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Web3 VCはどこに投資しているのか?─30件の投資を振り返る【Emoote(エムート)】

Web3の激動の1年が、また始まろうとしています。

Terra/Luna崩壊、FTX騒動が市場に大きな影響を及ぼした2022年。暗いニュースが目立ちましたが、着々とWeb3のエコシステムは拡大しています。

イーサリアムのマージ、STEPNをはじめとするGameFiやエンタメがより広い地域やユーザー層に拡大。日本でもギャルバースやベリロンなどNFT発IPが生まれるなど、2023年以降にさらなる発展が期待される出来事もいろいろとありました。

私、熊谷祐二がGeneral Partnerを務める、シンガポール拠点のグローバルWeb3ファンド「Emoote(エムート)」も、着実に投資を実行してきました。

「グローバルWeb3ファンドって、どんなところに投資しているの?」と疑問に思われる方も多いと思います。しかしながら、私自身もシンガポール在住なので活動をご紹介する場がほとんどありません。

そこで、今回のnoteは「Web3 VCはどこに投資しているのか?」をお伝えします。その報告を通じて、Web3で起業を考えるみなさんへのヒントとなればと思います。

コンシューマ向けを中心に、30件以上に投資

これまで1年強で、30件以上のWeb3プロジェクトに投資を実行しました(2022年1月15日現在)。「現在も投資を継続してますか?」と国内外でよく聞かれますが、Terra/Luna崩壊やFTX騒動などがあった以降も、変わらず月2件のペースで投資を継続してます。

数年後の次なるウェーブに花開くだろう偉大なプロジェクトに、時期は関係ありません。Web3の未来を信じてるからこそ、変わらないポジションで投資を行うことが大切だと考えています。

コンシューマ向けWeb3プロジェクトを大きく「GameFi」「Entertainment/Media」「Lifestyle」に分けて、「その他Web3」を加えた4つのポートフォリオ比率は下記のとおりです。

グローバルWeb3ファンド「Emoote(エムート)」の投資カテゴリ

なぜコンシューマ向けが中心なのか? その理由は、アカツキのミッションが「Entertain the world. Resonate with creators.(世界をエンターテインする。クリエイターと共振する。)」ことにあるからです。「Web3は、エンタメやクリエイターの創作活動を支援する役割を担う」と信じて、Emoote(エムート)はスタートしました。

このnoteを読まれている方の中には、「アカツキ=ゲーム」の印象を強く持たれている方が多いかもしれません。もちろん、GameFiが一大分野であることは間違いありませんが、Web3のイノベーションはゲームに限らずエンタメやライフスタイルなど他領域へ染み出すはずだという仮説を、私は当初から持っていました。

たとえば、「STEPN(ステップン)」はフィットネス・ヘルスケアという文脈で、投資時は判断しており、GameFi要素を取り入れることで一気にユーザーが広がりました。

「STEPN(ステップン)」App Storeより

では、なぜエンタメやライフスタイル領域なのか? 理由は3つ。

第一に、エンタメやライフスタイルに関わるプロジェクトは、金融のように生活に不可欠なものではありませんが、人生を豊かにします。

第二に、以前のnoteにも少しだけ書きましたが、Axie Infinityのトークノミクスを理解したとき、Web3が創作活動における「お金の流れ(資金調達や収益分配)」や創作に関わる「チーム作り」、そして「クリエイターとファンの関係性」などをアップデートするのに欠かせないものだ、と確信しました。

第三に、Web3のような新たなテクノロジーが登場したときに、マスアダプションにいちばん最初に貢献するのは、ゲームやソーシャル要素を持つコンシューマ向けのキラーアプリケーションだからです。

投資はアジアが中心、北米もカバー

次に、投資エリアについて。下記の円グラフがEmoote(エムート)のポートフォリオの地域比率です。

Web3プロジェクトはリモートでDAO的に動くため、拠点を特定しづらい性質がありますが、代表者が活動する場所からエリアを分類しました。

グローバルWeb3ファンド「Emoote(エムート)」の投資エリア

現在、Emoote(エムート)はシンガポールを拠点として、東南アジア、東アジア、インドをカバーしています。拠点をシンガポールにした理由は、ベトナム発のAxie Infinityやフィリピン発のYield Guild Games(通称: YGG)のように、Web3のコンシューマ向けイノベーションの震源地はアジアになるのではないかと感じたからです。

以下、地域ごとの特性と見通しをまとめます。

東南アジア

東南アジアは、金融インフラが未発達である反面、Web3にはチャンスがあります。ゲームに“稼ぐ”要素を取り入れたPlay-to-Earnが2021年に注目を集めましたが、東南アジアでは「稼げる」ことの価値が(相対的に)高いと感じました。こうした理由から、北米や東アジアでは考えられないような"金融"を武器にしたエンタメ、ライフスタイルプロジェクトが登場するのではないかと予測しており、Emoote(エムート)でもそうしたプロジェクトへ投資していきます。

