私は、
コエーリョの脚にあった7つの丸い跡と、
ペドロの上腕にあったいくつもの丸い跡を思い出した。
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いつかコエーリョが教えてくれた。
今年2月ここで「アヤワスカの儀式」を受けたんだ。
それは僕にとって特別な儀式でだった。
今まで一緒にいたパートナーと別々の道を歩むと決心したんだ。
だから、
自分だけの道を歩き出す覚悟で、
ガンボーを7つ受けたんだよ。
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今回の滞在中に、
サンパウロから引越してきたコエーリョは、
つい去年の年末まで、
彼女と一緒に海岸地帯でコンビ(車)生活をしていたそうだ。
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それがある日、
コンビ(車)から火が出て、
逞しい彼女は火の出ているモーターに手を突っ込み、
その隙にコエーリョは繋いでいた愛犬を助け出した。
そしてコンビは爆発し、
二人の関係も壊れてしまったのだと。
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最後に、
女性性の強い僕と男性性の強い彼女のコンビだったと、
彼は笑った。
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ガンボーを受けると・・・
詳しくはよく分からないけど、体の免疫が上がり
身体的にも精神的にも霊的にも強くなるらしい。
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ミゲルは、
「今回このメンバーで儀式を受けられることに大きな意味がある。アヤワスカは口から、ガンボ-は皮膚から、ハッペは鼻から、サナンバは目から。4つのエレメントを手に入れるために、僕は全部を受けたいんだ。」
と熱く語った。
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「アヤワスカ」は、
シッポ-という植物ともうひとつ何かの植物の抽出液を合わせたもので、煎じ汁のようにして一気に飲む。儀式中にだいたい3~5杯くらい。
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「ガンボー」は、
毒がえるの毒で、皮膚を剥いだところから体内に染み込ませる。
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「ハッペ」は、
植物の粉だと思う。儀式の最中に上がりすぎてしまった波動を落とし、地上に引き戻すために、細長い器具を使ってシャーマンによって鼻に吹き込まれる。実はアヤワスカよりもこっちの方が強いのだと聞いた。
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「サナンバ」は、
いわゆる目薬。成分は分からないけど、アマゾンの植物から採った何かだと思う。目に刺すと強烈に痛む。第3の目を開く力があるそうだけど、コエーリョは反対に強すぎる感度を落として欲しいと頼んだと言った。
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そんな話をして、
儀式前日の夜は更けた。
ガンボーを受けると言ったのは、
今のところミゲルだけだった。
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2020年4月5日(月曜日)
儀式は、
今日の夕方6時頃から始めて、
翌日の深夜1時頃までになるだろうと聞いていた。
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そして儀式を受けるに当たって、
前日3日間はドラッグ、アルコール、
性交、刺激物は避けるように言われていたのだけど、
さらに当日の食事は、
軽めにしたほうがいいという話をしていた。
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私は一人、
断食することに決めていた。
だから朝食にも顔を出さなかったのだけど、
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その日の朝食は、
一切しゃべらないで過ごそうと決め、
静寂の中、
みんなで軽めの朝食を摂ったのだと聞いた。
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昼も私は食べなかった。
断食したほうが繋がりやすいと思ったのと、
浄化作用で嘔吐すると聞いていたから、
負担は少ないほうがいいと思った。
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でも、
儀式を行うジェシカの友人たちの到着が遅れていて、
儀式が始まりが夜になり、
翌日の朝方まで続くだろうということになった。
そして、
何も食べないと体がもたないから、、
何でもいいから食べたほうがいいと勧められた。
仕方なく私は、
夕食のスープと少しのご飯を口にした。
一日を通して全然お腹は空いていなかった。
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儀式の準備は4時頃から始まった。
敷地内の下のほうに、
大きなドーム状の建物がある。
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地面は砂のようなさらさらの土、
円形の建物はどんな小さな音でも跳ね返し、
建物の中ではひとつの音が何重にも響いて聞こえた。
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ここでインディアンが唄って踊ったら、
一体どんなことになるんだろう???
