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<閑話休題>ブカレストの最後の日

 まだこちらの時間で8:30。本当は、夜寝る前に「最後の夜」という表題で書こうと思っていたが、たぶん酔っぱらっているので、今書くことにした。

 2019年9月にブカレストに来てから、約2年半が過ぎた。最初のうちは良かったが、2020年2月からは新型コロナウイルスに翻弄され、3ヶ月程度で終わると思っていたら、いろいろな規制措置が昨日まで続くなど、大半の期間を自粛や感染予防に追われて過ごすことになった。

 それでも、昨年の夏は一時的に規制が緩和されたこともあり、ルーマニアの地方や黒海沿岸へ旅行に行けたことは、数少ない楽しいことの一つだった。また、コロナが始まる前には、スペインのマガラやフランスのニースに旅行できたことも良かった。

 ブカレスト市内も、こちらに来てすぐの時期に博物館や美術館を見たほか、オペラやバレエも鑑賞できたのは楽しい思い出だ。何よりも、ヨーロッパスタイルの劇場のゴンドラ席を経験できたことは、一番楽しい思い出になっている。

 ルーマニア人は、中には共産主義時代の名残を維持している怖い不親切なおばちゃんもいたが、総じて朗らかで親しみやすい人が多かった。ジプシーの花売りたちは評判悪かったけど、妻が良く買っていた花屋のおばちゃんは良い人で、先日妻が自分たちはもうすぐルーマニアを去るといったら、小さな花束をくれたそうだ。

 またルーマニア人は、ゲルマン、ケルト、スラブ、アジア、アラブの人たちが長い時間をかけて混血しているので、美男美女が多い。世界的にも美人国として名を知られている。個人的にはシリア人が一番美人だと思うが、この辺りは個人の好みによって違ってくるだろう。

 ルーマニアを去る直前に、予想していなかったロシアのウクライナ侵攻が全土にわたって始まってしまった。その影響で、ウクライナからの難民がルーマニアにも来ている。ルーマニア政府は、EUとして難民対策に必死になっている。特別豊かな国ではないのに、よく頑張っていると感心する。なお、ルーマニアに来たウクライナ人の半分くらいは、ルーマニアは中継地点にしていて、他の国へ旅立っている。

 社会情勢ばかり書いてしまった。本当は、定年退職を迎え、日本へ戻る前の、海外での最後の夜の気分を書こうと思っていたのだが、朝ということもあり、そうした気分にならない。

 定年を迎える気持ちは、これまでに何度か書いている。そして、今はそうした気分よりも、無事に日本に帰らねばという気持ちが強い。無事に自宅に着くまでが、旅であり、私と妻の課せられて大事な任務でもある。日本には、息子をはじめ、私たちを待ってくれている人たちがいる。そうした人たちに早く元気な姿を見せたいと思う。

 もちろん、高見順のように「駅前の塩っ辛いラーメン」を食べたくなる気持ちもある。今は、ファストフードであっても、私達には楽しい日本食になる。こうした「ハネムーン期間」は2週間もすると終わるのだが、その時はルーマニアや海外の食事が懐かしくなるのだろうか。そう思わないためにも、今晩はホテルにあるアラブ風レストランで、ルーマニア料理を食べる予定でいる。もちろん、美味しいルーマニアビールとルーマニアワインとともに。

 しかし、やはりウクライナだ。一刻も早く戦争は終わってほしい。平和であることは、本当にかけがえなのないことだと実感している。昨日別れの挨拶をしたルーマニア人の中には、ルーマニアが戦争に巻き込まれることを心配していた。私はそうならないと確信しているが、これまで多くの争乱を生き抜いてきた人たちは、肌感覚で何か感じているのかも知れない。そうしたことが杞憂に終わることを強く願っている。

 ルーマニアも、ヨーロッパも、そして世界も、皆平和で幸福に暮らせるようになってほしい、と偉そうに言わせていただく。通算25年の海外生活で実感したのは、まさに「平和に暮らす」ことの大切さだったから。

 さようなら、ルーマニア。これからもずっと、明るく活気あふれる国として、発展することを祈っています。

 

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