推しフォントでデザインする小説同人誌装丁note.1
noteはもともと、他のクリエイター様の装丁記録を眺めるのがとても参考になるので始めたSNSでした。自分も次に本を作ったら装丁記録を書きたいと思っていたのですが、やっと形にできそうです。こういう自分の作品語りみたいなものはXでは好まれないのだろうなと思いますが、noteの文化なら許してもらえそうです。許して。
装丁がやりたいから二次創作をするのか、
創作物ができたから装丁をするのか。
言うまでもなく圧倒的に後者なのですが、いざ作るとなったら内容以上にこだわってしまうことがそれ以前の性癖所以。
ここに記録した内容のごく一部は、書籍をお送りする方には問答無用で付帯するあとがきペーパーに掲載しています。装丁とか興味ないのになんだこれって思う方もおられるかもしれませんが、これもゆかの創作の一部として生暖かい目で見ていただけると嬉しいです。
1:取り扱い用紙から印刷会社を選ぶ
今回の同人誌は
小説製本:STARBOOKS さま
帯・あとがきペーパー:ネット印刷のプリンパ さま
を利用させていただきました。
どちらも利用できる紙の種類がめちゃくちゃ豊富!紙オタクのための業者さまです。
普段の仕事ではコスト重視のため某大手激安印刷会社のオフセット用紙しか使わせてもらえないので、自分だけの作品となると狂ったように紙選びから始めるのだと今気がつきました。特殊紙万歳。
他の方のnoteを眺めていて「黒い紙に箔押し、または特色印刷」という装丁をずっとしてみたいという思いがありました。今回の話は特に「陰翳礼讃」が本文と装丁のテーマだったので、念願の黒表紙が叶うかもしれないと思ったのが発端です。
そしてただの黒ではなく、キラキラと輝く想いの結晶を含んだイメージにしたかったので、黒は黒でもぜひともミランダで!
ミランダ黒は、少し前にはSTARBOOKSさまや他の業者さまでカバー用紙(多分90〜110K前後)としての取り扱いがあったみたいなのですが、需要も少なそうなので一時的なものだったのかもしれません。
今回の注文時には一般的なカバー用紙(白地のスタンダードなもの)しか選択できなかったので、カバーを泣く泣く諦めて、表紙用紙をミランダ黒170Kにすることにしました。
カバーを諦めたかわりに、せめて帯をつけたいと思ったのですが、帯を別注するとなると、カバー以上に選択できる用紙がなくて。
ただ、表紙がせっかくミランダ黒なので、その魅力を最大限に引き出せるように帯の紙にもこだわりたい。
そうして探してたどり着いたのが「紙選びから始める」印刷会社、プリンパさまです。
低価格で用紙見本を送っていただけるので取り寄せてから表紙用紙と合わせてみる。
遊び紙がクラシコトレーシングだったので、当初は帯もトレーシングでいいかなと思っていましたが、圧倒的に敗退だったので唯一対抗できそうなアラベールホワイトを。
今回は折り加工なし、片面スミ1色という最低限の発注で帯だけ注文させていただきましたが、超低価格!ありがたすぎる…
送料がかかってしまうので何かついでに…と、あとがきペーパーを一緒に注文させていただきました。
あとがきはだいたいが言い訳になってしまう&書き出したら膨大な量になって止まらないので、不要と思われるのではといつも臆してしまうのですが、友人が「お金出して本買ってくれるほどの人が、あとがきを読みたくないとか思わないのでは?!ていうか読みたいから作れ」と言ってくれたので、えいやと作ることにしました。
あとがきはB5両面スミ1色で折り加工なし。
どちらも、印刷の仕上がりは素晴らしかったです。
2:箔押しではなく特色シルバー
当初は、ミランダ黒に箔押しでタイトルを入れようと思っていました。
けれどこのお話はガチの成人指定本であり、キラッキラした華やかさというよりも、儚い美しさ、みたいな空気感をイメージしていたので、シルバー箔では主張が強すぎるかな、と思ったのです。
