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<ラグビー>ラグビーの愉しみ(その2)

ラインアウト
 スクラムと並ぶFWのセットプレーは、ラインアウトだ。ボールがキックなどで、タッチラインの外に出た後に、プレーを再開するために行うものだが、今は、両チームのオフサイドラインが10mずつの計20m離れているので、特にアタックする側には、目の前に20mの自由に動けるスペースができるため、どのチームもトライにつながるポイントになっている。


 このラインアウトは、だいたいHOがボールを投げ入れる(昔は、SHスクラムハーフ、WTBウィング、FLフランカーなどが投げる場合があった)が、これをジャンプ(今は味方選手によってリフティング=持ち上げられている)してボールをキャッチするのは、身長の高いLOかNO.8(ナンバーエイト)になっている。さらに、世界のトップレベルでは、FLに長身選手を入れることでキャッチする選手の選択肢(投げ入れるHOにとっては、ターゲット)が増えている。


 このラインアウトは、ちょっと前まで私も良く分かっていなかったのだが、マイボール(投げ入れる側)が、どのタイミングで誰に投げるかのサインは、投げるHOではなくて、ターゲットになるLOの一人が、相手チームの状態を見ながら出している。つまり、例えば4番LOが自分でターゲットになると判断し、いくつか数えた後のタイミングで速いボールを投げて欲しい場合は、まず4番がジャンプして、それに合わせてHOがボールを投げ入れるのだ。


 これは傍目から見ていると、HOがボールを投げて、それに対してLOがジャンプして取っているように見えるが、実は逆なのだ。しかし、昔、WTBなどが投げ入れていた時代は、今と違ってリフティングが禁止され、かつ両チームの選手がもっと近い位置に並んでいたので(今は1mの間隔を空ける)、スロワーは適当なタイミングで、しかも山なりのボールを投げていた。そして、それを両チームの選手が競り合っていたので、マイボールであっても相手に取られる可能性がかなりあった。今は、リフティングもありマイボールを失うことは少なくなっている。


 このラインアウトの愉しさは、やはりターゲットとなる主に両チームの巨人LOの空中戦だと思う。ここは、単純に背の高い人が圧倒的に有利な世界だが、それを無用化するようなサインプレーやスロワーのミス、そしてキャッチした後のFWのサポートなど、結構複雑な要素が絡んでくるので、最後は観察力と頭脳の良さが勝負を分けるようだ。

モール
 モールはFW(フォワード、1~8番)が多く使うプレーだが、場合によってはBK(バックス、9~15番)が参加することもある。


 モールはタックル成立後に偶然に出来ることもあるが、その場合はパイルアップになってボールを持ち込んでいない側(ディフェンス側)ボールのスクラムで再開されることが大半だ。


 一方、アタック側がアタックの手段としてモールを故意に作るときは、ラインアウトからのものが多い。ラインアウトでマイボールをキャッチした後、キャッチした選手は後ろの選手にボールを渡す。左右の選手は、ボールキャリーする選手の周囲にくさびを打ち込むように壁を作って、一塊となって前進する。


 この時相手側選手がモールに入っていないとオブストラクションまたはトラック&トレーナーの反則になってしまうので、ディフェンス側の選手をできるだけ多く巻き込むことが重要だ。


 そして、ボールは縦に長くなったモール最後尾の選手がキープする。最後尾の選手や先頭に立って味方の方を向いている選手、さらにモールに参加している選手は、周囲の状況が良く見えていないから、一番近くにいるSHが声を出して指示する。「押せ!」、「右!」、「左!」と指示する。もしもレフェリーが「ワンストップ」と声を掛けたら、2回目にモールが止まった時に相手ボールのスクラムになってしまうので、SHは、他のBKからの声を確認しつつモールからボールを出す(パスをする)タイミングを計る。


 このモールのプレーは、FWとしてはスクラムと同じようなものだが、背番号によって役割が決まっている割合は少ない。ただし、先頭に立つのはLOが多く、最後尾でボールを持つのはHOかFLが多い。PRはだいたい押しに徹する役割となっている。


 正直、これは見ていてあまり面白いプレーではない。また、やっている側はスクラム同様に大変だが、組む時の駆け引きはスクラム程はない。押しているときの方向やモールに入りなおすスキルもあるのだが、プレーの大変さの割には面白みが少ないプレーだと思う。ただし、ボールを失う可能性が低いので、ゴール前のアタックとしては有効なものだろう。特に競った試合では勝敗を決めるプレーになったりもする。
 しかし、私はあまり好きでないプレーだと正直に書かせてもらう。

ラック
 ラックは、ルースボールの奪い合いでも成立するが、多く成立するのはタックルの後だ。ボールキャリアーがタックルを受けて倒れる。同時にタックラーも倒れる。ラグビーは、そこからボールキャリアーはすぐにボールを離し、またタックラーはすぐにタックルを止め、2人ともに直ちに立ち上がってプレーしなければならない。


