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<ラグビー>ラグビーの愉しみ(その6)

リザーブ
 以上、先発15人をポジション毎に見てきた。次に16~23番のリザーブがいる。リザーブは、16番がHO、17番が左PR、18番が右PR、19番がLO、20番がFW3列、21番がSH、22番がSO、23番がバックスリーとだいたい決まっている。そして、16~21番までは、先発に入らない序列2位の選手の背番号となるが、22番と23番は、そうでない場合が多くある。つまり、ユーティリティープレヤーとしてのスーパーサブの役割だ。


 このスーパーサブとしてのプレーを、最も良く果たしていたのは、2015年RWCのボーデン・バレットであり、今ではダミアン・マッケンジーになる。この2人の共通点は、9~15番までどこでもできる器用さとスキルの高さに加え、ゲームの流れや空いているスペースを見る目があることだ。そして、そのスペースをアタックするための、自分自身のステップとスピードがあり、また周囲の人間を生かすことにも長けている。


 こういう選手が、疲労が溜まっている後半残り20分から100%のフィットネスで出てきたら、相手チームは非常に対応に苦労するだろう。実際、ボーデン・バレットとダミアン・マッケンジーの2人は、リザーブから入ることでオールブラックスの勝利に大きく貢献していた。

24人目以降の選手
 チームのうち、先発は15人、リザーブは8人。併せて23人が試合でプレーする。しかし、24人目以降の選手も沢山いる。それは、強豪チームになればなるほど、多くの選手を抱えているため、試合に出られない選手が多くなっていくからだ。しかし、そうした選手たちもチームの立派な一員だ。もし彼らを軽視するような雰囲気がチームにあれば、そのチームは優勝できるほど強くはなれない。一般に控えチームが強いほど、そのチームは選手層が厚くなるため、良いチームになる。


 また、選手以外の、コーチ、分析、マネージャー、メディアカルと言ったチーム関係者も、立派なチームの一員であり、彼らの存在なしには、良いチームはできないし、選手はプレーに専念できない。さらに、選手や関係者の家族、応援してくれる人々、チームの純粋なファンといった人たちも、同様に立派なチームの一員だ。


 良いチームとは、こうしたすべての人々が皆チームの勝利を願い、また勝利をともに喜べるチームだ。試合でプレーする23人以外は、チームじゃないような雰囲気があったり、選手たちがサポートしてくれる人々に感謝の気持ちを持っていないチームは、勝利から遠のくだろう。
ラグビーは、そういった点でも、個人では絶対に出来ない、真のチームスポーツであることを実感させてくれる。

勝った時
 試合に勝った時は、誰でも嬉しいものだ。例え試合中に良くないプレーがあったとしても、勝利の喜びは全てを消し去ってしまう。しかし、それでは、本当の勝利とは言えない。


 よく「勝って反省する」という言葉がある。勝った時にこそ、反省すべきことを見つけねばならない。もちろん、勝利を徒に否定することはない。勝利に貢献した選手や関係者を褒め称えるべきだ。それは、次の試合のモチベーションにもなる。また、褒めることをしないと選手や関係者から勝ちたいと思う気持ちがなくなってしまう恐れもあるので、勝って褒めることは重要だ。


 しかし、その祝う気持ちとともに、どこが悪かったかを見つけることは、同じくらいに重要なのである。

負けた時
 負けた時は当然嬉しくないし、気持ちが落ち込む。しかし、負けた時こそ、勝利へとつながるヒントが沢山ある。また悪いところが、いくらでも見つけられるので、次に備えた修正もしやすくなる。


 もちろん、負けは負けだから、そこに大きな価値を見出すことはできない。しかし、良い勝利の前提には、必ず良い反省ができる負けがあることを肝に銘ずべきだ。そして、負けを負けとしないためにも、勝利へと繋がる修正点を必死に見つけ、悪い点を直すために猛練習を繰り返すことによって、簡単に得られる勝利以上の、良い勝利を得られることだろう。

第4章 ラグビーをプレーする喜び

ボールを持って走る
 ボールを持って走ることが、なぜ楽しいかと言えば、それは人の根源的な喜びを想起させるからだと思う。つまり、原始時代、人が思い切り走るとすれば、猛獣などの危険から逃げる場合があるが、これは少しも楽しい経験ではない。一方、食料となる獲物を得た後、これを両腕に抱えて、他の猛獣や人の集団から横取りされないように、家族や集団の待つ場所へ、一目散に駆け出したとき、それは身体中に喜びがあふれかえっている走りだと思う。


 これは、そのままラグビーボールを持って走ることにつながる。意外なことだが、モノを持って走るというのは、他のスポーツでは陸上のリレーぐらいしか思いつかない。もちろん、ラグビーの近縁であるアメリカンフットボールもそうだが、これはボールキャリーと同等にパスキャッチが得点源になっている。


 サッカーは蹴るだけだし、バスケットやバレーボールは、ボールを持って走れないばかりか、相手の陣地へ叩き付けたり、ゴールの網に入れるという、モノを放棄することが得点につながっている。


 しかし、ラグビーは、サッカーのようなゴールキックという得点方法もあるが、基本かつ最大のものは、ボール(獲物)を相手陣地(自分の属する集団の居場所)に持ち込んで、落とすことなくタッチダウン(安置する)トライが最大の得点源だ。そして、トライするために、15人全員がボール(獲物)を持って走り、猛獣や別の集団(対戦相手)にボール(獲物)を取られそうになりながら、皆でボール(獲物)をつないでいくのだ。


 もし、独走する瞬間があれば、それはもう快感でしかない。ディフェンスをぶちかまして突破するのも、ラグビーならではの快感だが、これよりも独走(ボールを持って走り続ける)ことは、さらに大きな快感をもたらしてくれる。


 だからこそ、例えばタックルなしの、タッチフット、タッチラグビー、タグラグビーなども十分にラグビーの面白さを味合わせてくれるのであり、その理由は、原始時代の獲物を持って走る喜びを想起させてくれるからなのだ。

ボールを持たないで走る
 ボールを持って走ることが、原始時代の獲物を持って走ることを想起させるとすれば、その周囲でプレーしている、ボールを持っていないアタック側の選手たちも、同様な気分になっている。つまり、人類が集団で狩りをしていた時の状況と同様に、誰かが獲物を得るために周囲の人間が協力することにつながっている。


 またディフェンスでも同じだ。これは、獲物を得た集団から獲物を奪う行動でもあるし、ボールキャリアーが獲物と見れば、そのまま集団での狩りそのものになる。そういう点では、アタックよりもディフェンスの方が、原始時代の感覚をより強く想起させてくれるのではないか。


 だから、ボールを持って走るのが楽しいのと同等に、ボールを持っていないで走ることも楽しいのだ。そして、これは30人全員が走っていてこそ、楽しさを十分味わえる。だからこそ、キックとFWのゴリゴリだけの北半球のラグビーは、ラグビーとしての愉しさを半減していると考える。

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