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この夜に名前をつけてくれ、音楽で

夜、散歩に出ると、「自分の気持ちがわからない」ことに気がつくときがある。だいたい心拍数に比例して心が整ってくるのだけど、雑念が多いときは時間がかかる。考えても仕方のないような悩み事や不安が、色の濃い雲となって感情を覆い隠している。

そんなとき、音楽は頓服として効く。いまのわたしの感情、いまの時間、いまの環境、すべてを包括してタイトルをつけてくれる。そこからさかのぼってゆけばたいてい、隠れた心に出会える。

今日は音楽の力を借りた。思いがけずイライラしている自分の感情を見つけて驚きながら、しばらくその感情につきあう。そのうちに頭がすっきりしてくる。気持ちがいい。そのまま歩き続ける。

たしか今日は月がきれいだったはず。空を見上げると、月はいつもより高くからこちらを照らしているように見えた。秋はなぜ空が高く見えるんだろう。空気が澄んでいるからだろうか。理科で習っただろうか。知りたい。でももう今日は、Googleを使いたくない。

わたしは、無知なまま、知らない自分のままでいることを恥ずかしいと思って、ごく簡単にネットで調べてしまう自分を知っている。インスタントに知ったつもりになったものは、読んだそばからすぐ忘れてしまうのに、どうしてもやめられない。でも、今日はそんな小さな自分のことを許してあげたいと思った。自分だけど自分でない、妙な気分だ。

そう考えているあいだも、頭上はるか高くから月が照らしている。その光の一筋が、アパートの窓の隙間から室内へとすべりこむ。そしてそのまままっすぐ進み、ベッドの上で目を閉じる誰かの心まで届く。月を見ているひとにも、見ていないひとにも、ひとしく季節は訪れるのだ。

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