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「愛の不時着」プロット分析③高貴な姫と詐欺師の意外なマリアージュ

*この記事はNetflixオリジナルシリーズ「愛の不時着」の脚本の素晴らしさをプロット分析した記事です。
プロット分析①はこちら>>>
プロット分析②はこちら>>>

「愛の不時着」プロット分析③は、5話・6話を見ていきたいと思います。お互いに好意を自覚し始めたリジョンヒョクとセリのやりとりに、もうキュンキュンが止まらない!!!!

そして忘れてはいけないのが、リジョンヒョクの婚約者ソ・ダンとセリの元婚約者で詐欺師クスンジュンの登場です。

ダイヤモンドのごとく高貴な姫と、大金詐欺を働いた悪党。この、真逆にある2人の出会いがなぜか「しっくり」くるのだから......男女の間っていうのは不思議ですね。

I-ダンさんはどこで「失敗」したか

5〜6話はリジョンヒョクとセリのロマンチックなシーンが目白押し!ではあるのですが、まずはダンさんについて語らせてください。私、ダンさん大好きなんです。

ロシア留学から帰国し「729ナンバーの車を取りに行く」という名目で嬉々としてリジョンヒョクに会いに行くダンさん。それなのに.......婚約者・リジョンヒョクは見知らぬ女を連れて現れた!

けれど、そんな予期せぬ事態でも、この時のダンさんの反応は完璧でした。「正解」だったと思います。

セリの存在に気づいていながら完全に無視していましたよね。

慌てたリジョンヒョクが「彼女は....」と紹介しようとしてもスルー。「母が会いたがっています」とニッコリ笑い、さらには「車のキーをくれれば帰ります」とサラリと言ってのけた。

「一人で帰ります」なんて.......そんなこと、リジョンヒョクが絶対にさせるわけない。ダンさんは当然、そのことを知った上で言ってます。そして策略どおり「僕が送っていく」というセリフを引き出した。うまい。

ただ二人で車に乗っても、リジョンヒョクはバックミラーでずっとセリを気にしていましたけどね......。

でもいいんです、気づかないフリをしておけばそれでよかった。リジョンヒョクは誠実だし優しい男です。何も知らず、自分を完全に信用している女性のことを裏切ったりできない。

けれど、お節介な女友達から「リジョンヒョクが女と平壌ホテルにいる」と聞かされたダンさんは、我慢できずヘアサロンからホテルに直行。権力を使い強引にルームナンバーを聞き出して、部屋の前で待ち伏せするという強硬手段に出てしまいました......。(だいぶコワイ)

この時点ですでにリジョンヒョクにとったら相当な圧。それに加えて「さすがに二度目だと私も不快だわ」というセリフをかます。......私は好きです、この超上から目線のセリフ。ただ男性は逃げ出したくなるのでは(笑)

さらには「婚約者が女とホテルにいる。そう聞かされた私の身にもなって」「だから仕返しです。夜に予定があってもキャンセルしてください」なんて言ってしまうエベレスト級のプライド。二人きりになった後くらい素直になればいいのに......。

高貴さは間違いなくダンさんの魅力です。ただ、長所と短所は裏表。

リジョンヒョクに対しては、不幸にもプライドが邪魔をするばかりになってしまっていました。これが「相性」というものかもしれません......。

I-詐欺師・クスンジュンの名言

ユン・セリの兄に巨額の詐欺を働き、10年の時効期間中「キープ」してもらうため北朝鮮にやってきた.....という、とんでもない悪党のクスンジュン。ですが、女性(美人)には常に紳士的で優しく、冷徹になりきれない人間くささもあったりして憎めない男。

しかもさすがは詐欺師!と称賛したくなるほど人心掌握術に長けており男女の機微にも敏感。私、クスンジュンみたいな男性けっこうタイプです.......リアルで出会ったらリジョンヒョクより好きかも。(誰得情報すみませんw)

ただクスンジュンの、この世馴れした魅力も、セリには「胡散臭い」としか思ってもらえず婚約破棄されてしまった。けれど不思議なものでダンさんと一緒にいる時のクスンジュンはどこか頼り甲斐を感じるんですよね。

「暗い顔しないで。婚約者が離れていくぞ」
「男は自分の女が苦しむ姿を見たがらない」
「無視しておけばいい。その方が有利に立てる。男女関係は最初がすごく肝心なんだ」

「婚約者が女とホテルにいた」と投げやりに愚痴るダンさんに、クスンジュンが言ったセリフは名言でした。彼のダンさんに対する助言はいつも的確だし、核心を突いてハッとさせられます。

そして......この言葉を聞いてダンさんは気がついていましたね。自分が「失敗」してしまったことに。そう、本当はクスンジュンの言うとおり見て見ぬフリしておくのが正解だった。

ホテルまで押しかけて追い詰めたところで彼の心を繋ぎ止めることはできない。誠実な男だからこそ罪悪感に苦しみ、負担になる。だったら最初にセリを見たときのように余裕たっぷりの涼しい顔で無視しておくのが一番よかったんです。

とはいえ同じ女性の立場で言わせてもらえば「黙っていられるか」って感じだし、どちらにせよセリとリジョンヒョクの縁はあまりにも運命的。ロミオとジュリエット(あ、織姫と彦星か(笑))効果も相まって太刀打ちできない絆を結んでしまっているから......ダンさんがどんなにうまく立ち回ろうと結果は同じだったと思いますが。涙

I-セリが先制攻撃しなくて済んだ相手

「愛の不時着」の脚本家であるパク・ジウン作家のドラマは、どれもエピローグが凝っていて見逃せません。愛の不時着でも毎話印象深いシーンが描かれていますが、私は特に5話のエピローグが大好き!

