日本がWeb3で勝つ理由
Web3の世界的なムーブメントは、「暗号資産(トークン)」相場の乱高下にもかかわらず、とどまることを知りません。
データ会社CoinMarketCapによれば、世界でトークンは1兆6,000億ドル(約210兆円)の価値を生み出しています。Web3のエコシステム(生態系)を支える代表的なプロトコル「Ethereum(イーサリアム)」のユニークアドレス数は約2億に迫るまでとなり、その伸びは止まることなく順調に増加しています。
日本はどうでしょうか? 暗号資産に対する規制や、市場を取り巻くさまざまな制約のなかで、残念ながら欧米やアジアに比べると大きくビハインドしていると言わざるを得ないのが現状です。
しかし、タイトルのとおり日本には大きなチャンスがあると思います。本noteでは、その理由を解説します。Web3にチャレンジする皆さんにとって、少しでも私の知見が役立つとうれしいです。
「トークノミクス」こそがWeb3の革命
Web3は、バーチャル世界を中心にまわるボーダレスな経済圏であり、ブロックチェーンを基盤として生まれた重要な概念が「トークン」です。そして、トークンが形づくる経済圏「トークノミクス(Tokenomics)」こそがWeb3の革命です。
トークンは主に「ファンジブルトークン(Fungible Token)」と「ノンファンジブルトークン(Non Fungible Token、通称: NFT)」の2種類に分けられます。
さらにファンジブルトークンには、通貨的な役割を担う「ペイメントトークン(Payment Token)」または「ユーティリティトークン(Utility Token)」、そして証券的な役割を担う「ガバナンストークン(Governance Token)」があります。
2021年に世界を席巻したNFTゲーム「Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)」の革命は、この3つのトークンのバランスをうまく取り、グローバルにトークンが形成する経済圏「トークノミクス」をつくったことです。下図のような三角形をトークンによる「価値」の三権分立と私は呼んでいます。
特に、日本に大きなチャンスがあると私が考えているゲーム・ライフスタイルのアプリなどのDapps(Decentralized applications:分散型アプリケーション、ダップス)レイヤーでは、ユーザーを巻き込むための三角形のトークノミクスこそが核心だと考えています。
Play to Earnゲームに見る「トークノミクスの課題」
Play to Earn(P2E:ゲームして稼ぐ)のNFTゲームプロジェクトを例にして解説しましょう。P2Eゲームのトークノミクスを図にしたものがこちらです。
まずユーザーはゲーム内で使用するNFTを購入して(Buy NFTs)、プレイをスタートします。そのNFTを使ってゲームプレイをすることで、ゲーム内トークン(ユーティリティトークン)を獲得します(Manage NFTs)。
そうして獲得したゲーム内トークンを使って、さらにNFTのレベルを上げたり、強くしたりすることで、より多くのゲーム内トークンを獲得できるようになります(Upgrade NFTs)。
また経済圏内にはユーザー間でNFTを取引するマーケットプレイスがあり、そこでの取引手数料がWeb3プロジェクトの収益となる仕組みです(Trade NFTs)。
ご覧いただければ一目瞭然ですが、P2Eゲームの経済圏に外貨が入ってくる入り口は「新規ユーザーの増加(Buy NFTs)」と「投資家のトークン購入(Buy Tokens)」の2つしかありません。
たとえば、NFTゲーム「Axie Infinity」では、プレイするには最初に3体のAxieキャラクターのNFTを購入します。新規ユーザーの増加が、外貨獲得につながります。そして、プレイヤーが増え続ければ経済圏が膨み、経済成長する=トークン価格の上昇が見込まれるので、投資家を呼び込むことができるのです。
一方で、既存ユーザーはどうでしょうか。NFTを使ってゲームプレイをすることで、ゲーム内トークンを獲得(Manage NFTs)し、その獲得したトークンでさらにキャラクターを強くしたりすることで、より多くのゲーム内トークンを獲得できるようにする(Upgrade NFTs)。
このように、既存ユーザーがManageとUpgradeを繰り返すことにより、ゲーム内トークンがぐるぐると循環しています。つまり、トークンやNFTの価値がインフレを続けることで経済圏が維持される仕組みです。
つまり、P2Eゲームの経済圏は、新規ユーザー/投資家が増え続ける(人口増加)限りにおいては、拡大と成長を続けることになります。しかし、裏を返せば、ひとたび新規ユーザー/投資家の増加に陰りが見えるとP2Eの経済は崩れるという課題をあわせ持っているのです。
P2Eゲームの経済圏にとって最も怖いのは、「離脱したユーザーがトークンを売却する→トークン価格が下がる→さらにユーザーが離脱する」という負の連鎖です。トークンの大量売却は、トークノミクスの破綻を招きます。
これは現実世界の経済とまったく同じです。日本円を大量に刷り続けたのに、消費や投資に繋がらなければ、いずれは経済が破綻します。
私が立ち上げたファンド「Emoote」のチームは、こうしたトークノミクスの罠にハマってしまったWeb3プロジェクトを数多く観察してきました。「いまは”X to Earn”がトレンドだから、○○ to Earnに乗っかろう」と安易にプロジェクトを始めることに、私は少し違和感を持ちます。
Web3のポイントは単なるスタートアップにとっての事業トレンドや、資金調達のチャンスという側面だけではありません。もちろん「新たなトレンドだ」「チャンスだ」とすぐに動くこともとても大事だと思いますが、Web3はトークノミクスによる革命です。
「お金を稼ぎたい」というユーザー/投資家の欲望を叶えるためのトークノミクスを、私は「機能的な経済(Functional Ecomomy)」と呼んでいます。その意味するところは、P2EゲームのようなDapps(分散型アプリケーション)のトークノミクスは”稼げる”機能だけでは持続可能なものになりえない、ということです。
では、どうしたらいいのでしょうか?
