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わたしのすべてだった街

小用で地元へ帰る。

わたしの地元には、住んでいた頃に通っていた店がまだまだ残っている。今日ひさしぶり駅に降り立って駅前の風景を見ていたら、郷愁のようなつよい気持ちに襲われた。

わたしの知っている一番おしゃれな服屋も、品揃えのよい文具屋も、本屋もこの街のなかでのことで、わたしはここを離れてからたくさんの店を知り、物事を知り、土地を知り、ひとを知り、世界は自分が思うよりも広いことを知った。いまここへ帰って思うのは、なんと狭く、ささやかで、満ち足りた日々だったのだろうということ。

好きなひとに見送られた駅前のバス停はいまも変わらずあり、わたしはそこへ向かって歩きながら、変わったことと変わらないことを思い出す。オーバーレイのように、何年も前のわたしが重なってひとつになっては消えていく、それはまるで実態のない幽霊のようだ。記憶の気配があちこちにただよっている、街。

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