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「極めて野心的」:2020年代起業家の必読書「未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則」の速読読後感

馬田隆明さんから今日発売の著書「未来を実装する」を献本いただき、概観しました。

IMG_3723のコピー

一言でいうと、「野心的な一冊」であり、下記の問題意識を背景として、今後の起業家が目指す道筋を包括的かつできるだけ実践的に描こうとした書籍だなと感じました。(「包括的」と「実践的」という2つがキーワードです)

「2010年代を振り返ってみると、デジタル系スタートアップにとって恵まれすぎていた年代だったように思います」
「これからのスタートアップは、(中略)従来のやり方では、中々うまくいかないケースも増えてくるのではないかと考えています。」
「社会的なインパクトを考え、規制などの社会の仕組みを良い方向に変えるよう働きかけながら、テクノロジのポテンシャルを十分に活かせるような基盤を作り、そこで新たな市場を作っていくような、新しい戦い方が起業家には必要とされているように思えます」
(末尾、著者のブログより引用。陶山も全面的に賛同・共感します)

謝辞にあるとおり、本書は一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの『第4次産業革命の社会実装力』ワーキンググループの成果をまとめたものとのこと。このメンバーの一覧が示す通り、各界の第一人者が集まって議論を行い、様々なインプットが行われていった様子が目に浮かびます。

「インパクト」や「ガバナンス」といった言葉づかいは、学術用語や日常づかいと若干ズレるところもあるなと感じましたが、逆に、そういったところにも、通常よりも広いテーマを射程に捉えようとした筆者の狙いが透けて見える気がして、好意的に捉えました。

自分の関心とも下記のような点で多領域で重なっています。

・インパクトの重視:財務的な結果(アウトカムの一つ)のみにとどまらず、財務も含む広範な影響を捉えようとするところ。
 また直接的な成果(アウトカム)にとどまらず、その波及(インパクト)までも見据えて事業活動を行なっていくべきとするところに共感しました。
・ガバナンス:自分も行政機関出身であり、GR(官民連携:Government  Realations)に関わっているとともに、行政のルールも含めた”社会システム”をどのように設計していくかといったところにも関心があるところです。(自分の学術的な専門"システムズ・エンジニアアリング"でも、この領域に関心ありです)
・センスメイキング:ここ2,3年の活動の中でPR(Public Realations)とクリエイティブの重要性を痛感するようになってきています。「腹落ち」という言葉でも表現されていますが、同時に「共感」、「信頼」といったキーワードが自分の関心事項にはあります
・リスク・コントロール:最近の大きな自分の関心の一つは、金融というものの性質とあり方について。金融の本質の一つはリスクのコントロールであり、本著ではあまり触れられていませんが、未来の実装と金融の掛け合わせという新しいテーマでも議論できそうだと感じました。
 (あとは、原発を担当していた頃から"リスク・コミュニケーション"は関心事項の一つです。ここはまだまだ深掘れていませんが)

「包括的」であるが故に話が広範な範囲におよんでおり、「実践的」であろうとするが故に具体事例まで書き込み、ツールセットまで用意して、、と非常に分厚い本になっていますが、新事業・産業をつくっていこうとする人には、間違いなくオススメの一冊です。

本書を書くのは非常に大変なことだったのではと愚察します。お疲れ様でした!

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<以下、著者のブログより引用>
2010年代を振り返ってみると、デジタル系スタートアップにとって恵まれすぎていた年代だったように思います。クラウドや App Store の登場で起業&配布コストが格段に安くなり、Webやスマートフォンを基にした市場はホワイトスペースで、さらに市場も急拡大していました。市場の波に乗ることで、スタートアップも急成長が可能でした。
しかしスタートアップの置かれている環境はずいぶん変わったように思います。この10年で純然たるデジタル領域のホワイトスペースの多くは探索・確保され、GAFAM のようなビッグテックに占拠されています。そうした背景からか、近年のスタートアップはデジタル領域以外の、規制などがある業界や物理的な領域へと挑戦を始めています。たとえば FinTech、ConTech、RegTechなど、xTech という言葉が次々と作られているのがその流れを示しているのではないでしょうか。さらにデジタル技術の影響力が増すにつれて、デジタル技術全体が規制の対象にもなりつつあります。
こうした状況において、起業の方法論も変わりつつあると感じています。いわゆる「0 → 1」のフェーズにおいては従来の起業の方法論がいまだ有効だと思いますが、「1 → 10」や「10 → 100」のフェーズは少し異なる様相を見せています。急成長しようとしても規制に阻まれたり、ほかのステークホルダーにブレーキを掛けられたりもするでしょう。これからのスタートアップは、従来の『Move Fast and Break Things』やブリッツスケーリング的なやり方では、中々うまくいかないケースも増えてくるのではないかと考えています。
2020年代のスタートアップが「1 → 10 」や「10 → 100」などのフェーズにおいて急成長するために必要なのは、社会をどう変えていけば良いのかという政策起業家的な方法論だと考えています。社会的なインパクトを考え、規制などの社会の仕組みを良い方向に変えるよう働きかけながら、テクノロジのポテンシャルを十分に活かせるような基盤を作り、そこで新たな市場を作っていくような、新しい戦い方が起業家には必要とされているように思えます。





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