ユーザーがトークンを売却する「売却圧力」を弱めることです。方法は2つしかありません。トークンを保有し続けてもらうか、トークンを消費してもらうか、です。
「感情価値」が実現する”持続可能なトークノミクス”
そうしたトークノミクスの課題を解決する具体的な仕組みが次の図です。
「NFTを集めたくなる(Collect NFTs)」と「NFTを消費したくなる(Burn NFTs)」という2つの具体的な解決方法を、私たちEmooteは提示しています。
「NFTを集めたくなる(Collect NFTs)」というのは、可愛いキャラクターのカードゲームやお菓子の付録に付いたシールやカード収集に熱中した世代ならば、すぐに理解できるはずです。つまり、稼げる稼げないは関係なく、NFTをコレクション(収集)したくなるユーザーが多ければ多いほど経済は大きくなります。NFTを手元に持っておきたくなるほど、感情的な愛着を持たせることができるかどうかがカギとなるのです。
「NFTを消費したくなる(Burn NFTs)」というのは、たとえばアイドルやVtuberへのギフティング(投げ銭)です。”推し”を持つみなさんならば、今この瞬間、自分の”推し”のためにギフティングしたくなる気持ちは、すぐに理解できるはずです。なお投げ銭はファンジブルトークンでもNFTでも可能ですが、より大きな可能性をNFTに感じています。
このように「楽しい/大好き > お金を稼ぎたい」などの感情(情緒的)価値を”かけ算”するようなトークノミクスを、私は「感情的な経済(Emotional Economy)と呼んでいます。
なぜ、このアプローチが重要なのでしょうか?
当初は「稼ぎたい」という外的動機(Extrinsic Motivation)で入ってきたユーザーが、いつのまにかファンへと変わり、”楽しい””好き”や”推したい”といった感情を抱くようになる。そこには内的動機(Intrinsic Motivation)が存在します。これをグラフのイメージにすると次のようになります。
NFTを集めたくなる/消費したくなるということが、Web3プロジェクトのトークノミクスを健全に発展させるためのカギになる。
NFTゲーム「Axie Infinity」をはじめ、世界中のプロジェクトで"持続可能なトークノミクス"をつくるべく、現在もWeb3ビルダーたちが奮闘しています。
日本がWeb3で勝つ理由
いよいよ本題です。なぜ日本がWeb3で勝てるのか? 理由は2つ。
第一に、日本のユーザーは「稼げる」Dapps(分散型アプリケーション)に貪欲です。
私達Emooteの投資先に、「Move to Earn(歩いて稼ぐ)」がテーマの「STEPN(ステップン)」というライフスタイル・アプリがあります。
STEPNは2022年に入ってから急成長を見せており、そのトークノミクスを牽引しているのは、実は日本のユーザーです。STEPNの共同創業者であるヨーン・ロン(Yawn Rong)とディスカッションしたときに、彼は「なぜ日本人のユーザーが多いのか、私たちも不思議だ」と言っていました。
「オーナーシップエコノミー」とも呼ばれるWeb3プロジェクトにおいて、最も大切なのはコミュニティです。
Web3 Dapps(分散型アプリケーション)のトークノミクスに、日本人は優良ユーザーとして貢献してくれる。世界のWeb3プロジェクトから、そうした信頼を勝ち得ることができたならば、日本の見方は大きく変わるのではないでしょうか。
P2EのNFTゲーム「Axie Infinity」の開発拠点はベトナムです。M2Eのライフスタイルアプリ「STEPN」はオーストラリアです。米国シリコンバレーが震源地となったWeb2までの世界と、Web3のエコシステムはまったく異なります。ここにチャンスがあるはずです。
第二に、世界で人気のキャラクター/IP、メディアを生んだ国、それが日本です。
日本には、世界のトップグループで戦っているゲーム企業がいくつも存在します。ガラケーのソーシャルゲームから始まり、スマホゲームなどでエンタメ・ゲーム企業が培ってきたレベルデザイン、パラメータ設計・調整、イベント運用などのノウハウは、きっと広くGameFiやNFTのWeb3プロジェクトに活かされるはずです。
