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そのときは駅のホームで静かに訪れる

小品をまとめた本を作りたいと思っている。
いや、願っているという方が正しい。
切実に、出会いたいと願っている。

心のなかの言葉は、どんな形で産まれたがっているのかわたしにはまったくわからない。家にいるとムズムズして憂鬱になるので、電車に乗っては知らない街を歩き、カフェで赤いノートに文字を書きつけ、また歩き続ける。

今日は100段ほどの階段をのぼり、1400年代に建てられた神社の境内で途方に暮れている。

わたしの心はこんなにも苦しい恋のように想いがつのっているのに、なにか準備が足りないのだろう。それでもつよい風にはためくのぼりに、小さな予感を感じながらわたしはひたすら静かに待っている。

境内で背後に気配を感じて振り返ると誰もいない。手水舎の水が、絶え間なく静かに音の波紋を広げ、葉が乾いた音を立てるばかりで、わたしは一人でここに立っている。

自分がほしいからといって都合よくすぐに産まれるものではないのだ。誰もいない授与所で引いたおみくじには、「吉 焦らず待てば月あかりがさすように、たちこめた雲が晴れる」とある。そうだ、わたしはひたすら受け皿を磨き、心を澄ませながらそのときを待つのだ。

そしてそのときは駅のホームで静かに訪れる。
青白い灯りが線路に沿ってぱっとつく。
それだけでわたしは確信する。

ひらめきは自分のなかだけではなく、駅のホームにも、月あかりにも、本のなかにも宿っている。気まぐれに訪れる春雷のようなひらめきを、静かに、一人で、ただ心をひらいて待つしかない。ソードの4の末に騎士は、ふたたび戦いのために立ち上がるのだ。

いつもお読みいただきありがとうございます。いただいたサポートは、これからの作品作りに使いたいと思います。