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ライムスターが教えてくれたこと『本当にペンは剣より強かった』

日本ヒップホップ界のレジェンドとして君臨する3人組ヒップホップグループRHYMESTER。

宇多丸、Mummy-D、DJ JIN
2MCと1DJで構成された通称キングオブステージ。
その異彩を放つ存在感と独自の道を走り続けるオリジナリティ。
表の番長がZeebraさんなら、 まさしく日本ヒップホップ界の裏番長と言うべき存在だと私は思っている。

R-指定さんについて書いた、この記事の中でも少し言及したが、ライムスターと言えばマッチョでも不良でもなく絶妙なバランスを持つ1.5軍。

いわゆるステレオタイプなヒップホッパーとは一線を画し、持ち前のインテリジェンスを武器にユーモア、シニカルさ、そして美しい表現力を兼ね備えたリリックを書く。

そう、武器はインテリジェンス。
この記事で伝えたいことはインテリ論だ。

MCを務める宇多丸さんはラジオのパーソナリティーを長年やっている。
その言葉巧みな話術と、耳障りのよい声。
私ごときが言うのは生意気だが、ラジオの申し子と言って差し支えないほど宇多丸さんのラジオパーソナリティとしての才能はとてつもない。

まず、圧倒されるのはボキャブラリーの豊富さと卓越した日本語構成力。
宇多丸さんのおしゃべりを聞いていると、日本語の可能性、繊細さ、さらなる奥行きを感じる。
隠しきれない確かな地頭の良さが滲み出てしまう語り口だ。
ペラペラと早口でしゃべって"お話が上手い風"を装う人は最近多いが、そういう人はいかんせん地頭の悪さがバレている。
地頭の悪い人は自分の言葉でしゃべっておらず、「おしゃべりの上手い人ってこんな感じでしょ」というモノマネから脱していない。

宇多丸さんは完全に言葉を自分のものにしており、きちんと頭の中で整理され、噛み砕いてからアウトプットする。
プロの語り部の真骨頂をこれでもかと体現されており、今後もラジオの帝王として君臨していくことは間違いないだろう。

ラップのスキルと話術の因果関係…全員に当てはまるわけではないが、宇多丸さんに関しては話術がラップのスキルに活かされているとしか思えない。

そして、もうひとつ宇多丸さんの特筆すべきは固有名詞の記憶力だ。
宇多丸さんは映画評論もしており、映画に詳しいなんてレベルでは片付けられないほどに知識量が凄まじい。
宇多丸さんはお話の中で、映画にまつわる固有名詞をバンバン出すのだが、あの膨大な量を正確に記憶している脳のメカニズムは解明不可能である。

興味があることなら、好きなことなら覚えられる…という域は超えている。
この常人離れしたインプットからの完璧なアウトプット。
もう、この事実だけでラジオに選ばれてしまった人なのは間違いない。

少し話はそれるが、映画評論というものを皆さんはどう考えているでしょうか。

映画を褒めているだけなら何も物議を醸すことはないが、時に否定的な意見が並ぶこともある。
そんな映画評論に対して、映画を作ったこともないくせに偉そうに批評してボロクソに批判するなんて…という意見を聞くことがある。

言いたいことは分からなくもない。批判された監督や脚本家などからすれば、たまったもんではないだろう。

だが、宇多丸さんの映画評論を聞くと、こんなことを思う時がある。

「映画観るより面白いやん」

そう、このレベルにまで達すれば、評論という名の立派なエンターテイメントになっている。これはこれで1つのプロフェッショナルと認めざるを得ないほどのクオリティだ。
その下準備から細部の指摘等々に至るまで、評論する映画と真剣に向き合った上で勝負している。

そもそも大前提として客からお金を取っている以上、批判にさらされる可能性はある。それは飲食店でも何でも同じだ。
世の中に解き放った時点で、良くも悪くも何かしらジャッジをされる運命にはある。 

だから、批判であろうと何でもかんでもOKと言っているわけではない。

ただ、大切なポイントとして、決して無知な人に批判されているわけではなく、誰よりも映画を研究し、誰よりも映画を観てきた宇多丸さんの評論である。
それゆえに、映画そのもの以上に評論を期待している人も存在している。そうなった時点で宇多丸さんの勝ちだ。

さらに言ってしまえば、映画評論だって評論されている。評論にだって当然リスクがあり、ヘタな評論をしてしまえばカウンターパンチを受ける可能性は大きい。
ネットに書き込まれる匿名の罵詈雑言とは違い、ライムスター宇多丸を背負って映画と勝負している。

そんなこんなを踏まえて…
評論だって本気で面白くすれば1つのエンターテイメント。
その基盤として確かな知識やクオリティの高さがあればこそ、認めざるをえないというのが私の持論だ。

話をライムスターに戻そう。

格好つけるわけではないが、そもそも私は日本語ラップをほとんど聴いておらず、アメリカのヒップホップ派だった。
それは、ヒップホップ=ブラックカルチャーという固定概念があり、リズム感やフロー、カルチャーもふくめ、日本人には合わないという決めつけがベースにあったのかもしれない。

しかし、そんな私の考えを根本から覆したのがライムスターだった。
リズム感やフローだけでは語れない、言葉遊びの巧みさや日本語の面白さと奥深さを教えてくれたのだ。

当たり前だが日本には日本語があり日本の文化がある。
日本人にしか表現できない"ワビサビ"があり、日本語の美しさを改めて考えるキッカケともなるリリックの面白味。
その下地にあるのはライムスターが持つ知性だ。

例えばONCE AGAINという曲。
曲の全体を通して、負け犬が逆境から這い上がるテーマなのだが、特筆すべきは宇多丸さんヴァースの、この一文。

財産は唯一最初に抱いた動機

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