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死にゆく人を引っ張り戻すときに考えること 第68回 月刊中山祐次郎

今年が始まって2週間あまりが経った。

年始から超重症患者さんを何人も診ていてずっと病院に気持ちがあるため、感覚としてはもう3月の頭くらいの気分だ。

担当の患者さんの経過が良くないと、それだけで外科医は、いや私はかなり落ち込む。とても悪いと、精神的なダメージを負うと言ってもいい。食事は味がしなくなり、酒を飲んで意識を誤魔化す。見ていると、私以外の外科医も似たようなかんじがある。

もちろん、患者さんの状態が良いか悪いかは医療側だけのものではない。残念ながら、死にゆく人をバンバン蘇生させるような芸当は現代の医学ではできない。

だが、三途の川をゆらゆらと漕ぎ出した患者さんを、あの手この手で無理やり引っ張り戻すようなことはよくやっている。たとえば腹の中で腸が腐って3日間我慢してしまったり、胃や大腸に穴が空いて腹膜炎になってしまったり、そういう人たちの多くは何もしなければ数日以内に川の向こう側へ行ってしまう。

そこには、料理本のような決まった治療法があるわけではない。こういう患者さんのこういう病態で、いまは脱水に陥っているわけだから点滴や輸血を増やす。腎臓が破壊されつつあるので、ここは一時的に透析を導入する。これ以上感染が収まらないとまずいので、リスクを覚悟で腹を開ける・・・

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