東アジア

東アジア、特に日本と韓国の「エンタメ × Web3」に注目しています。言うまでもなく、東京とソウルは世界に名だたるエンターテイメントの中心地です。エンタメを生み出すカルチャーは歴史的にみても時間をかけて醸成されるものであり、そこにクリエーターが根づきます。いくらWeb3が一大イノベーションだとしても、他の都市がそうしたカルチャーを数年でひっくり返すことは難しい。裏を返せば、東京やソウルなどすでにカルチャーが根づくところにこそ、あらたなWeb3エンタメの人気プロジェクトが生まれるのではないかと確信しています。Emoote(エムート)としても、そうしたプロジェクトと出会えることを楽しみにしています。

北米(アメリカ・カナダ)

また北米(アメリカ・カナダ)は変化に強く、新たな時代に一気に世界を獲るような革新的なプラットフォームをつくる可能性が高いエリアです。Web3も例外ではありません。ベイエリア(サンフランシスコ・シリコンバレー)は世界最大のテック都市です。ロサンゼルスは世界に誇るエンタメ都市であり、人材が豊富で、話していてレベルの高さを感じます。ニューヨーク、マイアミ、テキサスにも強いコミュニティがあります。Emoote(エムート)としても、アジアとは異なる仮説を持ち、今後も北米のプロジェクトへ継続的に投資します。

シード投資が中心、トークン、エクイティの両方で出資

次に、投資ステージの割合は、下記のとおりです。

グローバルWeb3ファンド「Emoote(エムート)」の投資ステージ

国内、アジア、北米で相場感が異なりますが、トークンラウンドで$20M以下はプレシードのイメージです。ファーストラウンドから$30Mというのも少なくなく、$20-50Mをシードと仮定すると、半分以上がシードでの投資です。また$50-100Mレンジのミドルステージ、トークンでいうプライベートラウンドもカバーしてます。(なお、エクイティとトークンでバリュエーション目安は異なります)

またEmoote(エムート)は設立当初からトークン、エクイティ(株式)の両方に対応しており、実績ベースではトークン出資の方が多いです。

「なぜシード投資なのか?」を深堀りすると、理由は3つあります。

第一に、特にトークンプロジェクトの場合は資金調達ラウンドが少なく、短期でIEO(取引所に新規上場)するケースが目立ちます。つまり、エクイティでいうシリーズB以降が存在せず、ミドル・レイター投資家はチャンスを逃します。Web3領域では、起業家(ビルダー)にいち早く会い、リスクを取って投資することが求められます。

第二に、エクイティにおいても、シードのリード投資家が(特に大型VCの場合)その後もリードを取り、既存投資家でフォローオンし続けるケースがあり、早いステージからステークホルダーであることの重要性が増してます

第三に、ファンドや個人としての嗜好性です。誰よりもリスクを取り、起業家との関係性を深めて、いちばん長い期間支援し続ける。そして喜びも悲しみも分かち合える。そんなシード投資家の醍醐味を味わいたいと思っています。

「STEPNイヤー」で手にしたエントリーチケット

僕らの2022年をひとことで表すなら「STEPNイヤー」でした。その投資を通じて学んだことは、本当にたくさんあります。

STEPNチームとは2022年1月に出会い、即投資決定して、3月にはBinance上場、そして皆さんの知るようになりました。正式ローンチ数ヶ月のアプリが300万MAU、Q利益 $120M、希薄化後時価総額$20B(当時の為替レートで2.5兆円)。とても信じられないようなスピード感です。

出会った当初は名もなきスタートアップがたった数ヶ月で、Web3業界の人はもちろん、一般人にも知られる存在になり、社会現象を巻き起こしました。そんな彼らの活躍を間近で見ることができ、この業界のポテンシャル、そしてトークンの魔力を知りました。

ゲームデザインやトークノミクス、マーケティングやBizdevなど彼らの成長と共に、僕らのチームも多くを学ばせてもらいました。こうした経験を基に、Emoote(エムート)でも2022年後半からコンシューマ向けプロジェクト全般にトークノミクス設計・運用をサポートするようになりました。

また、彼らのおかげで、Web3ビルダーや投資家から「日本のエンタメを軸にしたファンド」という見られ方だけではなく、「STEPNに投資したファンド」として見ていただけるようになりました。グローバルのL1ブロックチェーンから投資家(VC)まで、幅広いネットワークを築けたことで、投資先の資金調達はもちろん、事業開発、マーケティング・広報、採用などもサポートできるようになりました。

2023年以降もグローバル投資で攻めるための"エントリーチケット"を手にできた1年だったと思います。

一方で、STEPNをはじめとするGameFiは持続可能性の低さから「ポンジスキーム」と揶揄されることがあります。僕も海外カンファレンスに参加すると、一部の参加者からは「STEPNってポンジでしょ?」と批判されることが何度かありました。

