書評『生きづらい日本人」を捨てる』

外務省によると日本以外での国で暮らす海外在留邦人の数は、令和5年(2023年)時点で129万人だそうです。それらの人たちは、仕事での駐在、留学など、様々な理由で海外に暮らしていることでしょう。日本ではない異国で自分の人生を切り開いていこうとする人の生きざまを描いたのがこの本です。

作者の下川氏は、アジアを中心にバックパッカースタイルで旅を続け、各地での出会いや出来事を数多くの著作として発表している「バックパッカーの神様」と呼ばれる人です。

この本では、9人の著者が海外の現地で出会った人々が取り上げられています。日本での環境にうまく折り合いがつかず、海外で苦労しながら自分らしい生き方を見つけようと奮闘しています。その中でも一番印象的だったのが、タイのチェンマイでホームレスぐらしをしている中年男性の話です。

日本に家族を残し、わずかのお金を持って単身タイに渡ってきた。つまり、蒸発ですね。何をしたいという目的もないし決まった働き口もない状態なので、所持金も底をついてしまいます。そのため、宿泊していたアパートも引き払うことになり、日中はお寺で過ごし、夜はバスターミナルで寝るというホームレス生活を始めます。何とかして食費を工面しようとして、ついにはショッピングセンターや書店で万引きを始めます。そんな生活が長く続くわけはなく、警察に捕まります。しかし、所持金もないというあまりの困窮ぶりに警察も見かねて釈放し、またホームレス生活に戻りることになります。

いったん回り始めた人生の歯車は自分ではなかなか容易に戻せないのでしょうか。本人もなかばあきらめ気味で漂うように日々を送っている姿を見て、やるせなさを感じました。

その人の個人的な性格も影響しているはずでますが、そのような環境に置かれると誰でも陥ってしまうのではとも思ってしまいました。

人生をどう生きていくかということについて考えさせられた一冊でした。


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