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ここで儀式を
するんだよと教えてもらったあの日から、
こっそりとここに入っては、
跳ね返って幾重にも広がる音の中で、
儀式の様子を想像しては、
ひとりテンションを上げていたのだった。
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それがこれから現実となる。
ワクワクしていたけど心は穏やかだった。
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その準備はなかなか大変だった。
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まずは砂を掻いてならす。
結構な広さがあるのと砂埃が立って大変。
そして、
木製のござを人数分持ち運び、
真正面に置かれた儀式のテーブルの左右に向かって、
円になるように人数分並べた。
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建物の中心には焚き火の跡があった。
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ジェシカが中心を確認して、
正確な方向と角度を決めてから、
糸を使って半円を描いた。
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そしてその線の上に、
用意してあった大小さまざまな石を並べた。
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それから、
私とアリアニは畑に行って、
シャーマンの使うテーブルの両脇に飾る花を、
花瓶に挿して準備した。
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あとは人数分の嘔吐用バケツと
大量のティッシュペーパーを用意してひとまず終了。
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焚き火に使う木は、
フェリッピとペドロが車で採りに行っていた。
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準備が終わる頃、
ここの滞在者ではない参加者が現れた。
先日、
養蜂のレクチャーをしてくれた
近くの町に住むブラジル人ジウマーだった。
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みんなと一緒にテーブルに座り彼は、
もうかれこれ20年近くに渡って、
「アヤワスカ」の儀式を受けていると言った。
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時には連続して、
時には長い期間を空けて。
彼もまた「アヤワスカ」は彼の人生を変えたと言った。
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そしてもうひとつ、
「儀式を受けたあと、1週間くらいはそのエネルギー状態が続くこともある。ハイテンションのまま、その体験を人に語りたくなるんだけど、その詳細を誰かに話すと、不思議なんだけど体験の内容を忘れてしまうんだよ。」
と彼は言った。
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この言葉が、
儀式の最中私を助けることになる。
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その頃、
何が起こっているのかは分からなかったけど、
ヒカルドはすでに儀式のエネルギーの中にいると言っていた。
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そしてマルシアも、
もう何年も前に閉経しているけど・・・
とこっそり出血が始まったことを教えてくれた。
それを聞いて私は、
ポーチに忍ばせてあった、
タンポンとおりものシートを思い出し、
「ちょっと待っててね」と言って、
それを取りに行き、彼女に手渡した。
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「偶然だけど、ちょうどいい人に話したわー。
これで安心して儀式が受けられる。」と言って彼女は喜んだ。
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シャーマンが到着する前に、
各自が好きな場所を選んで席を確保した。
そして嘔吐用バケツと毛布とコップと、
各自で用意した大事なものを置いてスタンバイしていた。
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儀式は撮影禁止だと聞いていたので、
準備前の会場の写真と
儀式を受ける前の自分の顔だけ写真に収めて、
アヤワスカの儀式は
自分の目に焼き付けることにした。
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儀式を執り行うカップルが、
到着したのは午後18時過ぎだった。
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それから、
儀式に使う太鼓や、
ギターなどの大量の楽器を車から降ろして準備して、
テーブルの上には、
なにやら細かい器具を並べていた。
テーブルの横には、
何本ものペットボトルに入った
アヤワスカと呼ばれる液体が並べられていた。
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全ての荷物をセットし終わると、
二人は衣装を着替えにしばらく姿を消した。
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みんなはそれぞれの場所で、
座り心地の良い座椅子に腰を下ろしていた。
まだまだ余裕の表情だった。
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ふと見ると、
マルシアは、
目の前にクリスタルのカードを並べ、
その中心にいくつかの石を置いていた。
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その隣では、
アランがなにやら大事そうな本を置き、
ミゲルは、
自宅から持参したという小さな絵を置いていた。
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そんなこと
全く考えてなかった私は、
必要ないだろうとは思いつつも、
まだ時間もありそうだったし、
いそいでオラクルカードと音叉の入ったポーチを取りにいった。
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それに何の意味が
あるのかは分からなかったけど、
何となくみんなと同じように、
カードをポーチから取り出して置いてみた。
でもそれは、
これもまた何となく、
儀式が始まる直前にポーチの中に戻した。
(後で思ったことだけど、儀式が始めると嘔吐バケツと唾を拭いた大量のティッシュがあちこちに散漫するので、汚したくないものは置かないほうがいい。でもクリスタルを使うことになったので、ポーチに入れて傍に置いておいたのは正解だった。)
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2人の着替えを待つ間、
ジェシカが儀式における注意や大まかな流れなどを説明してくれた。
1.儀式では、アヤワスカの効果が現れるとたいていの人は浄化作用で嘔吐する。傍にある自分専用のバケツに嘔吐して、口を拭いたティッシュはバケツの中には入れないで。ティッシュはその辺に置いといて、外に行くときにゴミ箱に捨ててね。
2.儀式の最中、気分が悪くなったりトイレに行きたくなったら、外に出てもいいし、外にあるドラゴンの椅子に座って星空を見上げていてもいいよ。でも、薬草の効果でふらつくかもしれないから、いつでも私たち(慣れているジェシカやフェリッピ、コエーリョ、パウロなど)を呼んでね。手伝うから。そして姿が見えなくなると心配するから、遠くへは行かないで、外へ出ても早めに戻ってね。
3.最初の1杯をみんなが飲んだあと、天井の電気を消す。そして薬草の効果が現れるまで、外の電気も消して真っ暗な状態で1時間半から2時間くらいそれぞれの場所でじっとしていることになる。その後、必要なら2杯目呼ばれるから、必要な人はコップを持って行って。必要なければ飲まなくてもいい。そのうち第2幕になると、焚き火に火をつける。火を見たり、火の回りを踊ったり、好きに体を動かしていいよ。そのうちに3杯目呼ばれるかもしれない。それから夜が明ける頃、儀式が終わりに近づくとハッペを鼻に入れる。これは魂を地面に引き戻すもの。希望する人は行ってね。
4.それぞれの体験はとても個人的なもの。誰か泣いたり、とても苦しんでいるように見えたりするかも知れないけど、手は出さないで放っておいてあげて。それよりも自分の体験に集中すること。
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説明が終わるとすぐに、
真っ白いインディオの正装に身を包み、
頭には立派な羽の飾り物をつけたマテウスと、
同じく白い素敵な衣装に、
茶色のカーディガンを羽織ったレベッカが現れた。
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