2022年の思い出の1つですが、アメリカのカンファレンスでたまたま出会った東南アジア出身のある起業家とこの話題について1時間以上激論を交わし、最終的に分かり合えなかったことがありました。ただ、個人的にはすごく良い時間だったと思います。あらゆる人々が意見をぶつけ合い、それぞれの思想や思いをプロダクトやコミュニティに落とし込んで証明していく。そんな時代の黎明期にいるのだと感じることができ、あらためてWeb3の可能性にワクワクしました。

「Consensus 2022」会場の様子

課題こそあれど、STEPNチームが与えた影響は大きく、僕もとても尊敬してます。フィットネスアプリ後も、DEX(分散型取引所)、NFTマーケットプレイスをローンチしました。2023年以降も、STEPNチーム、エコシステムの未来を楽しみにしています。

海外移住でWeb3を体験

個人的にはシンガポールに拠点を移し、現地はもちろん、アジアを中心に世界中でネットワーキングできたことはとても良いチャレンジでした。東南アジアへのアクセスが良く、また在住の投資家も多いので、シンガポールは起業家や投資家がネットワーキングするには最適な都市の1つだと思います。

2022年は、アメリカ、日本、韓国、イギリス(ロンドン)、ポルトガル(リスボン)、UAE(ドバイ)、フィリピン、ベトナム、インドに行きました。それぞれ異なる都市のカルチャーが存在する一方で、行く先々で参加しているイベントなどで同じ人と出会えるなど、Web3プロジェクトに関わる人はみんなグローバルでつながっています。ローカル・カルチャーがありながら、共通の話題を持つ人がたくさんいる、というWeb3の魅力を体験することができた1年でした。

(詳細は割愛しますが)他都市への更なる移転も検討しましたが、やはりシンガポールに身を置き続けることを決意しました。

「海外移住したほうがいいでしょうか?」など、よく相談を受けますが、十人いれば十通りのやり方があります。以下の連続ツイートに海外移住する際のポイントをまとめていますので、気になる方はご参照ください。

2023年は「Time to Build」

2023年以降の見通しについて。市況が回復するかは不透明であり、しばらくは重い空気が漂うかもしれません。巨大プロジェクトが倒産したり、トークン価格が低調だったり、マクロが不安定だったりと不安が続くでしょう。

でも、そんな時こそTime to Build。信じて行動し続けた者にチャンスが訪れます。幸いにも、投資家による大量の投資マネーの流入をきっかけに、インフラが強化され、優秀な人材が流入するなど、Web3のエコシステムは着実に成長してます。

Emooteは設立時に、アカツキ経営チームとあらゆるケースについて話しました。そのときに、たとえ市場が大きく下落するタイミングが訪れたとしても、Web3に対する基本的な「仮説」が変わらない限りは投資を継続しようと合意しています。

楽観も悲観もしないこと。自分たちのペースで投資を継続すること。いずれもシンプルですがとても難しく、しかしながら投資家にとっては重要なことだと思います。これまでも毎月2件のペースで30件超の投資してきましたが、変わらないスタンスで投資を実行していきます。

日本のWeb3プロジェクトに、大きなチャンスがある

最後に、日本のWeb3プロジェクトは、今後どうなるのかについて。

あらゆる理由から、Web3において日本がビハインドしてきたのは間違いな
い事実だと思います。一方で、法律、税務は関係者の皆さんの前向きな議論により、一歩ずつ着実に前進しています。日本国内のIEO(Initial Exchange Offering)に取り組む事例も、以前より多く耳にするようになりました。

Web3先進国(プロジェクト)は先行投資をしてきたことで、2022年に大きな損失を被りました。そうした国々が後ろ向きになっている2023年の今こそ、日本が世界に追いつき、追い越す大きなチャンスです。

日本の強みは、3つあります。1つ目は、先ほどエリア特性で挙げたような都市に根づくクリエーターが生み出す新たなエンタメです。2 つ目は、エンタメの消費(課金)意欲の高い日本人を相手に磨かれてきた高度な技術力です。3つ目は、Web3での”消費”にまわるお金が大きいという意味での市場規模です。

こうした強みがWeb3で活かされるのは、まさにこれからです。2023年は、間違いなく「日本人が」「日本語で」「日本市場向けに」展開するWeb3プロジェクトが一気に増えます。

僕らは、これまでグローバルに投資・支援してきたノウハウやネットワークがあり、そしてアカツキで国内外にエンタメ・メディアサービスを開発・運営してきた知見があります。それらを存分に活用して、Emoote(エムート)は日本プロジェクトを盛り上げていきます。

1-2年ではなく、5-10年後、もっともっとその先にあるWeb3の未来を信じて、今日も新たなビルダーに出会えることを楽しみにしてます!

これからWeb3プロジェクトをスタートする、または資金調達を考えている方がいらっしゃれば、下記のTwitterまでお気軽にDMください。

最新のWeb3投資事例、トークノミクス考察、海外Web3イベント情報、シンガポール事情などをツイートしてますので、よければTwitterフォローください m(_ _)m

Emoote(エムート)Website
https://emoote.com/


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