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医師国家試験を受けたときの話 第101回 月刊中山祐次郎


皆さんこんにちは、医師・作家の中山祐次郎です。

今回は私が連載している南日本新聞のエッセイを、許可を得て転載致します。今回はね、医師国家試験を受けたときの話ですよ。

朝の文箱 中山祐次郎 

2007年2月。とうとうあの試験がやってきた。医師国家試験だ。受験者数は全国で約1万人、合格者は9千人。国内の医学部に合格し、進級し、卒業試験に合格した者だけが受験できるこの試験、千人は不合格になる。日本国家から「医師になってはならない」と言われるのだ。落ちた者は一年後に再受験をすることになる。 

僕ら鹿児島大学医学部の6年生約100名は、試験本番2日前に熊本入りした。医師国家試験専門予備校が開く「直前講習」などという、心を惑わせる「試験に出るかも情報」満載のビデオ講義を受ける。僕は眉唾で見ていた。医師国家試験の問題情報が漏洩するはずはないし、うさん臭い風体の講師が知るはずもない。だが、これは受験者の9割が合格する試験だ。みなと同じ行動をしていれば受かるし、違う勉強をしたら落ちる。そんな集団心理で、高い金を払ってしぶしぶ受講した。 


かくして本番の日がやってきた。会場の崇城大学へと向かうバスの中は静まり返り、皆手元の参考書に目を落としている。そんな同級生たちにうんざりした僕はイヤホンで竹内まりやの歌を聴きながら、窓の外を流れる冬景色を見ていた。いまさら勉強したって変わらない。あと1点で合格するようなやつは、落ちたほうがいい。そんな、根拠のない自信がみなぎっていた。 

会場に入ると、僕ら受験生がずっこける事件が起きた。

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