見出し画像

第百十一話:逮捕される

 先ほどの賃金未払い疑惑の話などなかったかのように、突然インスペクションを始めると言われ、欲しい資料を羅列した紙を差し出された。おそらく、賃金未払いの件ではどうにもできないということを悟ったのだろう。そしてこの大人数で押し掛けてきた以上、手ぶらで帰ってくれる訳がない。他のあら捜しを始めたのだなと理解した。

 労働局職員が来ると聞いたときから不安はあった。それはすでに申請をしていたとはいえ、私の労働許可証はまだ手元になかったこと。ちょうどこの時は、コロナが始まったころであり、タンザニアでもマスク着用や在宅勤務を推奨している会社も多かったころだった。私の労働許可証は日本側がこちらのコンサル会社に依頼をしてくれており、すでに必要書類はそのコンサル会社に提出していたが、進捗を聞くとすでに提出し終えているということだったが、そのエビデンスをいつまでたっても送ってくれないような状況だった。しかも、その会社が在宅勤務をしているため、会社に直接訪問することもできずにいたのだった。

 労働局職員が一番突っ込みやすいのは、私の労働許可証であることは明らかだった。夫もそのことはもちろん分かっている、私がまだ取得できていないのも知っているのに汚いなと正直思っていた。
 私に労働許可証を申請しているというエビデンスがない以上、申請を委託しているコンサル会社と話を直接してもらう他ない。担当者の連絡先を渡し、その他の提出した書類のコピーを取って、その日労働局職員は帰っていった。

 数日後、再度労働局職員から連絡が入った。
これからオフィスに行くからオフィスに必ずいるようにとのことだった。同じような連絡がスタッフであるマイケルのもとにもあった。ただただ嫌な予感しかしない。

 そしてやって来たのは、労働局職員5名(以前来て、私を非難したリーダー的な男性職員はいなかった)と警察官4名。不法就労でこれから逮捕する旨、今日は警察署で寝ることになるから、アクセサリーなども含めすべての貴重品をここに置いていくようにと警察官から言い渡された。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?