ソウルで数々の浮名を流していた頃のユン・セリ。彼女は男にこんな捨てゼリフを吐かれていましたね。

「いつもそうだよな。傷つきそうなら振って、待たされそうなら先に行く。自分と同じ人に会ってみろ。ずっと待たされればいい」

ところで、なぜセリはいつも「先制攻撃」したがるのか?

それはやはり、幼い頃のトラウマのせいです。母親に捨てられ傷ついた記憶......もう二度と傷つきたくないから、傷つく前に傷つけて去る。攻撃は最大の防御と言いますが、まさにソレ。

「それはない。誰かを一人で待つなんて惨めなことはしないもの」

セリはそう言って強がっていたはずですが、ダンさんを送って行ったリジョンヒョクの帰りをセリは今か今かと待っていた......というシーンが描かれていました。

風の音にまで反応したり、眠れずに平壌まで車で往復した場合の帰宅時間を計算したり、空き缶を38度線に見立てて並べてみたり。帰宅時の「外泊したのね?」というセリフはもはや浮気疑いアリの夫を待ち受ける妻の形相(笑)。

結局、恋に落ちたら誰しもスマートでなんかいられないんですよね。財閥令嬢で超セレブなセリが、リジョンヒョクの帰りを孤独に待ちながら一晩中缶ビールをあおるなんて!

それからもう一つ。リジョンヒョクは決してセリを裏切ったり傷つけたりしない。

そのことをセリも段々わかってきていて、だからリジョンヒョクには先制攻撃しなくて済み、素直に振舞うことができたのかもしれませんね。

I-絶対に線を越えないリジョンヒョク

5〜6話は特に、リジョンヒョクの誠実さが色濃く描かれていたと思います。

彼は絶対に、線を越えようとしないのです。

どちらかというとセリは、リジョンヒョクに対する気持ちを何度も匂わせていました。

アロマキャンドルを持って現れたリジョンヒョクに「あんな風に現れたらときめくじゃない」と言ってみたり、パスポートの写真を撮るついでに「記念に二人で撮ろう」と誘ったり、大同江でチキンとビールを食べながら「幸せなの。だから混乱してる」と言って肩にもたれかかったり、いざ空港へ向かう夜は別れ際に「握手じゃなくて抱きしめてよ。最後なのに…」とまで言っていましたよね。

それでもリジョンヒョクは決して自ら動かなかった

思えばリジョンヒョクは最初にセリが「ときめく」と言った時から線を引き続けていました。

「婚約者がいる」と自らはっきり言ったし「記念に残す意味はない」と言って写真も断ったし、一緒に初雪を見ても「恋に落ちたら困る」と言い「抱きしめてよ」と言われてもなお、握手しかしなかった。

すべてはセリを無事に韓国へ帰すため。そして......ダンさんとの約束を守るため、ですよね。

.....ものすごい忍耐力だなぁ。普通はムリ。さすがに抱きしめるでしょ!!!最後なんだからさ!!!

けれどここまで一切自ら動かなかったリジョンヒョクだからこそ、この後の「病院キス」がより意味を持ってくるわけなのですが......。

I-別れた後も、幸せでいて欲しい

パスポート用の写真を撮りに平壌へ向かう列車のシーンは、全編を通しても特に印象的なシーンでした。焚き火の前でセリがリジョンヒョクにもたれかかって眠る様子がドラマの宣伝スチールにもよく使われていましたね。

ちなみにこの場面、モンゴルで撮影されたそう。そしてなんと、列車内でアコーディオンを弾きながら歌うエキストラの女性は、実際に北朝鮮出身の演奏者にオファーを出したというから驚きです。

それにしても、停電のため10時間ストップするってマジ!?これはさすがにオーバーな演出なのでは?と思いましたが調べてみましたらリアルみたいです。リジョンヒョクが言っていた通り10時間で済めば良い方で、復旧までに数日かかることもあるとか。絶対乗りたくない......。あんなふうに物売りが集まってくるのも本当らしい。すごい世界だ......。

ここでも「あれが欲しい、これが欲しい」というセリの要望を、リジョンヒョクは呆れながらも叶えてあげていましたね。セリも言っていましたが「いい夫 / いい父親」の要素満載。こういう、随所に垣間見えるリジョンヒョクの優しさ・思いやりにもキュンとさせられます。本当に素敵!

寒い中、毛布にくるまり焚き火をしながら自身の過去を語る二人。その中「先のことは考えないようにしている」と話したリジョンヒョクに、セリはこんな風に答えていました。

「私がいなくなった後も、あなたには幸せでいて欲しい」

......ソウルで暮らしていた頃のドライなセリとは別人じゃないですか?

思い出してください。パラグライダーで不時着した直後は、逃げる時間を稼ぐためトランシーバーを水に浮かべて地雷を踏んだリジョンヒョクを放置したセリですよw。婚約者設定の自分が帰国したあとは必ず「フラれた」体で、飲まず眠れずで落ち込んで過ごせと命令までしていたのに(笑)

しかしながら、変わったのはセリだけじゃありません。ほとんど笑わず無表情であったリジョンヒョクも、セリと出会ってからいろんな怒ったり笑ったり感情をあらわすようになりましたよね。

そして......リジョンヒョクが初めて歯を見せて笑ったのが、この平壌行き列車のシーンだったように思います。

また「私がいなくなった後も、あなたには幸せでいて欲しい」というセリフは、今後の二人の関係性を表すキーワードにもなっていると感じました。

F4の1人であるグァンボムの運転で空港に向かうセリ。その後ろから迫る、チョチョルガンのトラック(このトラックのわかりやすく凶暴な装備には毎回ツッコミを入れたくなりますw)......二人を襲う悲劇とその後の展開は、自分と同じ、いや、それ以上に相手の安全と幸せを願うようになった二人だからこその行動でした。

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