なので今回は「銀刷り」(特色シルバー)でかすれた感じを演出するタイトルロゴにしてみました。
結果は、シルバー印刷にして本当に良かった!控えめながらもミランダに負けない存在感があるし、細い線でも全然いけました。
入稿後にSTARBOOKSのお姉さんから「0.3ポイントの線が掠れるかも」と丁寧なお伺いがあったのでそこだけ若干増しましたが、直さなくて良かったかもと思います。
裏面には物語のポイントになる「鍵のかかるドア」を配置。隙間から流星のような一筋の光を差し込んでいます。この隙間から二人のAffairsを覗き見てほしい。
3:用紙まとめ
表紙用紙| ミランダ黒170K 特色シルバー印刷
遊 び 紙| クラシコトレーシングFS45K
本文用紙| 淡クリームキンマリ62K
帯 | アラベールホワイト110K
原作では決して描かれることのない、物語の見えない部分。光のあたらない場所で展開されるストーリー。
光のキャラクターにスポットライトをあてることで生まれる陰翳と、ふたりが抱えるはかない想いの煌めきを「ミランダ黒」に託しました。
箔押しよりも少し控えめに、かすれた儚い印象になるシルバー印刷でタイトルのみを刻印。対比となるような用紙の帯で黒表紙の重厚さを軽減し、ものがたりの一端を垣間見えるようにしてみました。
色々きれいごとを書いてみましたが、一番の願いは「ぱっと見、成人向けに見えない」ような仕上がりになっていることだったので、それが叶う装丁になっていれば一安心です。
4: フォントと文字組み、版サイズ
使用書体| 筑紫Aオールド明朝Pr6N L
文字組み| サイズ 13Q 42字×17行
レイアウト| 天 26mm 地 19.5mm ノド 19.75mm 小口 14mm
版・ページ| B6版(大判コミックサイズ)一段組 176ページ
かな、漢字、英文、どれをとっても極上にうつくしく、その文字自体にえもいわれぬ情感をはらんだ「筑紫オールド明朝体」。
この私の最推しフォントで物語を全編読んでもらいたい、という押し付けがましい思いを、この本で実現することができました。あとがきも全部筑紫オールド明朝です。
ずっと前から大好きなフォントなのですが、このフォントは書体自体がもつエロさ、表現力がとても強く、これまでの本には残念ながらフィットしませんでした。けれど今回のテーマなら、表現したかった静謐さや世界観をフォントを通しても伝えることもできるかな、と思っています。
ひらがなのはらむ情感が圧倒的で素晴らしいです。「ゆ」「を」などの、連続した曲線の幻想的な優美さを、背景の一部として感じてもらえたら嬉しいです。
文字組みとレイアウトは1作目で完成していたので、特に変更することなくそのまま使用。筑紫オールドが細くてこぶりなフォントなので、行間にゆったりした余裕が出てさらにいい空気感を作ってくれた気がします。
前作はわりと差し迫ったシリアスな話だったので確かリュウミンにしましたが(またいつかちゃんと書こう…)、その時とは全然違う雰囲気の本文ページになったな、という印象でした。
小説本ではあまり採用されないB6版(大判コミックサイズ)で作らせていただいています。「文芸書ハードカバーみたいな外観にできるだけ寄せたい」というのが一番の理由でしょうか。
自分が文庫派ではないので文庫サイズは選択肢外。今回は文字だけですが、帯も含めて外観のグラフィックにこだわりたいのでできるだけ大きめ、でもA5サイズまでいくと流石に手にあまり、一段組では目が泳いでしまうのでB6版、という選択肢です。
A5で2段組にするとイラスト表紙だと映える&ページ数(売価)が抑えられる、というメリットはあるのですが、段組だと文字を読むリズム、ページ送りなどが自分の思い通りにならない、というデメリットの方が大きいので…
文章を読んでいただくときのリズムや改ページのタイミング、というのを大切にしたいので…個人的なこだわりを追求した結果がこのサイズ感です。
5: 目次と中扉と余韻と余白
