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間違えてはいけない問題 第103回 月刊中山祐次郎

皆様、ご無沙汰してしまっております。このところコロナ関連で医者業が異常に忙しく、またコロナによる保育園休園で家庭内保育などしておりましてまったく書く余裕がありませんでした。申し訳ありません。

今回は私が連載している南日本新聞のエッセイを、許可を得て転載致します。今回は前回・前々回に続いて、医師国家試験の試験中の話ですよ。

2007年2月17日。医師国家試験1日目、夕刻。26歳の僕は鹿児島大学医学部の同級生とともに試験会場である熊本県の崇城大学にいた。医師国家試験は「必修問題」と「臨床問題」に分かれる。「必修問題」では、周りの人が何点を取ろうが平均点が何点だろうが、必ず8割以上を正答せねば問答無用で不合格になる。その分、基礎的で「絶対に間違えてはいけない」問題が出るのだ。国家試験初日の16時10分からの50分間で解く50問が、この必修問題だった。ここで40問以上正解でなければ、国家試験に落ちてしまう。落ちたら「国試浪人」と呼ばれ、一年間勉強をして来年の2月に後輩と一緒に受けることになる。そんな恐ろしいパートを、初日の緊張と朝からの試験で疲れた頭を使って解かねばならないのだ。

さっそく悩んだ問題があった。手術の当日になって「手術は死んでもいやです」と看護師に言う成人患者に、担当医としてどうすべきか、という問題だ。選択肢は、「1,予定通り手術を行う」「2,手術以外の治療法を考える」「3,他の病院へ転院をすすめる」「4,患者の説得を家族に依頼する」「5,患者から直接話を聴いてから判断する」だった。一つを選ばねばならない。2、4、5が良さそうだが、絞りきれない。問題を作った医者の意図はなんだろうか。説得などするな、か。いや、患者の自己決定権を重視せよ、だろうか。それともまさかの看護師を疑え、だろうか。直接自分で聞け、ということか。なぜこんな悩ましい問題が、重要な必修問題になるのだろうか。

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