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心の地図を描く 【情報の栄養学 ②】

これまでの心理学で語られてきた内容と、私が考える「情報栄養学」の内容を合わせて、一枚の「心の地図」を描いてみました。(下図参照)

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■意識のレベル

この「心の地図」の縦軸は、意識のレベルを表しています。中央の水平線より上半分(第I、Ⅱ領域)は、「うれしい」「楽しい」「気持ち良い」「ありがたい」「ラッキーだ」といったプラスの感情の領域です。この感情が高まり、しっかり心に根付くと、次第に意識のレベルが上昇し、心は幸福感に包まれます。また集中力が高まり、ついには忘我の心境に達することもあります。
逆に下半分(第Ⅲ、Ⅳ領域)は、「つらい」「悲しい」「許せない」「がっかりした」「面倒臭い」などマイナスの感情が心に広がっている領域です。これが強まると、うつ症状など心の病に捕らわれてしまう可能性が出てきます。
次に、地図の右側と左側を見てみます。

■言語が活躍する対人関係領域

灰色で示した右半分(第Ⅱ、Ⅳ領域)は、対人関係の領域です。これまで心理学が主として扱ってきた領域と言っても良いでしょう。アルフレッド・アドラーは「人の悩みは100%対人関係の悩み」と言いました。人は、家族、会社、国家などに所属して生きており、その対人関係の中で喜怒哀楽が生じ、意識のレベルが上がったり下がったりしています。またこの領域では「言語」が重要な役割を果たします。思いやりのこもった言葉がけで相手を勇気づけることもできれば、逆に侮辱する言葉を投げつけて相手のメンタルをへし折ることもできます。
フロイト、アドラー、ユング、ロジャーズなどが活躍した20世紀の心理学では、このうちの第Ⅳ領域(濃いグレイ)、つまり意識がマイナスの感情に支配されている領域が主に研究対象となってきました。マイナス感情を解放し、いかにして中央水平線(スタンダード)レベルまで意識を持ち上げるかがテーマです。この領域については、これまで最も深く研究がなされ、精神科医や臨床心理士が、日々患者の病状改善に努めていると言って良いでしょう。
これに対し、第Ⅱ領域(薄いグレイ)は、21世紀に入ってから急速に注目が集まっている「ポジティブ心理学」の分野です。ここでは意識を日常生活のレベルからプラスの方向に持ち上げるための条件や方法論が検討されています。「今、ここ」に意識を集中する「座禅」や「マインドフルネス」などがそれです。この分野では「フロー」「ゾーン」「至高体験」「ナチュラルハイ」など特徴的なプラスの意識状態が確認されています。

■直接脳を刺激する、自然環境領域

今度は地図の左側、緑色の領域(第Ⅰ、Ⅲ領域)を見てみましょう。ここは、環境が直接人の脳に影響を及ぼす領域です。例えば、
・朝日を帯びるとセロトニンが分泌される
・低気圧になると、脳の血管が膨張し、頭痛が起こる
・森のフィトンチッドを吸収すると交感神経の活動が抑制される
・鳥や虫の鳴き声(高周波成分)を聴くと脳のアルファ波が増大する
などです。
これらの現象は、人間を取り巻く自然環境が、感覚器を通して様々な形で脳に働きかけ、それによって意識のレベルを変化させていることを示しています。
例えば、「朝日を浴びるとセロトニンが分泌される」性質を利用して、早朝散歩を実行すると、おのずと精神が前向きになり、澱んだ気分が浄化されていくことがわかって来ています。
また、ウグイスや四十雀など野鳥の声を聞いていると心が穏やかになってくることも経験的に知っています。
こうして見ると、この領域の事例の多くは「森と天候」に収斂しているように思えます。これはおそらくは、我々ホモ・サピエンスの遠い祖先がアフリカの森の民であることと深い関係があるのでしょう。
また、この領域は、右側と違って「言語」は関与しません。目や耳、鼻などの感覚器を通じて音や光、匂いなどの情報が直接脳を刺激します。

■左右の領域は心の中で統合される

私は、この左側の領域(緑色)が人間の精神にもたらす感覚を「生態系感覚」と呼んでいます。右側(灰色)の領域は、アドラーが名付けた「共同体感覚」がそのまま使えると思っています。
この左右2つの領域は、これまで別々に研究され、論じられてきたのですが、実際には1人の心の中で相互作用が起こり、その結果として意識のレベルが上がったり下がったりすると考えられます。

■心のケアとしての「転地療法」
この心の地図を眺めていると、例えば精神疾患の人への「転地療法」なども視野に入ってくるのではないか思います。
私の従兄弟は、和歌山で生まれ育ったのですが、子供の頃ぜんそくがひどかったので、一時、長野県に転地療法したことがありました。この場合は「空気のきれいなところ」が転地の条件だったわけですが、例えばうつ症状の人に対して「森の近所に引っ越す」ことが1つの処方になるのでは?と思います。

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