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IBSA柔道グランプリ・アレクサンドリア2023

3月8日から16日でグランプリに出場するためエジプト・アレクサンドリアへ行ってきました。
今回は試合について振り返ります。

この記事のタイトルやTwitter等の投稿では大会名を「グランプリ・アレクサンドリア」としていますが、今大会名には表記揺れがありました。
当初の大会要項では「Alexandria」でしたが、大会の時点で用いられていた表記は「Borj El Arab」(ボルグ・エル・アラブ)でした。
アレクサンドリアはエジプトの都市およびその都市を県庁所在地とする県名で、ボルグ・エル・アラブはアレクサンドリア県にある地域の地名だそうです。
ですので、正式な大会名称は「IBSA Judo Grand Prix Borj El Arab 2023」です。

今大会は私の2023年最初の試合であり、パリ2024出場のためのポイント争いで上位に食い込むために必ず入賞しなければならない大会でした。

大会前の時点で世界ランキングは5位、パラリンピックランキングは11位でした。今回の目標はもちろん優勝。
そして、今回のテーマは昨年の世界選手権での失敗を教訓に、コンディショニングとウォーミングアップとしていました。

結果から言うとJ2,73kg級で3位。
テーマとしていた点についてはおおよそ良い手応えでした。


まずは試合前の状態から。
今回は時差調整についてはかなり良好。機内での睡眠時間を正確に管理することができました。

食事についても機内食は極力控え、持ち込んだおにぎりや機内で確保できるおにぎりを食べ、普段と同じ米を主食にするよう心がけました。
現地に到着してからも、毎食持参したアルファ米を食べ、私の胃腸に影響しやすい小麦や油の多いものは極力控えました。

体重については代謝が上がっていたことや現地の食事で食べられるものが少なく、重さのあるものを摂取できなかった影響か日に日に減少。到着時に74kg程度ありましたが、計量時は72.5kg。しかし、体自体はよく動いており、ならば下手に食べなくても良いかとの判断で特に手は打ちませんでした。
未だ元の体重自体が十分な重さがありませんが、無理に体重だけ増やすのも愚策です。ただ、重い方が有利なのも事実ですので、次回以降どのように対応していくかは今後の検討課題です。

体調は到着から3日、日に日に良くなっていきましたが、試合前日の時点で少し疲労が出ていました。
今回は調整練習が午後であったことと「脱・スロースターター」計画のため試合日も含めて毎朝ランニングを行いました。
いくらかのジョグで体を温めて30〜60秒程度ダッシュ。少し休んでもう一度ダッシュ。心拍数180を目安に体を動かしました。
心拍は上がりやすく、また運動の強度を落とすとすぐに落ち着く感じでしたが、試合前日、当日にはそれが少し鈍っていました。これは疲労によるものだと思われますし、疲労の一要因としてこのランニングがあったことも事実でしょうが、試合前日の時点で体の動きはかなり良かったことや、これまでの経験則から、少し疲労があるくらいが最も良く動けるだろうと考えられます。
今後はこの疲労具合をどのようにコントロールして試合当日にピーキングするかを考えていかなければなりません。


試合当日はランニング以外は概ねいつも通りのルーティーン。
睡眠も時間自体は少し短めですがとてもよく眠れました。
試合会場到着後もいつも通りのウォーミングアップ。時間をかけて体を作りました。
可能ならばここで乱取りくらいまでできると良かったのですが、今回は相手がいないのでスピード打ち込みまで。

4試合前くらいになると呼び出されたので出動。待機場所へ行くといつも通りの柔道着コントロール。やはりプレ柔道着コントロールは何の意味もなかったようです。OKが出た道着には裾の裏にスタンプを押されました。スタンプを押されると知らなかった私は、急にガシャンとやられて驚きました。係の女性にはそれを見て笑われ、明日には消えるから大丈夫と言われました。



1回戦は中国のマ選手。この選手とは2019年9月のアジア・オセアニア選手権で対戦経験があり、その時は一本勝しています。
しかしこの選手は2019年を最後にしばらく大会に出場しておらず新しいデータがありません。
実際に畳で相対すると、前回の対戦よりもかなり体が大きくなっているように思いました。おそらく身長自体がかなり伸びています。

試合内容はあまり良くありません。脱・スロースターターを図りましたが、やはり動きは硬くなかなか決手がありませんでした。また、相手がこちらを研究していたのかはわかりませんが、釣手を殺されていてなかなか背負いにもいけませんでした。
最終的には相手の不用意な大外刈を返して一本。最近は大外刈の練習もしており、この形での体の使い方も少しは身についていました。これを発揮できたのは良かったです。

スロースターターなのは心因性のものが大きいのかもしれません。やはり初戦は難しい。
今回は正直言ってそれほど強い相手ではなかったのでなんとかなりましたが、去年の世界選手権のように初戦から強敵に当たることは今後もあり得ますし、ランキング上位の選手しか出れないパラリンピックとなれば、初戦から必ず強豪選手に当たります。脱・スロースターターには今後も取り組んでいかなければなりません。


