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<ラグビー>ラグビーの愉しみ(その8)

ブレイクダウンでの戦い
 ブレイクダウンという言葉は、ラグビーらしいものの一つだ。ブレイクダウンはセットプレーではないので、確実に発生が予測できるものではないが、ラグビーのプレー中には必ずかつ最も多く発生する。従って、ブレイクダウンを有利に戦ったチームは、ほぼ確実に勝利を得られる。


 では、ブレイクダウンとは何かといえば、その典型例を説明したい。アタック側がボールを運んだ後にディフェンス側がタックルをする。そして、タックルが成立した後、どちらかのチームの選手が「3番目」としてこのタックル後のプレーに参加(倒れている選手をまたぐ姿勢を)する。そうするとラックが成立する。ラックでは、ラックに参加した一番遠い選手の踵のラインがオフサイドとなるが、そのオフサイドの外から(オンサイド)の位置から参加した選手は、手でボールを扱ってよいが、そうでない選手は手を使えずに足でボールを扱わねばならない。


 しかし、ラック成立直前に参加した3番目の(倒れている選手をまたがない)選手や、タックル後ただちに立ち上がったタックルした選手は、倒れている選手からボールをもぎ取るプレーができる。これがジャッカルと言われるもので、アタック側はディフェンス側にジャッカルをさせまいとして、ラックに巻き込みかつ相手側にスクラムのように押し込もうとする。


 ディフェンス側は、ジャッカルを試みた後は、アタック側が速いボール出しができないように、ラックを押し込む、さらに、できれば相手側にめくり上げることによって、マイボールにしようとする。
 以上が、典型的なブレイクダウンのプレーだ。


 ブレイクダウンのスクラムやモールとは異なった、地面にボールとともに寝ている選手を挟んだ激しい攻防は、まさにラグビーっぽさを実感するものと言える。


 激しい当たりは禁止されているが、スクラムやモール同様に、両チームの選手ともに低い姿勢でパックを組んで押し合うことはできる。その前の状況では、タックル成立後素早く駆け寄ってジャッカルを試みることもできるし、そうはさせじとジャッカルに来た選手を排除するために、当たって押し込むこともできる。


 これは、観ている方よりもやっている方がその激しさや荒々しさを何倍も実感するプレーであり、「ラグビーやっているなあ」という感慨に浸れるプレーでもある。オールブラックスのLOブラッド・ソーンは、リーグラグビーでも活躍した選手だが、最後はユニオンを選んだ。その理由として、スクラムを組むのが楽しかったし、このブレイクダウンで当たり合うことが好きだったと述べている。リーグでは激しいタックルはあるものの、ブレイクダウンはなく、スクラムもただ組むだけだ。ソーンが、ラグビーを真に好きだと言う気持ちが良くわかる気がする。

キックする
 ラグビーは、もともとサッカーと同根の原始フットボールから進化したため、キックが重要なプレーの一つになっている。試合開始や試合再開は、昔はプレースキック、今はドロップキックでキックオフするし、得点も反則によるペナルティートライや通常のトライ以外は、PG(ペナルティーゴール、3点)、DG(ドロップゴール、3点)、トライの後のコンバージョン(2点)に限定されている。

 しかし、ラグビーは、ボールを持って走ること、パスすること、タックルすることであると考えれば、キックはラグビーっぽくない要素ではないかと思えてしまう。


 しかし、戦術的には、陣地を取るキック、パスのように使うキック、相手ディフェンスを攪乱するハイパントやボックスキックなど、FWも含めた15人全員が自由に屈指できるわけではないが、9~15番のBKは皆こうしたキックを練習し、特に9,10,15番にはこの名手が多くいる。


 また、キックは目立つプレーでもあるので、キッカーはスターになりやすい。イングランドのジョニー・ウィルキンソンは、ただキックが上手いだけでスターになった選手と言える。ただし、オールブラックスのダニエル・カーターのように、キック以外にも万能な選手も沢山いる。


 そうはいっても、私はキックが好きではない。良いラグビーとは、キックの少ないパスの多いゲームだと思っている。

キックをキャッチする
 私がキックを嫌いな理由は、自分が上手く蹴れないことが関係しているが、もっと難しいのが、キックをキャッチすることだ。ラグビーボールは長円形なので、地面で不規則に弾んでいるのをキャッチするのが難しいのは、誰でも容易に理解できるだろうが、これがハイパントとなると、軽いラグビーボールは風の影響を受けやすいため、自分がキャッチできるところに来るまでに、方向が不規則に変わる。さらに、その長円形がぐらぐらと回転しながら落ちてくる場合があり(実は、キッカーの多くは、そうやってわざとキックしているのだが)、キャッチするための目測を合わせるのが難しくなる。


