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嘘も方便

嘘も方便。
まぁ仏でさえ民を救うためには嘘ついてしまったことがあること、が転じて善いことが嘘をつくことを上回れるなら嘘ついても許されますよっていうあれです。

あれ、ぼくは以前までいいことだと思っていました。優しさのためなら嘘なんぼでもって。
でも、あれって、もともとは嘘がない人だから、できることなんじゃないかって、思うようになりました。

なぜかって。

(前提として、ぼくは生まれた時に女性を割り当てられて、ノンバイナリーだと自覚し、男性的な装いをして生き、パンロマンティックでーーつまりは男性も女性もトランスもーーその相手の性のあり方に関わらず好きになる人です。とは言いながら、本気で好きになる相手はほとんど女性です。そして親や祖父母には何一つカムアウトしていません。)

祖母との会話で。

「佑はいい人いないの?」
「いい人、が難しいな」
「早く結婚してほしいのよ、幸せになって。おばあちゃまは22で結婚したのよ。佑はまだ昨日21になったばかりだけれどね」
「ん〜、そうねぇ。結婚っていう形を取るかは別として、誰かと一緒に過ごすとか、幸せになるとかは考えてるよ。それが恋愛的に惹かれる相手かはわからないけど。親友とかかもしれないけど。好きになる人もどんな感じかまだわからないしね」
おしゃべりな祖母に珍しく、うんうん、とうなづきながら聞いていた。
「まぁ誰かと幸せになるのはとてもいいことじゃない?いまはそう言う時代よね」
「だからもし恋人って連れてきた子が女の子でも驚かないでね」
かなり冗談めかして言った。
「それはダメよ。幸せになれないもの」

ぼくは、ああもう終わりなんだな、と素直に思った。
ぼくは一生、本当に幸せな瞬間を、この大好きな祖母に共有することはできないかもしれない。祖母にずっと嘘をつけば、祖母を傷つけることはないかもしれない。でも。ぼくは一生偽りの姿で接して、それが自分の孫だと思い込ませる人生なんだって確信してしまった。これは、本当に方便なのだろうか。

仮に、方便だったとしても。
ピノキオという話を知っているだろうか。ディズニーにも描かれた、あの人形の話だ。
彼はたしか嘘をつくと鼻が伸びていく魔法をかけられてしまっていたはずだ。ドラえもんの道具にもそんなやつなかったっけ。
仮にそれをみんながかけられていたら。方便な嘘なら元に戻るんですか?一時的な優しさなら戻せますか?

きっと、その時だけとか、優しくしなくても大丈夫ではある人たちのみに与えられた特別な機能なんだと思います。
生きていて、ほとんどの時間を嘘をついて過ごし続けたり、生きているだけで勝手に嘘をつかされ続けたり、そんなんじゃ流石にその機能は与えてもらえないです。
与えてもらえてたとしても、きっと頻度が高すぎて怪我をするなりなにも効かなくなってくるなりするのではないですか。

少なくとも心に毎回引っ掻き傷を作って生きているのだから、戻せようが戻せまいが、あまりにも辛いです。

いつか、救われる日が来ますかね。来ませんかね。一生「業」に近いものを背負わされてるんですかね。

どこかで、こうしてよかったんだ、って思える日が来るまで、あの言葉は使わないと思います。看護師はもしかしたら使う場面が多少あるかもしれません。その時は、大いに善の心で、多くの大切な人たちに何も戻せない悔しさと悲しみと贖罪の気持ちを述べながら、使うのでしょう。
こんなのなら地獄で舌を抜かれる方がよっぽどマシなようにも思えますね。

みなさんは嘘を方便に使える方々ですか?

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