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大船駅のホームで始発を待つ、黒の上着に黒のネクタイを締め、白髪のひとは大きな桐の箱を抱えている、向かいのグリーン車には、行楽へ向かうひとたちが笑っている、ビールを開ける音はこんなにも違う響き、ひとの喜びと悲しみ、そのあいだを東海道線はどちらにも与せず淡々と繋いでいる
いま、生まれたばかりの葉は、妖精のささやきのような風にゆれる澄んだ音を持ち、苦い顔をした大型犬は、その顔のまわりにたくさんのC2の音を持っている、たとえ音が鳴っていなくとも音は漂い、体に作用している、聞こえるもの・聞こえないもの、大きなシンフォニーのなかでわたしたちは暮らしている
喫茶店で珈琲を頼む、二人そこに座る、言葉がこぼれる、次の言葉の呼び水となる、乾いた大地に染みていく言葉、それはわたしだけのものだったはずのもの、わたしとあなたの言葉になって雨は、大地を満たし、湖となって、誰かが眠る、あの森を静かに育む