2回戦は韓国のキム選手。昨年12月の東京オープンに続き2度目の対戦。
正直言うと投げられる気はしていませんでした。しかし、前回背負で押したからか、研究されていたのか、完全に背負を警戒されていました。
腰も引いて完全に防御の体勢で足も届かず足技も難しい状況。試合中盤で相手の体勢が崩れたところになんとか足を出した大外刈りで相手が転がり辛くも技あり。
技がなかなかかからない状態であったため冷静に考えれば残り2分を流すべきだったのかもしれませんが、一本にこだわってしまいました。本来であれば悪いことではないのですが、今回のような場面では悪手と言えるかもしれません。
難しい体勢で強引に背負に入ったために手首を痛めてしまいました。

今回はやはり冷静でいられないことがひとつの課題と言えます。そして背負が警戒された状況での対応策を十分に持っていないということも今後の最重要課題です。最近は色々な技を練習してはいますが、まだ試合で出せるほどの完成度には達しておらず、また体で覚えることもできていません。
背負投ですら十数年かけてやっと今の形まで作ることができたので、他の技がそう簡単に身につくとは思いません。地道に練習していきます。

この試合は私の視覚障害者柔道史において4年ぶり2度目の優勢勝ち。また、GSでない優勢勝ちはこれが初めてです。ちなみに優勢負けも1度しかありません。
一本で決まらないと、どうも試合後の納得感がありません…


準決勝はアゼルバイジャンのアバスリ選手。手首を痛めたことでこの時点でかなり気持ちが折れていたというのはありますが、しかしそれでも負けたくない相手です。
彼も元は66kg級で、そして私と同じ東京の銅メダリスト。東京時点ではおそらく彼の方が強かったと思いますが、パリに向けては同じ条件で同じスタートラインから始めた相手です。

展開はやはりこちらの背負を警戒しており、背負は完全に封じられてしまいました。釣手が殺されており背負に入ることはできませんが、相手の動き自体は比較的正対して私の引き手方向に動いており、背負に入りやすそうな動きです。しかしそれが相手の思惑だったのかもしれません。私が背負に入ろうと引手方向に進み、釣手を気にしていたために足元が疎かになっていました。
アバスリ選手得意の肩車。1度目は技あり、2度目は一本でした。
途中何度かこれを防ぐことはできたのですが、最終的には膝が伸び腰が高くなっているタイミングを狙われて投げられてしまいました。
余裕がなくなってくると次第に腰が浮いてきてしまうのも課題です。今後このような点を常時徹底できるように稽古していかなければなりません。


ここまで終えて昼休憩に入りました。
手首を痛め、得意の背負は封じられ、横にいたはずのライバルに負けて…
久しぶりに柔道をやめてしまいたいと思いました。
こんな状態で3位決定戦を戦える気がしませんでした。

しかし、時間が来れば試合は始まります。相手はドイツのコルンハス選手。通称ニコライさん。2度目の対戦です。

ここでも背負が強く警戒されていました。しかしニコライさんは比較的正統派の柔道なので極端な防御姿勢になることはなく、多少は背負の形に入ろうとするところまでは動かせました。
しかし手首の不安から思い切って入れず。正しい背負の入り方であればそれほど痛まないのですが、試合でそう上手く入れることは多くありません。

また審判との相性も少し悪く、私が完全に握る前に「はじめ」をコールされてしまうので、開始際の背負もなかなか使えません。
一度、右の釣手から持ち確実に掴めてから左の引手を持つことで、両手を確実に掴んでから「はじめ」がコールされるように図ってみましたが、私が引手を持つ前に「はじめ」がコールされてしまい、不発でした。

最終的にはニコライさんの技の戻り際の体勢が崩れたところで隅落のような形で投げて一本。なかなか強引な形で私自身それほど手応えもなく、あっても技ありかなと感じたのでそのまま押さえ込みの体勢に入りましたが、一本だったようです。
それを審判から伝えられた時の私は、たぶんマヌケな顔をしていたと思います。

気持ちが切れた状態でもなんとか勝ち切れたことは、私がこれまで稽古してきたことが体に染みついている証明として自信にはなりますが、やはり背負に入れないこと、思い通りの試合展開が作れないことは非常に不満であり、今後それを克服できるような実力を身につけていくほかありません。


今回は3位という結果に終わりました。ポイント的にも入賞できたことは良かったですし、表彰台には必ず上がらなければならなかった大会ですので、その最低ラインを達成できたことは安心です。

しかし、目標は優勝であり今回はそれを十分に達成できる状態にあったと思っています。にも関わらずそれができなかったのは見通しが甘かったか、準備が不十分であったか。いずれにしてもやることは稽古しかありません。
今回で世界ランキングは4位、パラリンピックランキングでは7位まで持ち直しましたが、トップ層との差は広がっています。

次は4月末、アジア選手権。パリでの金メダルに向けて、次こそは優勝できるようがんばります!

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