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フランス日記:1月10日「パリで映画を観た2」

パリ滞在中にひっそりと誕生日を迎えた。
34歳になった。

私が産声を上げたときに、34歳の誕生日をパリで迎えることになるなんて誰が思っただろう(そりゃ誰もそんなこと考えなるわけない)。

お誕生日プレゼントに、最近まで働いていた会社にアルバイトに来ていた女の子から、フランスの映画館で使えるクーポンをいただいた。
彼女とは最後にちゃんとさよならの挨拶ができなかったことが残念なのだが、こうして気遣ってもらって本当に嬉しかった。

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▲いただいたチケットの画面

日本でいうところのTOHOシネマズみたいな感じだろうか。
Cinéma Gaumont というグループの映画館で使えるクーポンのようだった。
これを利用させてもらって映画を観ることにした。

ちなみにこのクーポンはPATHE GAUMONTのアプリ内でチケットを予約するときに利用できる。

さて何を観るか。
パリで通っていた語学学校の教師・ピエールは大の映画好きだった。おすすめ映画を聞いたところ「Les Misérables が面白かったよ!」と教えてくれた。

『Les Misérables』と言っても、ミュージカルでお馴染みの『レ・ミゼラブル』ではない。
こちらは2019年のカンヌ映画祭で、韓国映画『パラサイト』とパルム・ドールを競った社会派映画である。

パリの郊外はBanlieueと呼ばれており、移民の方がたくさん住んでいる。
中にはとんでもなく治安の悪い地域もあり、監督のラジ・リはマリ共和国出身で(滞在していたアパルトマンに毎朝お掃除に来ていた女性もマリ出身だった。マリからフランスに来ている人はたくさんいる)、幼少期にBanlieueの一つであるモンフェルメイユで暮らしてたらしい。
そのときの自身の体験をもとにして作られた映画だ。

2018年のサッカーワールドカップに湧くフランス。
Banlieueのモンフェルメイユには対立する2つのグループがあり、少年が起こした些細な出来事がとんでもない騒動に発展してしまう……。

という物語だ。
ちなみにこのモンフェルメイユはビクトル・ユゴーが『レ・ミゼラブル』を執筆した土地だ。
ビクトル・ユゴーは言わずもがな、フランスにおける日本の夏目漱石や芥川龍之介にあたる大文豪で、著書の『レ・ミゼラブル』はフランス文学を代表する作品といっても過言ではないだろう。
そのことと現在のモンフェルメイユのおかれた悲惨な状況を掛けた皮肉のきいたタイトルである。

ちょうと2018年から労働組合に所属しない低賃金労働者の過激なデモ活動「ジレジョーヌ」が始まり、フランス国内の貧富の差が大きく浮き彫りになっていた。モンフェルメイユはそんな「貧」に属する地域だろう。
Banlieueに住む貧しい暮らしは『Les  Misérables』(悲惨)だ。しかしこれがフランスの一つの姿だ、と呼びかけるタイトルである。

この映画について、マクロン大統領は「今すぐにこの地域に対して、出来得る限りの支援を始めるよう呼びかけたい」と言ったそうだ。

ちょうど日本では、前年のカンヌ映画祭で『万引き家族』がパルム・ドールを獲った。その際にある政治家が「このような映画が日本国外で上映されることは大変恥ずべきこと」と発言したらしい。

どちらも自国の貧困に目を向けた映画だが、フランスの大統領と日本の政治家とでは、そのことに対する認識がこれほどまでに違うものなのかとちょっとがっかりした。

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おそらくフランスでは夏頃から上映していたこの作品は、私が観た1月ともなると上映回数が減っており、最寄りのシャンゼリゼ通りの映画館では1日1回・20時からの上映回しかなかった。

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▲日本では6月に上映が始まった「ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』は1月にはフランスでは上映が始まっていた。フランス語版のタイトルは「ドクター・マーチの娘たち」。タイトルが全く違う。
「あれって若草物語らしいよ!」と仲良くなった日本人留学生の子が教えてくれた。


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「アナ雪2」を観たときは全席自由だったけど、今回は座席指定だった。番号の振り方が不思議……。

封切られてからしばらく経っていたので「お客さんは少ないのかも」と思ったが、さすが映画の国フランス。
40席ほどの座席が満員になった。

全編フランス語なので、細い会話の内容までは分からなかったが、常に緊張感のあふれるシーンの連続でとても楽しめた。
ラストシーンの少年のあの顔!!

私はパリでも割と高級な地区に滞在しており、生活圏内にこうしてシャンゼリゼ通りがある。
「綺麗なパリ、だーいすき!」と常に浮かれて過ごしている中で、フランスの負の側面を捉えた映画をパリで観ることができたのはなんだか良かった(「良かった」ぐらいしか言えないんだけど……)。

お金持ちの人もいれば、貧しい人もいる。そういうことを忘れちゃいけないな〜。




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