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銀色の風

ある明るい昼下がりのことです。永遠に広がるような草っ原の真ん中に、小さな家がありました。それは薄灰色の頑丈な壁でできていて、雨や風が吹いてもびくともしないような家です。家の壁にはそこから出入りできるほどに大きい窓があり、その両端にやわらかく揺れるカーテンがつけられていました。

大きな窓の桟には一人の子どもが座って外を見ています。のびのびと育っている草花が揺れているのを目で追っていると、一人の子どもが窓の前に座りました。桟に座っていた子はやってきた子の方を向き、にっこりと笑いました。

「ひさしぶりだね。元気にしてた?」
「もちろんもちろん。いろんな場所へ行ったよ。楽しかったなあ」
「あの子はそろそろ来るころだろうか」
「どうだろう、そのうち来るんじゃないか」

二人は窓の外を見つめました。一羽のつばめが飛んできて、部屋のなかをふわりと回ってまた外へと出て行きました。カーテンがやわらかく揺れています。

「ねえ」
「なあに」
「君はどうだったの」
「ぼくもいろんなことをしたよ。山に登ったり、水族館に行ったり、ときどき勉強もしたよ。暑い日にお母さんが作ってくれたハムカツサンドがおいしかったなあ」

そう言うとその子は両手でハムカツサンドを頬張る真似をして、またにっこりと笑いました。

「ひさしぶり」
「もうみんな来てる」
「元気だった?」

二人が話しているうちに子どもたちはどんどん集まってきます。ひさしぶりに顔をあわせた子どもたちの声はささやくように透明で、重なり合った声はひとつの音楽のように思えました。

体を寄せ合って子どもたちがくすくす笑うたびに、その体から光の粒がこぼれて落ち、子どもたちの顔をしらじらと明るく照らします。一人の子どもが連れてきたうさぎの頭に光の粒がはじけてうさぎは小さく身震いしました。

一人の子は言いました。

「ねえ、今度はみんなで南の島へ行きたいね」
「ああ、それはいいね」
「いこういこう、あそこで名物の白いそばを食べよう」
「楽しみだなあ」

子どもたちは南の島の深く透き通る青の海を思い浮かべました。窓の向こうから草原を通ってきた風が吹いてきて、子どもたちの銀色の髪をやさしく揺らします。風はそれまで出会ってきた植物たちの香りを運んできて、薄灰色の部屋のなかをいっぱいに満たしました。昼過ぎの太陽も部屋の中を照らし、そのひだまりのなかで子どもたちはお互いの体に頭を預けながら目をつむり始めました。子どもたちのおしゃべりは次第にやみ、みんな静かに眠っているように見えました。

そして草っ原からまたひとすじ、新しい風が吹きました。黄色や白の小さい花々を揺らしながらたどりついた風は、大きな窓から部屋に入り、ぐるりと回って子どもたちを誘いました。目を覚ました子どもたちはたがいに微笑みながら立ち上がり、銀色の綿毛となって風とともに旅立っていきました。部屋のなかには風の運んできた梔子が、甘い香りを漂わせているのでした。

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