 しかし、実際にはそんなすぐに立ち上がってプレーすることはできないので、倒れたボールキャリアーと倒したタックラーの上に、両チームの選手が参加して、スクラムのように押し合う状態になる。スクラムと同様だから、ラックの中で手を使うことはできないが、スクラム同様に最後尾の選手(スクラムならNO.8)やSHは、ラックからボールを手で持ち出すことができる。


 また、ラックが成立する直前に、すぐに立ち上がったタックラーや、すぐにサポートにやってきたディフェンス側の選手が、倒された選手からボールを奪い取ることができる。このプレーを得意としたオーストラリア・ワラビーズのFLジョージ・スミスの名前から、ジャッカルと名付けられたプレーだが、オールブラックスの伝説的なキャプテンで、7番FL(オープンサイドFL)だったリッチー・マコウも得意にしていた。


 このプレーが決まると、一瞬にして攻守が逆転し、アタック側は急にディフェンスに切り替え(トランジション)ができないので、ジャッカルに成功したチームは非常に有利なアタックをできることになり、トライに繋がる場合も多い。
 しかし、試合中に常にジャッカルが成功するわけではなく、名手と言われる選手であっても、1試合に3~4回成功すれば上出来だ。だから、ラックでの戦いは、常にスクラムのように両チームの選手の押し合いが中心となる。


 モール同様に、ラックでは背番号に関係なく選手が参加してくる他、BKの選手にもFWのようなプレーを要求している。これは何よりもアタック側としてはボールキープするためであるし、ディフェンス側としてはボールが出るのを少しでも遅らせることによって、ディフェンスラインを整える時間を稼ぐためだ。そのため、ラックで場合によってはスクラム以上に激しくぶつかり合うことがあり、怪我が発生することも多い。また、激しく当たることで危険なプレーとして反則を取られる場合がある。


 スクラムから展開した時のラックでは、1~3番と6~8番の順番が交互になるのが面白い。6~8番はスクラムの最後尾だから、次のポイントには真っ先に参加できる。BK同士がタックルをした場合、最初にラックに参加するのは6~8番だ。そして、そのポイントから次のタックルが起きて別のポイントができた場合、今度は最初のポイントに遅れて参加した1~3番がラックに最初に入る選手となる。だから、1~8番はスクラムでは役割が違うが、フィールドプレーでは実は差がないのだ。


 そして、現在のポッドという地域を分けて担当する選手を決めているアタックでは、地域毎に最初にラックに入る選手が固定されているから、1~3番と6~8番のグループ分けもなくなっているようだ。


 ラックは、ラグビーをプレーしていたら絶対に避けられないプレーなので、好き嫌いを言える対象ではない。そして、ラックを制したチームはほぼ勝利を得ることができるので、プレーする側も見る側も、ラックを重要視することは変わらないと思う。


 試合が始まって両チームが無得点であっても、このラックの優劣を見れば、時間の経過によってどちらのチームが先に得点する可能性が高いかは、自ずと分かるものだ。

ゴールキック
 私はキックが下手だから、ゴールキックが上手い人は単純に尊敬してしまう。しかし、ラグビーの勝負がゴールキックで決まることは好きじゃない。ラグビーはやっぱり、トライで勝負が決まって欲しいと思う。


 昔はラグビーのゴールキックの成功率は低かった。そもそも今のようなティーを使わなかったし、キッカーは自分のスパイクで土を掘り起こしてボールを立てていた。その後バケツの砂が用意され、今のような人工の様々な形のティーが使われるようになった。人工のティーは、私も使ってわかったのだが、ゴルフのティーショットと同じに、かなり高いティーを使うことができるので、ボールの蹴るべきポイントに足をうまく当てやすくなっているし、さらにボールも上げやすくなっている。それが、今のゴールキック成功率が高くなっている理由でもあると思う。


 ゴールキックは、昔はつま先で蹴っていた。その後サッカー式に足先の横で蹴るようになった(サイドキック)。そして今は、そのサイドキックというよりも、上手く足の上に乗せて、まるでパントキックのように蹴っている。


 ゴールキックは、ゴルフのティーショットと同じで、メンタルの部分が重要だと言う。キッカーは、個人ごとのルーティンを決めて、それを確実にこなすことで毎回同じようにキックをして、ゴールを決めている。難しいと言われた、サイドからのキックも今は、上手くカーブを付けて蹴り込むのが珍しくなくなった。


 日本とアイルランドでは、ゴールキックのときに観客は静かにする。まるで、ゴルフのティーショットと同じだが、他の国や地域では相手チームのキッカーを邪魔しようとして、音を出す観客がいる。私は、やはり静かにすべきだと思っている。

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