ユーザーとしても、私たちはガラケー時代からスマホのさまざまなアプリを楽しんできました。消費者としてもモバイルリテラシーが高いのは間違いありません。
また、私がWeb3において大事だと思う要素に、「コミュニティ」と「カルチャー(文化)」の2つがあります。
「コミュニティ」は、先ほど述べたような稼げるDappsに貪欲なユーザーだけではなく、もともとゲームやアニメ、アイドルやアーティストなどを”推す”ファンコミュニティが多く存在します。日本企業にこうしたファンダムを構築・運営するノウハウがあるのはもちろん、ファンとしてもWeb3プロジェクトに貢献する人がたくさん出てくるのではないでしょうか。
こうしたオタクという言葉に代表されるファンダムの存在こそが、欧米とは異なる「カルチャー」です。コミュニティに根ざしたトークノミクスを運営するには、そのプロジェクトを活性化するような一つのカルチャーが必要だと私は考えています。ましてや時代がメタバースに向かうほど、そうしたユーザー・ファン同士の交流が価値となっていくでしょう。
私はWeb3に貢献したいと考えるファンドの一人として、これまで世界中のWeb3ビルダーたちと議論してきました。そのなかで、ここまで書いてきたような「日本だから」という地の利が活きる可能性を感じてきました。
もちろん、タイトルに書いた「日本がWeb3で勝つ」というのは、一つの比喩です。そもそも、Web3は最初からグローバルに開かれた世界です。勝った・負けたよりも、プロジェクト同士が補完し合うレゴブロックのようなコンポーザビリティが求められます。そのなかで、日本人だと足元にありすぎて気づかないような価値を、Web3の世界ならば活かすことができるはずだ、ということが私の伝えたかったことです。
コミュニティ、クリエティビティ、運営ノウハウ、カルチャー、ファンダム──こうした要素が「感情的な経済(Emotional Economy)」をつくるための大きなアドバンテージになる。私はそう信じています。
だからこそ、私たちEmooteは日本のクリエーター、ビルダーの皆さんと一緒にWeb3を前進させたい。新たなエンターテイメントやメディアを創りたい。そして、グローバル市場で共創したい、と考えています。
最後に
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。欧米やアジアに比べると大きくビハインドしている、と冒頭では書きましたが、Web3は、まだアーリーステージです。ものすごいスピードでWeb3の世界は進化していますが、それでも「まだ始まったばかり」です。
グローバルな視座でキャッチアップ・ネットワーキングしていくことで、まだまだ世界をリードできる可能性は絶対にあります。日本のクリエティビティ(創造力)/センシビリティ(感性)を持って、グローバルWeb3の市場で勝負しましょう。
Web3ファンドの一員として、お役に立てることもあるかと思います。クリエーター・ビルダー・スタートアップ・パブリッシャーのみなさま。もし何か私にできることがあれば、ぜひご連絡ください。
最後の最後に、ご案内です。
そうはいっても「Web3の基礎知識が足りない…」と思われる方も多いはず。そこで、エンターテイメント・メディア・ライフスタイルなどをテーマに、Web3ビルダーを目指す方々に向けた連続勉強会「Booost!!」をスタートします。
Yawn Rong(Co-Founder of STEPN)、Yat Siu(Chairman of Animoca Brands)など海外からWeb3のキーパーソンを、国内からはエンターテイメント・メディア企業からゲストを招きます。私たちEmooteのチームも、日々のリサーチや海外投資に関する知見を惜しみなく提供させていただきます。
みなさまからのご応募をお待ちしています。
Booost!! | Emoote主催Web3勉強会https://booost.emoote.com/ (2022年終了)
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