これまでの同人誌は、1冊で1話の長編だったので共通のイメージ写真を表紙にしていましたが、今回は設定も時系列も違う3つの中短編のオムニバスです。
表紙を統一イメージで漆黒ミランダにしたので、目次と中扉には各話のイメージ写真をモノクロにして挟みました。
自分の設定のイメージにあう写真を探すのがいつも一番大変で、でも自分では撮影不可能な場所とか対象を設定しちゃうので…多少のイメージのずれには目を瞑り、あとは加工でなんとか。
各話のタイトルロゴは遊び半分でいろいろなデザインを試してみたけど、共通性を保ちつつ話のイメージにあったロゴにできた気がして、とりあえずは満足です。
デザインは多少はできるけどデザイン会社で働くほどのプロじゃないので素人感には目をつぶって…
黒メインの中扉なので裏うつりするかなぁと思ったのと、各話がつながっていない短編集なので、余白ページをたくさん入れました。
文字が消えたあとの余韻、
文字が始まるまでの無音の空間。
その行間にうまれる感覚こそが読書の醍醐味。
物語の中に余白が挟まれることの必然を妥協したくなくて、紙の本を作っていると言っても過言ではありません。WEBでは表現できない、ページをめくる感覚、余白を読む時間も含めて没頭してもらいたい。
というわけで、今回もまた余白と余韻ページをたくさん入れてしまいました。
文字がないところも、多めの行間も、装丁の意図のひとつとして必然の「間」を楽しんでもらえたら嬉しいです。
6:広報・グラフィック
ジャンル外の絵師友が「文字だけしかないのにきれい」「ジャケ買いする」と言ってくれれました。絵もイラストも満足に描けないフォントオタクには最大級の褒め言葉です…ありがとうございます。
タイトルロゴも元は筑紫オールド明朝体です。少し細めにしたり加工してはいますが、できるだけ元の美しいバランスを崩さないように。未熟なので時間をおくとアラが見えてきて、地味に修正ばかりしています。
表紙入稿前にここまで持っていきたかったのですが、途中でADがダメだししてくれるような環境じゃない、孤独な作業なのでどうしようもない。デザインにNGくれるAD(アートディレクター)と細部まで文字校正してくれる編集が切実に欲しい。
書籍ではないのでこちらに詳細は書きませんが、あとがきペーパーこそ、ほんとうに一切の写真もイラストも他フォントもない完全に筑紫オールドだけで版面デザインしました。
仕事はかわいい系の依頼がほとんどなので、完全に「文字だけ」しかない版面は作ったことがありません。フォントの力ってすごい。こちらも友人に褒めてもらえたので作って良かったです。
広報に片足を突っ込んでる仕事柄、必要以上にこういう部分に力を入れてしまうのですが、自分で納得いくまでやろうとするとこうなってしまう。需要と正反対をいく話なのでできれば目立たずそっとしたい気持ちなんですけど、この見た目ではうちのジャンルでは完全に悪目立ちです。
もはや「創作がしたいから本を作るのか」ではなく「本が作りたいから創作をするのか」という疑惑に加えて「ただ自分の作品を宣伝したいだけではないのか」ということも疑われそうなあたりがまた、ジャンルから完全に浮いてる理由のような気がしていますがごめんなさい、これも含めて作品だと思って諦めて受け取って。
(使用アプリ等)
本文レイアウト Adobe Indesign CC
表紙レイアウト Adobe Illustrator CC
中扉用写真加工等 Adobe Photoshop CC
仕事用より私用の方が完全に出番の多い自宅のAdobe… Indesignはもう少し使いこなせるようになりたいです。今回告知用のモックアップには3D加工のDimensionを使用していません。イラレでモックアップ作れる時代。すごい。
今サイト見たらカバーに使える用紙とか箔押しのバリエが増えてる…!泣く…。次の本こそカバー&箔押ししたいです(赤字不可避)
こちらでカバーと帯に使える用紙が本当に豊富!同人専門ではありませんが、別注はありのアリだと思います。ぜひ。