 キックをうまくキャッチするためには、両手を空中に伸ばしてボールごと自分の胸に引き寄せるようにして落下の衝撃を弱め、かつ両手を籠のようにして弾むボールを手と胸の間に抱えこむようにする。しかし、初心者は、特に両手を空中に伸ばすことと籠を作ることをしないため、ボールを胸に当てて弾ませてしまい、ノッコンとなる場合が多い。


  さらに、相手と競り合うことを考えれば、地面で踏ん張ってキャッチするのではなく、相手よりも先にキャッチするために、ジャンプしなくてはならない。また、ボールキャッチを同時にタックルされることが多いため、これを避けることを目的として、わざとボール落下地点とは異なる場所でボールを待つ姿勢を取り、キャッチする直前に正しい落下地点に移動するというスキルもある。これはもう、専門に練習した運動神経の良いスポーツ選手にしかできない高度なテクニックではないかと思う。


 ただし、素人が低い軌道で蹴ったボールは比較的取りやすいため、仲間同士でキックしあうのは楽しいものだ。さらに、キックキャッチした後に、前に走って相手をディフェンスに見立てて抜きに行くのは、キック&キャッチ&ラン&ディフェンスの練習になって良いと思う。ボール一つと空き地があればできるので、是非友達同士でやってみることをお勧めする。

試合前と試合後
 ラグビーに限らず、勝負事の試合前と試合後の心境は、全く異なるものだ。試合前は怖さや希望があり、試合後は安心または失望があるだろう。それはまた、試験前と試験後と言い換えてもいいかも知れない。


 当然、試合前までは準備をする。試合内容を想定した練習をし、また個人で足りないスキルがあれば、それを鍛錬する。少し上のレベルになれば、相手チームを分析して、それへの対策を練るだろう。怪我人がいれば、試合までに間に合わせようと必死に治療するだろう。マネージメントは、相手チームと自チームの試合用ジャージが被らないように調整するし、当日の食事から移動手段までいろいろと手配を整える。


 選手は、試合当日は気持ちを落ち着かせるために、音楽を聴く者もいれば、毎回行うおまじないのような習慣(スパイクを磨く、特定の食べ物を食べる、手紙を書くなど)を行う。そこには、未知の出来事に対する不安と期待がない混ざった複雑なものがある。


 そして、時間がくれば試合は始まり、80分間は意外と早く過ぎてしまう。


 試合が終われば、すぐに次の試合への準備が始まるが、そのためにも、試合の反省が行われる。怪我をした者は治療し、良いプレーをした者は次もできるようにイメージを焼き付け、良くないプレーをした者は次にミスをしないように悪い点をチェックする。


 そこには、試合が終わった安心感とともに、また新たに始まる次の試合に備えた休むことのない繰り返しがある。これが最後に終わるのは、選手生活を終えるときだろう。


 それは、一種人生に似ている。あるイベントの準備をして、それが終わってホッとしても、休む時間は一瞬で、すぐに次のイベントが待っている。生きているとはこういうことなのかも知れないと、ふと思ったりする。

試合までの準備
 既に、試合前のところで述べたが、80分間だけが試合ではない。準備を含めてこそ試合となる。準備のない試合は試合となりえない。もちろん、素人の遊びでは準備などしないだろうが、それでも、試合会場やジャージなどの準備はある。


 つまりは、遠足のようなものだ。遠足(旅行)が決まったら、そのための、服装、食事(おやつ)、靴、薬、交通費、携帯電話とバッテリー、雨具、地図やガイドブックなど、いろいろと準備をする。そして、遠足する先の情景を思い描いて、どんな楽しいことが待っているかとワクワクしながら、荷物を揃えたりする。


 ラグビーの試合は、これに似ている。ただ、試合をするだけでは、ラグビーの楽しさを十分に味わっているとは言えない。準備の段階から、いろいろと実際の試合を想像しながら、もちろん試合のための練習を中心にいろいろとやっていくことが、ラグビーの試合を100%楽しめることになるのではないだろうか。

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